東京Vが握ったJ1昇格への道筋 壮観な風景を見つめるキャプテンの涙…最後に崩した安堵の笑顔【コラム】
【カメラマンの目】攻める清水と、失点後も冷静だった東京Vの姿
負けなければ良い東京ヴェルディと勝たなければならない清水エスパルス。J1リーグ昇格を賭けた試合は、それぞれチームが置かれた立場が表すように清水が攻め、東京Vが守る展開で進む。
ゴール裏からカメラのファインダーを通して見る清水は、ボールをキープする時間を短くし、それでいてゲームを支配することを強く意識しているように感じられた。選手が必要以上にボールを持てば、高いディフェンス力を誇る東京Vの守備網の罠に嵌ってしまう。それでいて昇格に向けての唯一の方法である勝利にはゴールが必要になる。この状況から清水は東京Vの守備網を交わすためにボールキープを極力減らし、そしてピッチをワイドに使ったシンプルなパス攻撃で得点を目指しているように見えた。
ただ、理論的にはこうして簡単に説明できるが、こうしたスピードに乗った連係で、相手の急所を鋭く突くプレーは、選手間による意思の疎通と、それを遂行する個人の技術が必要となり簡単なことではない。
しかし、清水は東京Vのマークを掻い潜り、選手同士の動きを常に意識し、素早く前線へとボールを運ぶスタイルをゲームメーカーの乾貴士を中心に実践する。前半の序盤は清水ペースで試合が進んでいった。
前半30分が過ぎるころには、清水の攻撃により備えるように東京Vの守備意識がさらに高まっていく。清水はボールをキープしながらも、バイタルエリアに進出できない。東京Vの素早いマークを受け横に逃げるパス回しが増えていく。
こうなるとゲームの主導権を握っているものの、試合は東京Vのペースと言えたのかもしれない。時間の経過とともに膠着していった試合は前半を0-0で終了する。後半に入ると試合開始からフルスロットルで仕掛けていた清水の攻めも、さすがに陰りが見え始める。後半15分あたりを迎えると前線のブラジル人選手の運動量が落ちていく印象を受けた。ただ、清水のゴールはこの攻撃が手詰まりに見えてきた時間帯に生まれる。
劣勢の時間帯も高い守備意識を持って凌いでいた東京Vにとっては痛恨の失点となり、逃げ切りを図る選手交代を繰り出す清水の前にこれで勝負あったかに見えた。
東京Vは運命の試合の頂点となる場面を絶体絶命の状況となったアディショナルタイムに執念で作り出す。リードを許しても浮足立つことなく東京Vの選手たちはプレーを続けた。力技に出ることもなく、ゴール裏から見ていても同点を狙うための攻撃は焦りがなくボールを確実につないでいく。そして、この攻撃が実を結ぶ。
スタンドを埋める東京Vサポーターを見つめるキャプテン森田
劇的な同点弾によるJ1昇格。試合後、サポーターたちと喜びを分かち合うため、列をなす選手たちの一番端にはスタンドを見つめるキャプテンの森田晃樹の姿があった。フラッシュインタビューでは感極まり涙を見せた森田だが、スタンドを埋める東京Vサポーターたちの壮観な風景をしみじみと見つめる彼の表情は、チームを牽引する立場の重責を担い戦い続けてきたことから解放されたかのように、喜びよりも安堵感に包まれていた。
サポーターに向けて言葉を短く発すると、控え目な喜びのダンスを見せて列に戻った森田に向かって「東京Vのサポーターは、こんなにたくさんいるんですね」と思わず声をかけてしまった。
東京Vの新たな歴史の1ページ目を目撃したサポーターたち。そして、新たな歴史を紡いでいく選手たち。その中心となるのが生え抜きで東京Vを支えてきた森田だ。城福浩監督に続き仲間たちから胴上げされると、23歳の青年はこれ以上ない笑顔を浮かべていた。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。