岡崎慎司、大迫勇也ら日本代表エースの系譜 上田綺世が「日本を勝たせられるFW」になるための条件【コラム】

上田綺世は2023年でトップの7ゴールをマーク【写真:Getty Images】
上田綺世は2023年でトップの7ゴールをマーク【写真:Getty Images】

2023年は6試合で計7ゴールをマーク

 過去5戦5敗の鬼門サウジアラビアに乗り込んだ日本代表にとって、11月21日の2026年北中米共催ワールドカップ(W杯)アジア2次予選第2戦の相手シリアは難敵だと目された。というのも、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代の2017年6月に中立地テヘランで対戦した際も1-1のドローと苦しんでいるからだ。

 それを見越して、森保一監督も11月16日のミャンマー戦(吹田)では遠藤航(リバプール)や伊東純也(スタッド・ランス)ら主力級を温存。この一戦にぶつけてきた。しかし、中東のエキスパートである谷口彰悟(アル・ラーヤン)、FW上田綺世(フェイエノールト)だけは連続スタメン起用に踏み切った。

 上田を連続先発させたのは、古橋亨梧や前田大然(ともにセルティック)の負傷離脱もあっただろうが、「ここで続けて結果を出してほしい」という指揮官の願いが込められていたのではないか。法政大学在学中の大器を2019年コパアメリカ(ブラジル)に抜擢し、初キャップを踏ませてから4年。なかなかゴールという結果を残せないまま、時間が経過してしまったからだ。

 上田自身も鹿島アントラーズで実績を残し、2022年夏にはベルギー1部セルクル・ブルージュへ移籍。欧州で不慣れな2シャドーの一角に入るなど、新たなチャレンジに打って出て、少しずつ前進は見せていた。しかし、2022年カタールW杯のグループリーグ第2戦コスタリカ戦(0-1)に象徴される通り、ここ一番で仕事のできる選手になり切れなかった。本人も力不足を痛感していたが、「日本代表エースFWへの道は険しい」という印象を拭い切れなかったのは確かだ。

 その風向きが変わり始めたのが今年6月。セルクル・ブルージュで22-23シーズンにリーグ戦計22ゴールという数字を残したことを評価され、ようやく先発起用されるチャンスが増えていったのだ。

 エルサルバドル戦(豊田)で4年越しの代表初ゴールを決めると、9月のドイツ戦(ヴォルフスブルク)では値千金の決勝弾をゲット。今夏、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)参戦クラブのフェイエノールトへ赴いたことで、「自分自身のステージが一段階上がった」と自信を持てたのも大きかったのだろう。強豪相手にどこか気後れしていた過去の自分と決別することができたのだ。

11月の2連戦で5ゴールを奪取【写真:徳原隆元】
11月の2連戦で5ゴールを奪取【写真:徳原隆元】

岡崎や大迫も年間に“固め取り”

 そして迎えた、2026年北中米W杯アジア予選。上田は2試合連続で1トップに起用され、ミャンマー戦で3点、シリア戦で2点の計5ゴールを固め取りすることに成功した。

「弱い相手にどれだけ点を取っても意味がない」という人もいるかもしれないが、かつてのエースFWたちもアジア相手に固め取りして数字を伸ばしている。

 代表50ゴールの岡崎慎司(シント=トロイデン)はその筆頭で、2009年に年間15ゴールという驚異的な得点数を叩き出したが、大半が格下相手だった。大迫勇也(ヴィッセル神戸)にしても、2021年に年間9ゴールをゲット。うち5点がミャンマー相手に奪ったものだった。2023年7ゴールという目覚ましい実績を残した上田も、先人たちの系譜を継いでいけそうな感触を残した。それはやはり大きいと言える。

 上田の場合、今年の7ゴールが多彩なパターンから生み出されているのも見逃せない。エルサルバドル戦のPK弾に始まり、ドイツ戦では伊東の折り返しを巧みに合わせ、ミャンマー戦ではヘッドと右足2本を決めている。そして今回のシリア戦も左からのクロスに伊東が反応し、ヘッドで落としたボールに右足で詰めた2点目と、やはり伊東が右から折り返したボールに合わせた3点目で、伊東からのお膳立てで決める形が多くなっている。

 今や伊東は森保ジャパンの絶対的エースであり、彼との相性がいいFWというのは軸になりやすい。そのあたりも森保監督はしっかりと見極めているはず。いずれにしても、上田が新エースFW候補筆頭に踊り出たのは紛れもない事実ではないか。

 ただ、今年の7ゴールは彼にとってあくまで序章に過ぎない。岡崎のような偉大な点取屋になろうと思うなら、代表での得点を着実に積み重ねていくしかない。岡崎が凄いのは2011年の8点、2013年と15年の7点とハイペースのゴール量産が長く続いたこと。W杯でも2010年南アフリカ大会のデンマーク戦と2014年ブラジル大会のコロンビア戦の2点を取っているが、上田もそういう軌跡を辿れれば、2026年北中米W杯では堂々と最前線に君臨し、日本を勝たせられるFWになっているはずだ。

年内のCL2戦で目に見える結果を残せるか

 もちろん、その前に所属先でのパフォーマンスが重要になる。今夏、赴いたフェイエノールトではここまでリーグ9試合1ゴールという状況だが、絶対的エースのメキシコ代表サンティアゴ・ヒメネスという高い壁が目の前にいるため、出番はすべて後半途中からになっているのだ。

 ヒメネスが出場停止だった10月4日のCLアトレティコ・マドリード戦は辛うじて先発出場のチャンスが巡ってきて、先制点を演出する鋭い動き出しも見せつけたが、序列が急に上がったわけではなかった。ヒメネスという圧倒的存在感を示すFWからポジションを奪うのはそう簡単なことではないが、そのハードルを越えてこそ、本当の意味でのワールドクラスの選手になれる。それは上田自身が誰よりもよく分かっていることだ。

「シュートの威力や迫力は、彼に比べてもあるほうだというのは(アルネ・スロット監督から)認識されていると思います」と本人は語っていたが、シュートの多彩さと精度というストロングをもっともっと磨いていけば、必ず出番は増えていくに違いない。

 もちろん最前線でDFを背負いながらタメを作る、ボールを収めて起点になるといった仕事もよりブラッシュアップしなければならないが、誰にも負けない武器がある選手は必ず使われる。それは伊東や三笘を見ていても言えること。上田はシュートという魅力があるのだから、そこにもっともっと自信を持っていい。今回のW杯予選2試合5ゴールという結果に胸を張ってオランダに戻ってほしい。

 年内のCLは残り2戦。できることなら、そのいずれかでゴールを奪い、目に見える成果を残してもらいたいところ。2024年以降にさらなる弾みをつけるべく、貪欲に数字にこだわり続けることが肝要だ。

元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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