欧州挑戦→ドイツ4部でプレーの日本人、現地クラブ職員に転身のワケ 「興味あるだろうか?」で決断【インタビュー】
ドイツ2部デュッセルドルフ職員として活躍する廣岡太貴氏、多岐にわたる仕事で貢献
日本人プレーヤーが多く在籍するドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフで、クラブのフロントスタッフとして活躍しているのが廣岡太貴氏だ。サッカー選手としてドイツへ渡った若者が、なぜデュッセルドルフで働くことになったのか。その経緯や現在の業務内容について話を聞いた。(取材・文=中野吉之伴/全5回の1回目)
◇ ◇ ◇
ドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフは日本人との縁が深いクラブとして有名だ。
これまでにFW大前元紀(南葛SC)、MF原口元気(シュツットガルト)、FW宇佐美貴史(ガンバ大阪)らがトップチームに所属していたことがあるし、今もクラブ生え抜き選手であるMFアペルカンプ真大をはじめ、日本代表MF田中碧、U-22日本代表DF内野貴史が活躍中。セカンドチームにあたるU-23や世代別チームにも目を向けると、その数はさらに多くなる。今夏にはJFAアカデミー福島からDF西眞之介がU-23チームに加入した。
デュッセルドルフでフロントスタッフとして活躍する日本人がいることをご存知だろうか。
廣岡太貴(33歳)は、クラブのスポーツ&コミュニケーション部日本コミュニティーマネージャーとして、多岐にわたる仕事を1人でこなしている。
「仕事内容は、まず広報活動ですね。ホームページ、X(旧ツイッター)などSNSを通して日本語で発信していくことと、あとはスポンサー企業関連。ここはすごくクラブからも求められて部分ですね。あと今は田中選手をはじめ日本人選手がいるので、チームに帯同してサポートしたり、そこから広報活動したりというのが割合的には一番多くなっています」
廣岡がデュッセルドルフで働くようになったのは2020年。それまで12年間にわたりデュッセルドルフでフロントスタッフとして尽力した瀬田元吾の跡を継いだ。
元々、廣岡も選手としてのステップアップを夢見て渡独した若者だった。大阪体育大学サッカー部でプレーしていた2013年、卒業後にドイツでサッカーをすると決意し、在学中にドイツへ渡りトライアルに参加。そんな廣岡のプレーが1人の指導者の目に留まった。たまたまトライアルを見に来ていた当時デュッセルドルフU-23監督で、現在はスカウトチーフを務めているゴーラン・ブチッチは廣岡のプレーを気に入り、すぐに契約をまとめ上げたという。
「一回日本に帰って、翌シーズンのスタートに合わせてドイツへ来たのですが、半年後に足首を負傷して4か月間離脱になってしまったんです。シーズン後には移籍することになり、それがブレーメン近くにあるBSVレーデンという4部クラブでした」
レーデン移籍後最初の公式戦がドイツカップ1回戦で、相手がなんとバイエルン・ミュンヘン。それもペップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ監督)就任後最初の公式戦ということで注目度も非常に高い試合だった。試合には負けたが、そこで得た経験は計り知れないほど大きいものだったことだろう。
丁寧かつきめ細かい対応で勝ち取った信頼、日本企業ともスポンサー契約
4部で奮闘する生活が2年ほど続いたが、2部や3部クラブへのステップアップはなかなか見えてこない。指導者への道を探ったり、いろいろとセカンドキャリアについて考えていた頃、瀬田から連絡があった。
「ちょっとプライベートの話になりますが、僕はドイツ人の方と付き合っていて、その人と結婚しました。こっち(ドイツ)に残ろうというなかで、瀬田さんから『実は日本に帰ることになった。デュッセルドルフの日本デスクの後任が必要なんだが、興味あるだろうか?』という連絡をもらったので、『やります!』と受けました」
新しい世界での新しい取り組み。思い通りにいかないことで焦ったり、戸惑いや苦しみもあるだろう。自分の努力だけではどうにもならないことだってある。マーケティングやセールスですぐに結果が出ないことも普通にある。
「やっぱり感じるのは時間って必要だなっていうことですね。セールスや営業とかになると時間をかけて信頼関係を築いて、というのがすごく大事。やっぱり僕という人をじっくりと知ってもらうというのがとても大事になってきますね。マーケティングやセールスのチーフからも『まずはしっかりコミュニティーとのコンタクトを広げること。そこからだよ』って言われています」
その言葉通り、廣岡の丁寧できめ細かい対応は少しずつ方々からの信頼を勝ち取っている。日本企業とのスポンサー契約も取れたという。
「ありがたいことに今季から丸紅さんと三井化学さんが新規でスポンサーになってくれました。徐々にコミュニティーが大きくなってきているのかなっていうのは自分の中でも感じています。もちろんまだまだなんですけど」
クラブを支えるのは選手だけではない。さまざまなスタッフがいて、さまざまな関わり合いでクラブを助けているのだ。瀬田が築いたベースの上で、廣岡は新しいつながりを生み出している。
デュッセルドルフと日本とのつながりが、今後ますます太くなっていくことを期待したい。
(文中敬称略)
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。