ブンデス上位争いに“一石”…レバークーゼンはなぜ強い? シャビ・アロンソ政権下で築かれた「好調の秘訣」【コラム】
第11節終了時点で首位争いが白熱、王者バイエルンを上回ったレバークーゼンに注目
今季のブンデスリーガが面白い。第11節終了時点で首位争いが白熱している。昨季はバイエルン・ミュンヘンが自滅気味に勝ち点を伸ばし損ねていたが、今季はここまで9勝2分と十分な戦績をあげている。新戦力のイングランド代表FWハリー・ケインがすでに17ゴールを挙げるなどリーグトップの42点をマーク。失点もリーグ最少の9。にもかかわらず現在首位ではない。
トップを走っているのがレバークーゼンだ。10勝1分の勝ち点31とほぼパーフェクトな開幕ダッシュに成功している。結果だけではなく、その試合内容に多くの専門家や識者が賛辞を送っているが、好調の秘訣はどこにあるのだろうか。
まず大きなファクターはシャビ・アロンソ監督の存在だ。2022-23シーズンの第8節終了後に、ゲラルド・セオアネ監督(現ボルシアMG監督)の後任としてチームを率いることとなった。
前年シーズンを3位で終えていたレバークーゼンだが、第8節までにわずか1勝しか挙げられず、勝ち点5の17位と低迷。攻守のバランスを失い、不用意な形であまりにも簡単に失点を重ねてしまうチーム事情だっただけに、監督としての経験が豊富なわけではないシャビ・アロンソ監督は適任ではないのではないか、という指摘もあった。
だが、シャビ・アロンソ監督はチームの問題点をすぐに見抜くと、冬の中断期までは守備バランスの安定化に集中して取り組んだ。人に強く、ビルドアップ能力も高いセンターバックを多く抱えていることから4バックから3バックへと移行し、ダブルボランチとともにセンターのスペースケアを修正する。
ボールを奪うとシンプルにパスを展開しながら、スピードが武器のムサ・ディアビ(現アストン・ビラ)、ジェレミー・フリンポン、アミン・アドリといった選手を生かしてゴールを狙う戦い方で勝ち点を積み重ね、前半戦終了時には順位を8位にまで押し上げた。
後半戦に入ってさらにチームの成熟は深まっていく。膝の十字靱帯断裂による長期離脱から復帰していたフロリアン・ビルツのパフォーマンスが試合を重ねるごとに良くなってきたことも大きい。
シャビ・アロンソ監督は「フロリアンはかつてのメッシを見ているようだ」と公言するほど才能に惚れ込んでいる。攻撃の矢印とスピードを自在に変化させることができるビルツを経由することでレバークーゼンのオフェンス力は何倍にも膨れ上がるのだ。
「困難な状況のほうが…」逆転の発想でシャビ・アロンソ監督抜擢
シャビ・アロンソ監督の資質を見抜いてクラブへ招集したシモン・ロルフェスSD(スポーツダイレクター)の目利きも見逃せない。トップチームでの監督経験がまだない段階でクラブの将来を託すのは相当に勇気がいることだ。だが、ロルフェスは「だからこそ」と逆転の発想で向き合った。
「困難な状況のほうがベストな決断ができるのかもしれない。それだけ厳しく自己批判とともに状況を分析しているからだ。自分たちの悪いところをすべて洗いざらいにし、そして正しいカギを見つけることができた」(ロルフェスSD)
そしてロルフェスをはじめとする首脳陣が本気で自分たちの状況を危惧し、意見をぶつけ合いながらディスカッションしたからこそ、シャビ・アロンソ監督は誕生したのだろう。
「シャビは新しい状況に対応できる大きな自負と健全な実用主義を持った人物だ」
ロルフェスSDはそう理由を口にしていた。
最終的に昨シーズンを6位で終えたレバークーゼンはパズルを完成させるために、適材適所で選手補強に動き出した。
「クラブには経験のある選手がいたが、ピッチに立ち、チームに安定感を与えられる選手が少なすぎた。そこに反応しなければならなかった」(ロルフェスSD)
将来性とともに獲得されたビクター・ボニフェイス(22歳)、アルトゥール(20歳)、マチェイ・コバール(23歳)、ヨシップ・スタニシッチ(23歳)といった若手だけではなく、アーセナルからグラニト・ジャカ(31歳)、ボルシアMGからヨナス・ホフマン(31歳)、そしてベンフィカからはアレハンドロ・グリマルド(27歳)と、コンスタントに自身のパフォーマンスを発揮するだけではなく、チームメイトに好影響をもたらせる選手も積極的に補強したのだ。
「自分たちの哲学と反対のことをしているわけではない。クオリティーを高め、チームに構造をもたらし、プロフェッショナリズム、野心、リーダーシップをもたらしてくれる選手を獲得したのだ」(ロルフェスSD)
11連覇中のバイエルンを実力で上回り優勝するストーリーが実現も
昨シーズンまでのレバークーゼンはハマった時の勢いやダイナミックさには素晴らしいものがある半面、ゲームコントロールの不安定さ、結果につながるコンスタントなチームパフォーマンスに難点があったが、今のレバークーゼンからはちょっとしたことではびくともしないチームとしてのまとまりを感じさせる。
「ダイナミックさを失うことなく、ボールを持って優勢的にゲームをコントロールできている。我々は今高いレベルのサッカーをしている」(ロルフェスSD)
シーズン前半戦の勢いが、このまま後半戦も続くとは限らない。過去の歴史を見ても、どこかで躓いて優勝戦線から脱落することも考えられなくはない。ただ、今季のレバークーゼンには期待をかけたくなるだけのクオリティーがあるのも間違いない。11連覇中のバイエルンを実力で上回り優勝する。そんなストーリーが実現するかもしれない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。