新星・高校生コンビが台頭…なでしこジャパンに追い風 先輩も称賛「なかなか日本人ではいない…『お!いいな』と」【現地発】

なでしこジャパンはブラジル代表と2連戦を行った【写真:早草紀子】
なでしこジャパンはブラジル代表と2連戦を行った【写真:早草紀子】

ブラジル2連戦、17歳DF古賀塔子と18歳MF谷川萌々子の初招集コンビが好プレー

「イエロー(カード)をもらうくらいガツガツ行けてたし、なかなか日本人ではいないイエローのもらい方で『お!いいな』と思いました」

 4バックのセンターを任される南萌華(ASローマ)にこう言わしめたのは、なでしこジャパン(日本女子代表)に初招集された17歳の高校生DF古賀塔子(JFAアカデミー福島)だ。ブラジル遠征では2戦連続(11月30日ブラジル代表戦●3-4/12月3日ブラジル代表戦○2-0)でスタメンに抜擢。最初こそ緊張も窺えたが、早々に相手を削りに行ったことで落ちつきを取り戻す強心臓の持ち主だ。

 初戦は前半で退くものの、随所でブラジル攻撃陣を真向から跳ね返した。熊谷紗希(ASローマ)、平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)と並んでチーム最高身長の173センチ。しかしながら「ヘディングはちょっと苦手」(古賀)と、なんとももったいないことを言う。イエローカードをもらった場面も相手の頭まで足を振り上げてクリアしようとしたもの。ベンチからは「頭で行け!」と声が飛ぶも「とっさに足が出ちゃいました(苦笑)」(古賀)と反省しきりだった。しかしヘディングで競り勝つ姿も見られ、苦手意識があるものの、決して空中戦に弱いわけではない。

 フル出場した2戦目の後半に至っては、古賀の潰しがなければ失点につながっていたであろう場面が続出した。もちろん、1つ前のアンカー位置に熊谷がいることで古賀が思い切りチャレンジできたこともあるが、相手の進行を止めたあと、どれだけバランスを崩していても相手より先にボールに食らいついてかき出す一連のプレーは十分にフル代表でも通用することを証明して見せた。「楽しかったです!」と笑顔で2連戦を振り返った古賀にはツのワモノ感しかない。

 そして、ブラジルの観客をザワつかせたもう1人の高校生が、古賀と同じチームのJFAアカデミー福島に所属する18歳MFの谷川萌々子だ。

 彼女も展開力を期待され、限られた時間ではあったが両試合で出場機会を得た。初戦、ゴールに近い位置でボールを受けた谷川は迷うことなくドリブルで仕掛ける。「相手がうしろから体重をかけてきたので…ラッキーでした(笑)」(谷川)。緊迫したゴール前でも冷静な判断で反撃のきっかけとなるPKを獲得した。

 この時は試合前からキッカーが決まっていたこともあり、遠藤純(エンジェル・シティFC)が蹴ったが、谷川のキック力はおそらくなでしこジャパンでもトップクラスに引けを取らない威力がある。ボランチというポジション柄、遠目からのシュートも大好物。日本は小柄な中盤が多いなか、168センチのサイズ感も日本の新たな強みとなるかもしれない。

女子W杯でチームに帯同し「世界の舞台」を体感、同年代の選手らからも大きな刺激

 2人はこのブラジル遠征でなでしこジャパン初招集ではあるが、今夏の女子ワールドカップ(W杯)ではトレーニングパートナーとして帯同しており、ピッチに立つことはなくとも、すでになでしこジャパンの一員として世界の舞台を肌で感じている。なでしこジャパンとしてともに戦ったこの1か月は彼女たちにとって何ものにも代えがたい経験の連続だった。

 先輩から何かを掴み取ろうと全体練習が終わると谷川がFKの練習に、古賀が対人の練習に率先して飛び込んでいく姿は毎日の練習で見ることができた。また、彼女たちを掻き立てたものの1つに同年代の藤野あおば(19歳)、石川璃音(20歳)、浜野まいか(19歳)の存在があったことをW杯期間中に明かしている。

「まいかさんは自分が小学校の時から一緒にプレーしてきたので、その時から勝つために努力してる姿をずっと見てきてました。見習うべき存在です」と語ったのは古賀。谷川は「学ぶべきところもあるけど悔しさもあります」と本音がこぼれた。「この大会に向けての想いや努力があったからこそ、あおばさん、璃音さん、まいかさんはこの場所に立っている。それが自分には足りてなかった」(谷川)と表情を引き締めた。

 それから約1か月半後、代表としてピッチに立つチャンスが2人に訪れる。中国で開催されたアジア競技大会メンバーに招集されたのだ。時を同じくしてなでしこジャパンが国内でアルゼンチンと国際親善試合を行っていた関係で、“なでしこジャパン”と名乗ることはできなかったが、他国はフルメンバーで臨んでいた大会だ。谷川は抜群の存在感を発揮し5ゴールを挙げ、古賀は全試合スタメンに名を連ねる活躍に加え1ゴールをマークし、見事優勝に貢献した。

 注目すべきは、決勝の相手がアジア最終予選の相手でもある北朝鮮だったこと。谷川は「フィジカルで負ける気はしない」という言葉どおりのプレーでゴールを決めた。北朝鮮を退けた経験はパリ行きを目指す日本にとっても有効なはずだ。

反省点とともに充実感いっぱい「身体を張る自分の特長を生かし最後は無失点にできた」

 そうした布石があっての、今回のブラジル遠征。なでしこジャパンとしてピッチで躍動する2人の姿を切望していた人は多いだろう。2人はその期待に応える十分なプレーを見せてくれた。

「ブラジルは身体能力も高く、足がどこから出てくるか分からないなかでも、ビルドアップはもっとビビらずにやれるんじゃないかっていうところは反省点ですが、身体を張る自分の特長を生かして最後は無失点にできたことは良かったです」と、古賀は充実感いっぱいの笑顔でスタジアムをあとにした。

 今回、ブラジルと渡り合えることを示した2人。目下、U-20女子W杯での優勝を目標に掲げているが、ここで来年2月のパリ五輪アジア最終予選メンバーの有力候補に名乗り出た。となれば当然、その先に見据えるのはパリ五輪だ。若い世代からの突き上げは必ずチームを強くする。頼もしい戦力の台頭はアジア最終予選へ向けて大きな追い風となるだろう。

早草紀子

はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。

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