W杯経験の土肥洋一氏、大迫敬介を絶賛「あの集中力の高さは能活を見ているよう」

　国際Aマッチ8連勝と快進撃を続ける森保一監督率いる日本代表。各ポジションでさまざまな選手がテストされているなかで、GKは大迫敬介、鈴木彩艶、中村航輔の三つ巴の様相となっている。2018年から2023年までJ2レノファ山口でGKコーチを務め、来季も指導者として活動継続のために現在所属先を探している元日本代表GK土肥洋一氏に、現在の代表で注目するGKを挙げてもらった。（取材・文＝石川遼／全4回の2回目）

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　土肥氏は現役時代に柏レイソル（前身の日立製作所を含む）、FC東京、東京ヴェルディでプレー。2003年からはコンスタントに日本代表に選出され、2006年のドイツ・ワールドカップ（W杯）大会出場メンバーにも選ばれた。当時の代表では川口能活、楢崎正剛という世代を代表するGKが熾烈なポジション争いを繰り広げていた。

　土肥氏は「今はGKに関しても足もとの技術がないとダメというのが先にきますけど、やっぱりしっかりシュートを止める技術に目をつむることはできないと思います。僕の時代には能活やナラ（楢崎正剛）、ソガ（曽ヶ端準）、都築（龍太）といったいろいろな選手がいました。彼らもみんな足もとが上手かったけど、やっぱり一番はシュートを止めていた」とGKに求められる能力や役割に変化が起きている現代においても、やはりシュートストップの技術の高さは重要だと語る。

　そうしたなかで、目を引かれる選手としてまず挙げたのはサンフレッチェ広島の大迫敬介だった。試合に向けて本番モードへ切り替える大迫の姿は、日本代表のレジェンドである川口に重なるのだという。

「大迫選手は、彼が18歳の時に見ているんです。U-18日本代表のGKコーチで行かせてもらった時で、そのチームには京都のGK若原選手（智哉）もいました。その時は若原選手のほうが調子が良さそうで、監督にも次の試合は若原選手でどうですかと提案していました。ですが、試合直前になると大迫選手の集中力がすさまじく、『こんなプレーしてたっけ？』と思うくらいにパフォーマンスが上がってきたんです。結局、試合に出たのも大迫選手でした。シュートストップの技術はもちろんですが、あの集中力の高さは現役時代の能活を見ているようでした」

中村航輔と鈴木彩艶にも注目「ゾーンに入る力が優れている」

　アスリートが極限まで集中することを“ゾーンに入る”と表現される。まさに川口は“ゾーンに入り込む力”が際立った選手だった。それを象徴するのは、サッカーファンの間では語り草になっている2004年のアジアカップ準々決勝のヨルダン戦だろう。

　この試合は1-1の同点のまま延長戦でも決着がつかず、PK戦に突入。日本は1人目のMF中村俊輔、2人目の三都主アレサンドロが立て続けに失敗して絶体絶命の状況を迎えていた。荒れたピッチの状況を見たキャプテンのDF宮本恒靖が主審にエンドの交代を直談判したことでも有名なこのPK戦だが、チームを救ったのが川口の連続スーパーセーブだった。PKスコア2-3で迎えた4人目の強烈なシュートを左手一本で防ぐと、さらに3-3のサドンデスで迎えた6人目のキックも右手1本でセーブし、劇的勝利を呼び込んだ。

「あの時も練習ではナラのほうが調子が良さそうで、傍から見てても『今日の能活はどうなんだろう？』と思うくらいでした。でも、PKになった瞬間、能活は尋常じゃない集中力を見せました。あの試合だけじゃなく、どれだけ調子が悪くても試合になったらまるで人が変わったかのようなプレーを見せる。それと似た部分が、大迫選手にはあると感じるんです」

　このように話す土肥氏が、大迫と並んで「能活と同じ匂いがする」選手としてもう1人名前を挙げている。それが、ポルトガル1部ポルティモネンセでプレーする中村航輔だ。最近は所属クラブでもなかなか出番を得られずにいるが、その秘められたポテンシャルに大きな期待を寄せている。

「中村選手も能活と同じで、ゾーンに入る力が優れているGKだと感じます。背はそれほど大きくないですけど、そこをジャンプ力や筋力でカバーして、欧州でも戦えるレベルに持っていっている。ゾーンに入るには普通、何か大きなきっかけが必要なんですけど、彼ら（大迫選手と中村選手）は自分からゾーンに入るためのスイッチを持っているんだと思います」

　大迫（188センチ）、中村（185センチ）は、川口（180センチ）と同様に身長は180センチ台と決して身体は大きくないが、優れた反射神経を武器にトップレベルで戦っている。この2人にベルギー1部シント＝トロイデンの鈴木彩艶（190センチ）も含めた3人が森保ジャパンで先発の座を争う。

「能活とナラの時代はやっぱり凄かった。お互いに競い合って2人が築き上げたもので、そこに誰も割って入っていけないっていう一時代を築いた。これから大迫選手、中村選手、鈴木選手がどういった時代を作っていくのか注目しています」

　土肥氏は日本のゴールマウスに君臨する絶対的守護神の誕生に期待を寄せていた。

［プロフィール］
土肥洋一（どい・よういち）／1973年7月25日生まれ、熊本県出身。大津高―日立製作所／柏レイソル―FC東京―東京ヴェルディ。日本代表通算4試合、J1通算341試合、J2通算97試合、JFL通算15試合出場。2004年にナビスコカップMVP、Jリーグベストイレブンを受賞。2000年から06年までJリーグ216試合連続出場記録（当時）を打ち立てた。06年ドイツW杯でメンバー入り。第一線で長年活躍し、12年シーズン限りで現役引退。13年から東京Vの育成GKコーチやトップチームGKコーチを歴任。U-18日本代表GKコーチも務め、18年から23年までレノファ山口FCのトップチームGKコーチも務めた。

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