J1初制覇・神戸なぜ強者に? 「僕たちとまったく逆の姿」…名古屋サイドから見た“似て非なる”堅守速攻の凄み【コラム】
同じ堅守速攻スタイルながら、神戸と名古屋で鮮明な差
J1リーグ第33節の試合前、名古屋グランパスの長谷川健太監督はこの上なくシンプルに「神戸は大迫、武藤」と断言していた。前回の対戦前にも同じようなことを言っていたと思う。22得点を挙げ、ポストプレーや守備でも貢献度が高いFW大迫勇也と、10得点で同じくハードワークで身を粉にできるFW武藤嘉紀は間違いなく神戸の強さの象徴だ。
今季の対戦相手全チームが「いかに彼らを抑えるか」をテーマに戦術を練ってきたのは疑いようのない事実だろう。試合の質としてはかなり苦しかった名古屋とのホーム最終戦でも、だからこそ彼らの存在感は大きく、実際に大迫には2アシスト、武藤には1得点を決められ勝利の立役者となられている。
今季の名古屋との対戦成績(リーグ戦)は1勝1分、名古屋のホームではDF藤井陽也の劇的同点弾で2-2と引き分けたが、神戸の得点は大迫の1得点1アシストとやはり大迫にやられている。もはや天敵に近い存在の神戸のエースだが、かと言っていわゆる“ワンマンチーム”の印象はそこまでない。
名古屋もFWキャスパー・ユンカー、あるいは夏以降の低迷の主要因と言えるFWマテウス・カストロ(→アル・タアーウンFC)が攻撃を牽引し、全体としてハードワークを軸に置いて戦うチームという共通点を持つが、名古屋のそれがほぼ攻撃に特化した存在であることに対し、神戸の大迫と武藤は守備でも貢献度が高いのが大きな違いだ。それは良い悪いで判断する部分ではなく、チームの特徴やスタイルに合わせたものではあるが、守備でも味方を助けられるところで大迫と武藤の価値はさらに上乗せされる。
優勝を決めたノエビアスタジアム神戸での戦いも、防戦一方になるなかで武藤は足が攣ってもボールへのチェイシングを止めず、大迫はチームメイトの疲労度を考慮したボールキープやクリアボールの空中戦をサボることなく繰り返していた。
攻撃になれば彼らの能力は当然のごとく名古屋にとっての脅威となり、2選手ともに時間が作れるので味方の攻め上がりを促して厚みのあるアタッキングサードを生み出せる。先制点はDF本多勇喜のスローインから始まったペナルティーエリア角の攻防から、浮き球を大迫が収めてMF井出遥也へのラストパスを通してみせた。
大迫なら収めて出してくれる、という信頼を感じる井出のランニングは、豊田スタジアムで行われた前回対戦時における神戸の2点目、MF佐々木大樹のファー詰めにも重なる神戸の強みだ。ボールを奪われず、パスも選べる選手の周囲にはゴールへ向かう動きが生まれる。
名古屋FW永井謙佑は井出の動きを見て「ああいうゾーンにいるってことが、まさに大事ってこと」と自分のプレー選択に重ねて反省もしていたが、そこに行くには多少なりともの「出てくるはず」という信頼が必要だ。そこにチャンスがあると信じられるからこそ、井出も2得点目の武藤もそのゾーンに勢いをもって入っていける。
「神戸に堅さはあったけど、しっかり勝ち切れる」
そしてこれは前半戦の名古屋にもやはり共通することで、前線のタレントが序盤のチャンスを仕留めてくれることで、チームの安定感はやはり増す。豊田での試合も前半11分に大迫が決めていた。今回も同12分、14分と立て続けに神戸がゴールを陥れた。
立ち上がりは互いに打ち合うような戦いのなか、先にシュートやチャンスを生んでいたのは名古屋のほうだったが、最初のチャンスとその直後のチャンスの2つを決めて優位に立ったのは神戸だ。
両チームの土台を成すハードワークはその名のとおり厳しく辛いものなので、先制点や追加点、とにかく得点が速めに入ったほうがメンタル的にも勢いが出るうえにメリハリをつけて保たせやすくもある。
名古屋DF森下龍矢は力の差はそれほどなかったと感じつつも、「今日は神戸がかなりノーリスクで蹴り込んできて、それに対して僕らが『うっ』って構えてしまったところはある」と話した。
試合の流れを決める立ち上がりにラッシュをかけ、相手に殴り返されてもさらに“殴って”決めきってしまう。ここでも神戸は攻撃のバリエーションとして、つないでも蹴っても形にしてくれる前線2人の存在が大きく、自らも味方にも得点を生み出せる万能ぶりがその決定力、決定率を上げていく。
「神戸もやっぱりプレッシャーを感じていたというか、ちょっと堅さはあったというか。いつもよりもシンプルにというところはすごく感じたし、でもそういうなかでもしっかり勝ち切れる、2得点を決め切れるっていうところに、今季の神戸の強さはあるのかなって思いました。
今シーズンの中でもたぶん、うまくいかなかったことはいくらでもあったんだろうけど、結局は点を決めて勝ったりできているからこそ、この順位にいるんだと思う。そこは僕たちとはまったく逆の姿なので、見習わないといけない」
名古屋MF稲垣祥はこう言って、「内容どうこうじゃなく、結局は結果的にゴールを決め切れていない、勝ち切れていない、勝点が増やせていないところは重く受け止めないといけない」とうつむいた。
チーム一体のインテンシティー、ハードワーク…今季の神戸が見せた強さの本質
前半戦の名古屋は前述したような神戸の特徴、特長を毛色は違いながらも持っていたチームだった。雑な表現をすれば「なんやかんやで最後は勝つ」という安定感や信頼感が、試合内容の良し悪しとは別のところに感じられたものだった。
それは困った時にマテウスがチームに時間と強度をもたらしてくれ、そのおかげで得点に専念できたユンカーがゴールを決め、そこにリソースを割いた相手の隙を突いていろいろな選手がゴールを奪っていた。
これはそのまま神戸にも当てはまることで、大迫22得点、武藤10得点のほかに、佐々木が7得点、MF山口蛍が4得点、MF汰木康也とFWジェアン・パトリッキが3得点とゴールパターンは多彩だ。序盤戦の名古屋もユンカーを筆頭に永井、森下、MF和泉竜司、稲垣と複数の突破口を持っていたが、マテウス移籍を境に得点の形が激減した。
だからと言って神戸が名古屋の上位互換であるわけではなく、あくまで相似する部分を抽出したにすぎない。替えの利かない選手がシーズンを通して好調を維持してくれた幸運も神戸にはあり、もちろんそのための努力や取り組みが個人にチームにとあったことは想像に難くない。
彼らを支えるチームメイトも能力が高く、チーム一体となったインテンシティーの高さや運動量、フィジカルな面での優位性も神戸の武器だ。そのハードワークを得点に変え、勝点3につなげてくれる高度なフィニッシャーの存在がまたチームに強みを加えていく。この好循環こそが、神戸の強さの本質と言えるのかもしれない。
今井雄一朗
いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。