勝者にも敗者にも厳しい来シーズン J1昇格プレーオフ決勝戦に待ち受ける「闇」【コラム】
J1昇格プレーオフ決勝は東京Vと清水が対戦
J1リーグ昇格の最後の1枠を争う、「J1昇格プレーオフ」決勝が12月2日に開催される。来年度からJ1の構成が20チームに増加するのに伴い、今年はプレーオフ勝者とJ1下位クラブとの入れ替え戦はない。そのため、この試合の勝者は自動的にJ1に昇格できる。例年に比べると大きなチャンスのある試合だと言えるだろう。
決勝で対戦するのは東京ヴェルディと清水エスパルス。結果的にはJ2リーグの3位(東京V)と4位(清水)の戦いになり、リーグ戦での強さを証明したということになった。だが、両者がここに出揃うまでにもドラマがあった。
最終節の1節前、第41節まで清水は勝ち点73で2位、3位はジュビロ磐田で勝ち点72、4位は勝ち点72と同一ながら得失点差で20の差を付けられていた東京Vだった。そして迎えた最終節、磐田が栃木SCを2-1で、東京Vが大宮を2-0で下したのに対し、清水は水戸に1-1と痛恨の引き分けに終わった。
これで自動昇格の枠から清水がこぼれ落ち、同じ静岡県内の磐田がその座に取って代わった。清水にとってみれば、プレーオフの準備をしつつも自動昇格に向けて全力を注いできたところでの、この東京Vとの対戦になったはずだ。
一方の東京Vは全42節のうち、自動昇格圏内の順位だったのが8節、プレーオフ圏内にいたのが32節と安定した力を見せた。第26節以降は2位以上に上がることはなかったため、じっくりとプレーオフへの準備を整えられたことだろう。
今季のこの両者のチームカラーは好対照だ。東京Vはリーグ戦での総失点数が31点とリーグ最少。得点力はリーグ9位と苦しんだが、堅い守備力で安定した力を発揮した。対する清水のリーグ得点数78点は、圧倒的な力で優勝と昇格をものにしたFC町田ゼルビアの79点に次ぐ2位。しかも失点数は34点とリーグ2位の少なさを誇る。圧倒的な得点力で守備を助けてきたと言える。
プレーオフを除く直近5試合に挙げた勝ち点は、東京Vが9点、清水が7点とやや東京Vに分がある。その間に東京Vは8得点3失点で、清水は14得点5失点と、これまた両者の違いを表すデータになっている。
リーグ戦では東京Vが序盤から安定した戦いを見せていたのに対し、清水は開幕当初苦しんだ。一時は19位まで順位を下げたのだ。だが今季のJ2でもトップクラスの強化費をかけたJ1チーム並みの選手層を生かし、ジャンプアップを果たした。
データ上は東京V有利か
こうしてデータを並べて考えると東京Vがやや有利に思われるが、リーグ戦では清水が2勝している。
第8節に清水のホームで対戦した時は、前半6分に東京Vの林尚輝が先制したものの、前半アディショナルタイムに北爪健吾が同点とし、後半45分にオ・セフンが決勝点を決めるという劇的な展開になった。東京Vにとっては前半37分に梶川諒太が負傷交代したことが響いた。
第29節に行われた東京Vのホームゲームは緊迫した試合になった。前半35分、鈴木唯人がこの日唯一のゴールを挙げて清水が逃げ切ったのだ。第8節のゲームが両チーム合わせてシュート21本が飛び交ったのに対し、この試合は両チーム合わせてシュート12本。上位対決にふさわしい、一瞬の隙が勝敗を決めるというゲームだった。
また、「オリジナル10」同士の対決ということもあって、この両者はここまでにJ1で34試合、J2で4試合、リーグカップ戦で11回戦っている。そのうち、今回の舞台である国立競技場で対戦したのも9回あり、リーグ戦では東京Vの3勝1分1敗、リーグカップ戦では東京Vの3勝1分0敗と、圧倒的に東京Vが有利だ(PK決着は引き分けとしてカウント)。
ただし、国立での東京V(ヴェルディ川崎)戦は清水にとって栄光の時でもある。1996年リーグカップ(ヤマザキナビスコカップ)の決勝は、清水が2点を先行したものの、後半45分からV川崎が2点を奪って延長戦に突入した。延長前半早々に清水が1点を挙げて勝ったかと思われたが、V川崎も延長後半開始直後にゴールを挙げて同点に。結局PK戦でV川崎は2番手のマグロンが外したのに対し、清水は5人がしっかり決めて、初めての栄冠を手にしたのだ。
ほかのチームよりも来季のチーム編成に後れ
これまでのどの対戦も名勝負となった両チームなだけに、今回のプレーオフ決勝もきっと素晴らしい試合になるに違いない。しかし、どんな試合になったとしても、勝者にも敗者にも厳しい来シーズンが待っている。
というのも、J3リーグからの昇格1チームを除くと、J1とJ2で来季どのカテゴリーでプレーするのか決まっていないのはこの2チームだけ。両チームとも指揮官の続投を発表していないのは、この1試合で監督交代が決まる可能性があるということだろう。来シーズンがどんな体制で行くのか、まだはっきりしていないということになる。
現在所属している選手がどうなるかも分からない。プレーオフの準々決勝にはこれまでのどんな試合よりも多くのスカウトが集まっていた。もしもJ2に残留することになったら、当然ほかのチームから声が掛かるだろう。プレーオフに出場したことで能力の高さは証明できているのだ。
さらに、補強をするにしても、来シーズンどのカテゴリーに所属するかで当然強化費は変わってくるだろう。興味のある選手に打診はすることができたにしても決定というわけにはいかないはず。当然ほかのチームよりも来季のチーム編成は後れを取ってしまっている。
つまり、J1に昇格できたとしてもチーム編成は苦しみそうだし、J2に残留することになってしまったら、主力選手は抜かれてしまう可能性がある。上を見ても下を見ても、そこには闇が迫っている。そんな恐ろしい試合がこのプレーオフ決勝戦なのだ。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。