代表監督として「大切な3つのこと」 結果を残す現役指揮官が力説「これは当たり前のことではない」「そこで差が出る」【現地発】

オーストリア代表を率いるラルフ・ラングニック監督【写真:ロイター】
オーストリア代表を率いるラルフ・ラングニック監督【写真:ロイター】

EURO予選を突破、オーストリア代表監督ラルフ・ラングニックが語る「代表監督論」

 代表監督は時間がないと言われるし、そう口にする監督も少なくない。

 ドイツ代表前監督ハンジ・フリックもよく言っていた。そして今、ドイツ代表を率いるユリアン・ナーゲルスマン監督も、その大変さをまざまざと感じていることだろう。

 では上手くいっている代表チームは、どのようにチームマネジメントをしているのだろうか。条件は大方一緒だ。年間スケジュールはタイトで、クラブチームで過密日程を戦っている選手たちも少なくない。

 フィジカルコンディションだけではなく、メンタルコンディション、思考コンディションも常に最適な状態にしておくのは困難極まりない。そんな環境だからこそ、代表で活動する意義を明確にし、やるべき意図を整理していく作業がとても重要になる。

 オーストリア代表監督ラルフ・ラングニックは就任から1年7か月が経ち、充実の活動をしている。ベルギー、スウェーデンと同組になった2024年欧州選手権(EURO)予選を2位で突破し本戦出場を決めただけではなく、ピッチ内外で選手との厚い信頼関係を築けているのが大きい。

 そんなラングニックが「代表監督において大切な3つのこと」について話をしていたことがある。あれは23年7月にブレーメンで開催されたドイツサッカー協会A級、プロコーチ(S級)ライセンス保持者対象の国際コーチカンファレンスでのことだ。

 壇上で司会進行役の質問に答えながら話をするという形式で行われ、1000人近く集まった指導者は静かにその話を聞いては、時折メモを取ったり、我が意を射たりとうなずいたり、時に拍手を送ったりしていた。

「私は代表監督として3つの非常に重要な仕事があると思っている。1つ目は選手が喜んで代表活動に来たいと思い、代表での活動を楽しみにしているかどうかだ。これは当たり前のことではない。所属クラブにおける立ち位置がそれぞれ全く違うのだから。それぞれのリーグではライバルチームでプレーしていたりもする。だからこそ代表チームには、それぞれが確かな自由な空間を感じられる雰囲気が必要になる。代表チームの仲間と会えることを喜びとして感じてもらえるようにね」(ラングニック)

 普段との違いが戸惑いやストレスになれば、チームは機能しづらい。普段との違いが刺激や好奇心になれば、そこからさらなるエネルギーが生まれる。誰かに要求されなくとも、自分の内からのモチベーションが原動力になっている現場は活気があふれ、そしてグループダイナミックがさらなる相乗効果につながっていく。

何を求めているか明確に伝える「これはすべての代表チームに当てはまることだ」

 さらにラングニックは言う。

「2つ目は、選手は緊張感の中にいなければならないし、その中でもサッカーに対して落ち着いて、頭の中はフレッシュでいなければならないという点だ」

 緊張が小さすぎても大きすぎても好パフォーマンスにつながらないことは心理学で頻繁にテーマにされるポイントだ。メリハリがはっきりし、やるべき時にフォーカスへと気持ちが真っ直ぐ向く空気感があるかどうか。そして、そのなかでやるべきこと、やらなければならないこと、状況に応じてやってもいいことがどこまでクリアに整理されているかが鍵となる。

「そして3つ目。これはすべての代表チームに当てはまることだ。代表は不定期の活動。だからこそ非常に精密にマッチプランをチームに届けられなければならない。クラブと違い、まさにそこが代表チームで困難なところだ。そして他国も同じ条件だから、そこで差が出る。私もどのようにプレーしたいかを極めてはっきりとするようにしている」

 代表監督はとにかく時間がない。2~3か月に数回のトレーニングだ。だからこそ大事なのは、クラブ監督以上に自分たちのやるべきサッカーを明確に伝えられることだと、ラングニックは主張するわけだ。

「クラブで1~2週間かけてやることから本質的な要素を抽出して、トレーニングに落とし込むことが重要だ。代表監督はチームがどのようにプレーすべきで、選手に何を求めているかを非常にはっきりと知っていなければならない」

 はっきりと明確に伝えるためには、いつ、どのタイミングで、どんなアプローチで、どのように伝えたら、選手がどのように解釈して理解して、それがピッチ上のプレーに現われるかのイメージの精度が問われる。ラングニックはさまざまな経験を経て、総合的なチームビルディングを手にしたのだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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