J1神戸“吉田サッカー”、リーグ開幕前後で一変 「脱・イニエスタ」→速攻スタイル磨き掴んだ悲願Vの軌跡【コラム】
プレシーズンマッチ時点で根幹決まるも、ピッチ上で改善の余地が散見
「たくさんエラーを出して(そこを)修復して開幕に臨んでいきたい」
リーグ開幕前のプレシーズンマッチ(PSM)対松本山雅FC戦後にサポーターに向かってヴィッセル神戸の吉田孝行監督はそう挨拶をした。この時、吉田監督のなかではすでにチームの根幹は決まっていた。その戦い方は松本戦で明確に表れていた。
神戸は後方でボールを回して揺さぶりをかけ、左右のサイドに張る選手にボールを託し、そこから突破を図りゴール前へラストパスを送る戦術を基本としていた。
しかし、方向性は定まっていたがピッチでの表現には改善の余地があった。チームにはアンドレス・イニエスタを中心とした以前のパスサッカーの名残りがあり、手数をかけ過ぎる場面も見られた。ゴールを目指すにあたって、相手守備陣の崩し方にこだわり過ぎると敵陣へと向かうベクトルの勢いは停滞し、結果的にゴールを挙げるという本来の目的を見失いがちになる。開幕前の時点ではまだそうした兆候も見られた。
ただ、今シーズンの神戸はゴールへと向かう姿勢が、以前より遠回りをしないスタイルへと確実に変化していた。このスピードサッカーは試合をこなすうちに磨きがかかっていく。そして、さらなる進化を見せるのだった。
リーグも終盤を向かえた第29節・横浜F・マリノスとの上位対決を神戸は2-0で勝利する。この時、神戸が見せたサッカーはリーグ開幕序盤より前線へと向かうスピードがアップしていた。
ボールを奪取すると、サイド攻撃にこだわらず、ドリブルで攻め上がるよりもパス攻撃を中心にして一気に前線へと進出しゴールを目指した。このシンプルな攻めが実に効果的でリーグ開幕時と比較してよりシンプルなサッカーが展開され、ダイナミックさが増していた。
吉田監督は試合に勝つ、ゴールを決めるという目標を徹底的に追及し、自らが信じるサッカーを貫き、選手たちはフォア・ザ・チームの精神でプレーした結果、ここに神戸はリーグ優勝という最高の結果を出したのだった。
試合後のセレモニーでの指揮官はサポーターに向かってこう語った。
「シーズン前は誰もこの日(優勝する日)が来ると予想していなかったと思います。しかし、1人1人が(優勝するために)何をしなければならないのかは分かっていました。1年間誰1人として手を抜くことなく優勝に向かって突き進んできた結果です。選手、スタッフが(優勝を)実現してくれたことを誇りに思います。そして、選手が苦しい時にいつも背中を押してくれたサポーターのみなさん本当にありがとうございました。この優勝はヴィッセルファミリー全員で勝ち取ったものです」
まさにチームが一丸となって勝ち取った優勝だった。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。