【月間表彰】父と磨いたドリブルが原点 FC東京・俵積田晃太が閃きで生んだ圧巻ゴール
10月1日・G大阪戦で決めた50mドリブル弾で月間ベストゴール受賞
Jリーグは2023年シーズンも「明治安田生命J1リーグKONAMI月間ベストゴール」を選出。スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の連動企画として、「FOOTBALL ZONE」では毎月、スーパーゴールを生んだ受賞者のインタビューをお届けする。10月度の月間ベストゴールに選出されたのは、FC東京のMF俵積田晃太が10月1日・第29節・ガンバ大阪戦の後半33分に決めた圧巻の独走ゴールだ。左サイドを駆け上がった50メートルのドリブル弾を振り返る。(文=馬場康平)
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クラブの創立25周年記念日を祝う圧巻のゴールだった。
2-0で迎えた後半33分に歓喜の瞬間は訪れた。最終ラインでDF長友佑都が競り合う直前に、俵積田は首を振って前方の景色を確認。そこで「行ける」と確信した。ハーフウェーライン手前でボールを拾って2タッチで前を向く。長友の「行けー」という声に背中を押され、そこから得意のドリブルが始まった。
「佑都さんが競る前から、周りを見て敵がいないのが分かった。スペースがあるので行けると思って仕掛け始めました」
追いすがるG大阪のFWイッサム・ジェバリを引き連れ、左サイドをドリブルで駆け上がる。前方を塞ぎに来たDF髙尾瑠に減速させられると、追い付いたジェバリと2人に囲まれた。
「身体を入れて若干の時間を作ると、ジェバリ選手が挟みに来ているのが見えて、どうしようかなってなったんです」
だが、サイド深くに追い詰められても、ドリブラーは止まらなかった。「挟まれた瞬間は無でした。いい意味で何も考えてなかった」。染みついたドリブル技術と閃きに身を任せたという。
「背負っている相手の選手が自分の方に寄ってきていて、股が開いていることが分かった」
次の瞬間、右足のヒールキックで背負う髙尾の股を通し、身体を入れ替えるように2人を置き去りにしてしまう。ここでシュートもクロスも上げられる状態でボールを持ち、ゴール前へと視線を送った。
「一瞬、中を見ると、ディエゴ(・オリヴェイラ)選手とジャジャ(・シルバ)選手も若干(相手選手の陰に)隠れているように見えた。だからシュートを打とうと決めたんです。シュートを打つ時に『ファーから巻くシュートだったら入りそうだな』と思って」
そして、右足を振り抜く。GK東口順昭が伸ばした手は届かず、ボールはゴール右上を射抜いた。圧巻の50メートルのドリブル弾は、これで完遂。味スタは大歓声に包まれ、その声援を一身に浴びた。
「個で、自分1人で行くみたいなゴールが好きというか理想なので。リオネル・メッシやネイマールは個で行くじゃないですか。小さい頃からそういう選手の動画を見ていました。今回のゴールがちょっと理想に近いんじゃないかなと思います」
チームを3-0の勝利に導いた高卒ルーキーは、そう言って胸を張った。
実績十分なライバルに危機感「何もできなかったらマジで終わり」
このドリブラーの原点は、自宅から徒歩1分の場所にある広場だった。休日になると、そこで父親と一緒にマーカーを並べて即席の練習場を作り上げ、技術を磨いた。
「ドリブルはとにかく量をこなしました。広場にマーカーを置いて、トップスピードに近いドリブルや、もちろん細かいドリブルも。ずっとそこで練習をしていました。普段の練習、ゲーム形式、練習試合、公式戦、とにかくボールを持てば、全部ドリブルをしていましたね」
親子二人三脚で磨き上げたドリブルは、プロの舞台で花開こうとしている。ゴールを挙げるたびに家族からも祝福メッセージが届くと言い、「喜んでもらえたら嬉しいです」と笑った。
プロ1年目の今季は、J1リーグ戦27試合出場で2得点の活躍を見せている。それでも俵積田に慢心は微塵もない。
「まあまあって感じですかね。キャンプの時の理想は今よりもっと高かったんです。(松木)玖生君の1年目の活躍を超えることを目標にやっているので、まだまだだなという風に思っています」
開幕前のキャンプで、気持ちにカチッとスイッチが入った。まだプロになったばかり。「失うモノがなかった」と振り返る。紅白戦や練習試合前の戦術ボードに自分の名前を探すと「アダ(イウトン)とレアンドロの名前の下に自分がいた」という。
「この人たちに勝たないといけないんだってなりました。試合に出られなければ、選手としても価値が上がらない。チームの中で失うモノがないからこそ、『やるしかない』っていう気持ちにスイッチが入りました」
左ウイングでポジションを争うアダイウトンとレアンドロの2人は、実績も実力も十分なブラジル人選手だ。強烈なライバルの存在に、思わず「笑っちゃう感じでした」と表情を緩ませる。それと同時に、武者震いする自分もいた。
「危機感というか、『ここで何もできなかったら本当に終わりだ。プロとして生き残っていけない』と思って。アダイウトンとレアンドロという(FC)東京の中でも主力組の2人。とにかく何でもいいからポジション争いに勝つっていう気持ちでやりました」
デビュー後に感じるプロの壁「全部のアベレージを引き上げないと」
2月26日、第2節・柏レイソル戦でJ1デビューして以来、順調に歩み続けているように見えるが、何度もプロの壁に躓いている。
「いろんなところでそれを感じました。強度もそうだし、スタミナもそう。知識というか、DFの時の動きも、判断スピードも、止める蹴るの技術も、クロスの質やシュートの質も、課題を挙げればキリがありません。全部のアベレージを引き上げないといけないと感じています」
そのたびにトレーニングに打ち込む。幼い頃から近所の広場でそうしてきたように、課題の数だけ伸びしろが残されていると信じ、取り組んでいる。なぜなら、その先にある歓声を知ってしまったからだ。
2000年の高校入学と同時にコロナ禍となり、FC東京U-18で過ごした3年間にはスタジアムや練習場から歓声が消えた時期を経験した。
「高校入学からコロナ期間に入り、ちょうどサポーターも来られない時期だったんです。何試合かは来てくれたけど、歓声を浴びる経験なんて、そんなにしてきませんでした。だから(今季)開幕戦の浦和レッズ戦はビックリしましたね。メッチャ声がでかいじゃんって」
ビックリしたかもしれないが、大歓声の味はたまらないほどクセになる。
四半世紀を刻んだ青赤に新たな星が輝き始めた。まだプロ1年目。ここから自らの足で明るい未来を切り拓いていくつもりだ。
「ウイングで2点は少なくないですか? 5ゴールぐらいは行きたかった。決められるシーンはもっとたくさんあったので、もっと決めたかったですね。これから叶えたいことはゴールです。ゴールして、アシストもして勝つことが理想です。だから、どんどんゴールを決めていきたい」
幼い頃の自分がそうしていたように、今度は俵積田の動画を見てドリブルやシュートの練習を積む子どもたちが出てくるかもしれない。そんな未来が来るように、緩急自在のドリブラーはさらなる驚きと興奮をアーカイブに残していく。