森保ジャパンが手に入れた2チーム分の戦力 厚い選手層を作り上げた指揮官の“采配”とは?【コラム】
W杯予選の初戦となったミャンマー戦には5-0の快勝
日本代表は11月16日、2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の初戦でミャンマー代表と対戦し、5-0の快勝を収めた。1トップに起用されたFW上田綺世が代表初となるハットトリックを達成。21日には中立地のサウジアラビア・ジッダでシリア代表と対戦するなかで、MF久保建英やMF伊東純也、DF冨安健洋らを“温存”して臨むことができた。さらに、ミャンマー戦ではGK前川黛也を途中交代で出場させたり、追加招集組のDF渡辺剛、MF佐野海舟、FW細谷真大を起用したりするなど、森保一監督の思い切った采配が光った。明らかに厚くなった森保ジャパンの選手層に注目する。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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相手の壁を打開した。ブロックを組んで守備を固めてくる相手に対して、前半11 分に先制点を掴んだ。MF南野拓実からの浮き球のパスにFW上田綺世がヘディングで合わせて先制点を奪うと、前半28分にはMF鎌田大地が左足のミドルシュートで2-0に。さらに前半アディショナルタイム、MF堂安律のスルーパスに再び上田が抜け出して3-0とした。後半5分にも、上田が南野からのパスからゴールネットを揺らし、代表初となるハットトリックを達成。最後に堂安が決めて5得点での快勝となった。
前半を3-0で折り返すと、ハーフタイムにはDF谷口彰悟と渡辺を交代。さらに、負傷した鎌田と佐野も交代させて追加招集組をピッチに送り込んだ。後半22分には細谷も南野と交代。国内組で臨むE-1選手権ではなく“フル代表”でのデビューとなった。
なかでも最も驚く起用となったのが前川だ。後半36分に大迫敬介に代わって、まさかのGK交代となった。前川は10月シリーズにも招集されていたが、負傷のため不参加となった。父・和也さんに続いて歴史的な親子A代表デビューを飾らせた森保監督は「前川はこれまでも招集させていただいたなか、なかなか出場のチャンスを与えられなかった。トレーニングでもいいパフォーマンスで、どこかでチャンスをと。選手はスタメンを望んでいると思うが、予選の緊張感の中で短い時間でも試合に出てもらうことが、本人がこれまで見せてくれたことへの評価につながればいいと思った」と説明した。
今、守護神はなかなか定まり切っていない。大迫と鈴木彩艶がポジション争いで1歩リードしているものの、過密日程やJリーグ終盤の疲労などでどんなアクシデントが待ち受けているか分からない。前川がピッチに立ち、予選を経験することは大きな意味があった。
欧州組は直前の合流も、積み上げてきた基盤を生かして圧勝
追加招集組も好プレーを連発した。佐野は持ち味であるセカンドボールの奪取をいきなり見せ、中盤から広い視野でサイドも生かしていた。渡辺も安定感があり、細谷も終盤にはチャンスを演出。生き生きとしたプレーを見せた。
今回は試合の開催日が木曜だったこともあり、日曜にリーグ戦を消化した海外組の合流は火曜となった。実質、試合前日しか合わせることができなかったなか、イメージを共有し、5ゴール奪取できたのはこれまで積み上げてきた基盤の存在が大きいだろう。ミャンマー戦の先発メンバーでは森保ジャパン第2次政権で経験が多い選手ばかりではなかった。だが、森保監督が言い続けている言葉はまるで“言霊”のように選手に浸透していく。今回も何度も何度も発してきた「誰が出ても、誰と組んでも機能する。誰が出ても勝つ」ということを体現した。
主将のMF遠藤航も「選手層の厚さを感じる」と話していた。欧州のトップリーグで活躍する選手が増えたことと、練習の雰囲気の良さも感じる。かつてのDF吉田麻也のような周囲を見渡して初招集の選手に声を掛けたり、DF長友佑都のように若手を鼓舞したりするベテランが去ってからもその背中を見てきた選手たちが積極的にコミュニケーションを図っている。1人で浮いたり、馴染めないということがないようにDF菅原由勢や上田が気にかけたり、中堅になった南野が“イジられ”たりと誰もがスッとチームに溶け込める雰囲気が今の森保ジャパンにはある。
ミャンマー戦では絶対的な主力とはまだ言えず、悔しい思いをしてきた選手も多かった。その悔しさを晴らす戦いは、シリア戦に出場すると見られるメンバーにも大きな刺激を与えたことだろう。