森保監督がミャンマー戦で”得たもの”と”失ったもの” 三笘離脱と冨安ベンチ外は意味するのは?【コラム】

森保監督がミャンマー戦で得たものと失ったものとは?【写真:徳原隆元】
森保監督がミャンマー戦で得たものと失ったものとは?【写真:徳原隆元】

引いて守る相手に上田の全3ゴールは重要な意味を持つ時間帯でゲット

 森保ジャパンは11月16日にミャンマーを5-0と大差で下し、2026年アメリカ・カナダ・メキシコ共催のワールドカップ(W杯)に向けて幸先のいいスタートを切った。

 決して万全の態勢だったというわけではない。メンバー発表後、負傷で古橋亨梧、前田大然、川辺駿、伊藤敦樹が参加できなくなった。森保監督は26人招集した理由を「怪我人、アクシデントなど不測の事態が起きた時に、この26人の選手で乗り切っていこうということで、登録人数は23人ですけどプラス3人という選手を招集させていただきました」と語っていたが、4人負傷したことで試合に登録できる23人を下回ってしまった。

 追加で渡辺剛、細谷真大、佐野海舟を呼んだものの、三笘薫が帰国して検査したところプレーできる状態ではないことが分ってピッチに現れることなく離脱。さらに冨安健洋は初日の練習こそ参加したものの、2日目に別メニューで結局ミャンマー戦はベンチ外と、守備の大黒柱は使えなかった。

 もっともミャンマーは前回のカタールW杯アジア予選で対戦した時は10-0と大勝した相手。そう考えると5点差だったことはむしろ後退ではないか、と考えられても不思議ではない。

 だが、この試合では得点以上に得たものと、そして逆に失ってしまったものがある。まず得たものを考えてみよう。

■1.)いい時間帯で得点を奪う戦い方

 早い時間帯での先制点、試合を決定付けるダメ押し点、後半の優位性を確定させる得点と、上田綺世が前半11分、同45+4分、後半5分に挙げたゴールはどれも試合の流れにとって重要な意味を持つ時間帯で奪ったものだった。

 これこそ日本代表が過去の守備的な相手と対戦した時に苦労した部分だった。日本に限らず、ペナルティーエリアをガチガチに固めて守る相手を攻略できず、逆に相手の速攻から失点を許すという展開は力の差がある戦いではよく見られるパターン。日本が挙げたゴールは、どれもそんな展開を許さない意味を持っていた。

 2021年5月の前回対戦時も、前半8分に南野拓実がゴールを挙げてゴールラッシュの口火を切った。だが、その時はミャンマーも今回ほど攻撃を捨てていなかったため、まだ攻略の糸口は見つかりやすかった。今回のとことん引いてくる相手に対して出鼻を挫くゴールを奪えたのは大きな意味があり、そしてそういう試合にしたからこそ、次の手が打てた。

新戦力のテストやシステム確認は好材料

■2.)新戦力のテスト

 圧倒的に有利な試合展開に持ち込んだため、代表経験がなかったり浅かったりする選手を投入することができた。

 今回、最終的なメンバーが全員揃ったのは試合前日。全体トレーニングの時間は公式練習の1時間しかなかった。代表歴3試合の町田浩樹を先発で使うことができたのは10月に起用しておいたからにしても、もしなかなか点が取れない状況に追い込まれていたら、代表歴1試合の渡辺剛と細谷真大、初出場となった前川黛也を投入することはできなかっただろう。公式戦を使ってテストができたことは試合経験としてプラスになるとともに、それ以外の部分も試すことができた・

■3.)システムと選手の適性の確認

 これまでは、バランスの取れた4-2-3-1、相手の出方を探る時に使う守備に立ち足を置いた4-1-4-1、守備とサイドを重視した3-5-2というのが基本的なシステムの使い方だった。実際、ミャンマーとの対戦で日本は4-2-3-1を使い、ミャンマーの4-1-4-1を粉砕した。

 だが、今回は相手の5-4-1に対して4-1-4-1でスタートし、押し込みつつ成果に結び付けるという戦いができた。と同時に、新戦力を入れて4-2-3-1にしてギアチェンジするという能動的な試合展開を作り出せた。

 最初はアンカーに置いていた田中碧をインサイドハーフに上げて試すのと同時に、サイドで窮屈そうにプレーしていた堂安律に真ん中のスペースを提供することによって本来の持ち味を引き出すことにも成功した。

 以上の3点のように5-0で勝った試合ということで、良かった面が目立つのは当然だと言えるだろう。選手を温存しながら戦えたことで、次のシリア戦に向けてのいい準備にもなったと言える。ただ、その一方で失ってしまったことがある。

格下相手にコンディションの不安がある選手を招集すべきか

 それは選手の招集態勢に対する信頼だ。合流直前の試合で負傷し、辞退せざるを得ない状態になってしまったのならまだいい。だが三笘薫のように帰国したけれども検査してプレーできない状態だということが判明し、すぐに離脱するというのは問題が大きい。

 飛行機に乗っている間に悪化した可能性もあるが、三笘のようなことが起きればクラブも日本代表も招集に対してより慎重にならざるを得ない。冨安はシリア戦に照準を合わせるために敢えてベンチ外にしたということを願いたいが、10月は敢えて招集を見送っていた鎌田大地はプレーさせても良かったのかという点も合わせて、果たして大勝が見込まれる相手に対してもコンディションに少しでも不安のある選手を招集すべきだろうかという疑問が浮上したはずだ。

 これはたぶん、選手が所属するクラブのほうがより感じることだろう。これまで森保監督は選手の所属クラブを訪れ、招集に応じてくれたことに対しての感謝の意を伝えるなどしてスムーズな意思疎通が取れるようにしてきた。だが、今回の事例を見てクラブはより慎重になるのではないだろうか。

 シリア戦で冨安も鎌田も元気な姿を見せてくれれば、三笘の件は例外中の例外として考えることもできる。そうでなければ、森保監督がまた渡欧して選手の所属クラブのメディカル体制を確認するとともに、クラブとコミュニケーションを取らなければいけないという事態になってしまう可能性もある。幸先のいいスタートを切ったからといって、森保監督の心配の種は尽きそうにない。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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