エデルソンVSアリソン プレミア首位攻防戦…“近代版GK”が「伝統的」守護神として示した存在価値【現地発】

シティのエデルソン(左)とリバプールのアリソン 【写真:Getty Images】
シティのエデルソン(左)とリバプールのアリソン 【写真:Getty Images】

両軍GKの対決に見応えが詰まったシティ対リバプール

 地味な一戦だった。11月25日、プレミアリーグ第13節でのマンチェスター・シティ対リバプール(1-1)。もちろん、抜群に攻撃的な両軍対決にしては、という話ではある。

 前半27分のシティ先制点は、アーリング・ブラウト・ハーランドによる一撃必殺のシュートだった。プレミア史上最短となる通算48試合目でリーグ戦50得点に到達した瞬間でもあった。トレント・アレクサンダー=アーノルドによる後半35分の同点弾は、セーブ不能なゴール左下隅へのミドル。リバプール前線の花形、モハメド・サラーがアシストをこなしている。

 とはいえ、そのサラーも相手の主砲ハーランドも比較的静かだった90分間。試合当夜、BBCテレビで放送されたハイライト番組「マッチ・オブ・ザ・デー」での順番にしても、プレミア首位攻防戦でありながら、当日の全7試合のうち最後から2番目という扱いだった。

 しかしながら、今季も優勝候補の本命と目されるシティと、昨季5位から優勝争いへの復帰を予感させるリバプールを、最後尾で支える両軍GKによるライバル対決としては見応えがあった。言うまでもなく、エデルソンとアリソンは、始点となってビルドアップに絡むパス能力を持つ近代的なGKの代表格だ。だが同時に、伝統的な「守護神」としてもワールドクラス中のワールドクラスにほかならない。

 プレミアでは、サッカー界の時流に乗って後ろからつないで組み立てるスタイルを志向するチームが増えている。この変化に伴い、GKの「足元」が重視される一方で、“手元”が軽視されているのではないかと思える場面が目に付くようになってきた。

 例えば、今夏にローン移籍でブレントフォードからアーセナルに呼び寄せられたダビド・ラヤ。過去2シーズン、セーブを重ねてチームのトップ4復帰に貢献したアーロン・ラムズデールとナンバー1の座を競っているが、第9節チェルシー戦で、ミハイロ・ムドリクのクロスが頭上を超えてゴールに吸い込まれた失点などは、自軍サポーターの間でも新GKのポジショニングが問題視された。

マンチェスター・ユナイテッドでは、ダビド・デ・ヘアの後を受けたアンドレ・オナナがパンチングをボールではなく相手FWに見舞った。開幕節ウルヴァーハンプトン戦から守り損ねを連発。身を投げるタイミングを誤り、勢いのないシュートでネットを揺らされた第8節ブレントフォード戦での失点シーンは、ラジオの実況解説で「少年サッカーでもあり得ない」と酷評される有様だった。

終始研ぎ澄まされていたエデルソンの神経

 その点、シティとリバプールの両GKは、自軍の攻撃を始めるだけではなく、敵の攻撃を止める存在としても絶対的に頼もしい。ボールを支配して主導権を握り続けるチームでは、攻め込まれること自体が少ないという見方はあるだろう。しかし、だからこそ逆に難しい部分もある。エデルソンは、シティが3冠を成し遂げた昨季CL優勝後に言っていた。

「ほとんどボールに触れないまま終わるような試合でも、キーパーとして忙しかった試合以上の疲れを感じる。それだけ、集中力を高めたままでいるのは大変なんだ。枠内シュートが飛んでこないような試合なんて、特に。余計に集中力が大切になる。常に研ぎ澄まされた状態でいないと、いざという場面で確実に反応できない」

 そのシティGKの神経は、この日も終始研ぎ澄まされていた。リバプールが先制のチャンスを手にした前半16分、ゴール左上隅へと向かったダルウィン・ヌニェスのヘディングシュートは、エデルソンがジャンプしながら伸ばした右手によって弾き出された。同35分、ヌニェスがニアポストへのスルーパスに走り込んだ場面でも、素早く距離を詰めてシュートコースを消している。

 シティの1点リードで終えることになった前半は、エデルソンがピッチ上のベストプレーヤーだった。同44分、自軍プレーメーカーのベルナルド・シウバへと、リバプールのMF陣を一網打尽にして送ったフィードは圧巻。追加点の絶好機が生まれている。だが、最終的にフィル・フォーデンが放った低弾道シュートは、反応鋭く自らの左へと飛んだ相手GKによってポストの外へと弾かれた。

失点関与も心の芯はぶれなかったアリソン

 このアリソンによるセーブは、動揺があっても不思議ではなかった展開だっただけに尚更、「さすが」と感じさせた。前半11分に生まれた両軍を通じて初の決定機は、フィードをフォーデンにカットされたリバプールGKのミスによるものだった。正面をついたシュートが両腕の中に収まって事なきを得たものの、その16分後には、やはりキックのミスが実際の失点につながってしまった。軸足を滑らせ、ボールが山なりに相手DFへと届いたパントキック失敗が事の発端だったのだ。

 ハーランドのシュートが決まると、記者席では「横っ飛びで触っていたのだから」と、アリソンの“セーブ失敗”を問う声も聞かれた。だがここは、迅速かつ完璧な2タッチでシュートに持ち込んだ相手センターフォワード(CF)を褒めるべきだろう。アリソンに期待される、セービング水準の高さが言わせた厳しい意見だったと思われる。

 昨季、チームに見込まれた失点をアリソン以上(10.1点)に防いだGKは、欧州5大リーグでも見当たらない。筆者に言わせれば、現状チーム3番手の年俸が、サラーに続く2番手タイ(もう1名はフィルジル・ファン・ダイク)へと引き上げられて然るべき中心人物だ。

この試合でも、珍しく足元には狂いが生じたが、心の芯はぶれなかったアリソンのセーブが後半の敗戦回避を可能にした。相手ゴール前では、エデルソンも立ちはだかった。ハーフタイム明け早々の後半6分、コーナーキック(CK)からクロスが放り込まれると、人混みの中でも両手で余裕のキャッチングを見せるシティGKの姿があった。試合を重ねるごとに呼吸の良さを増すサラーとヌニェスのコンビによる同27分のチャンスも、エデルソンによって消滅した。

 その間、アリソンにはスカイスポーツの中継で解説を務めたガリー・ネビル氏に、「失点を免れてラッキー」と言われる場面があった。CKからのクロスをファンブルして、ルベン・ディアスに押し込まれた後半24分の出来事だ。

 しかし、リプレーを見れば、競り合ったマヌエル・アカンジが腕をかけたキーパーチャージ。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)でも「ノーゴール」の判定が認められた。誰もが認めるファインセーブは、その10分後。ジェレミー・ドクの折り返しにハーランドがゴール前至近距離で合わせたが、シュートは瞬時に身を屈めて対処したアリソンに跳ね返された。その流れからボールは相手コートへと運ばれ、26秒後にリバプールの同点ゴールが生まれている。

 試合は引分けに終わり、リーグ首位には3位だったアーセナルが浮上する結果となった。だが両軍にすれば、互いに負けなかった事実に納得できる、前半戦における強豪同士の上位対決だ。その意義ある1ポイント獲得のなかで、両軍GKも改めて存在意義を示した。今では攻撃面でフィールド選手の一員としての働きも求められるポジションの担い手は、「自軍ゴールの番人」としての第一任務を全うすることができるからこそ、“ゴールキーパー”と呼ばれるのだと。

page1 page2

山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング