日本代表、W杯予選の“過剰編成”に違和感 欧州組の心情を想像…メリットとデメリットのバランスが悪すぎる【コラム】
11月から始まるW杯アジア2次予選、日本がグループ敗退するとは到底思えない
2026年ワールドカップ(W杯)アジア2次予選が始まる。ミャンマー代表戦からW杯への戦いがスタートするわけだが、これまでのような緊張感は個人的にはない。2次予選の相手はミャンマー、シリア、北朝鮮。今の日本代表がこのグループで敗退するとは到底思えないからだ。
窮鼠猫を噛むという故事があるが、今回ばかりは噛まれたところで結果に影響は出ないだろう。もちろん油断は大敵で、念には念を入れたくなる気持ちは分かる。しかし、ミャンマー、シリアとの2戦に招集したメンバーは明らかに「過剰」に思える。
メリットとデメリットのバランスが悪すぎないか。ミャンマーとシリアに勝つために、本当に今回のメンバーが必要だったのだろうか。そもそも日本がやられるとしたらコンディション不良か油断しかなく、それが起こるのはおそらく欧州組を大量招集した場合だけではないかという気もする。欧州からの移動負担によるコンディション不良、対戦してみればどうしたって感じてしまう力量の差による油断である。首尾良く大勝を収めたとしても、強化において得るものはないだろう。
欧州組の心情を想像してみる。例えば鎌田大地。今季、移籍したラツィオではレギュラーポジションを失っている。ラツィオには左インサイドハーフにルイス・アルベルトという中心選手がいる。鎌田は逆の右インサイドハーフで起用されていたが、左を中心に組み立てが行われるのでルイス・アルベルトと同じ役割にはなりにくく、ゴール前への侵入や得点が期待される。
だが、それに十分応えられなかった。そこでルイス・アルベルトとはタイプがはっきり違うマテオ・ゲンドゥージが鎌田に代わって起用されるようになった。キャプテンのマルティン・ウーデゴールがいるアーセナルへ移籍したカイ・ハフェルツも似たような境遇で、有力選手と言えども移籍先に馴染むのにそれなりの時間が必要なケースはよくある。その厳しい競争の渦中にいるタイミングで代表戦に招集されるのは仕方ないとして、相手がミャンマーとシリアなのだ。
遠藤航も安泰ではない立場…長い目で見ればクラブで活躍してこその代表
遠藤航はリバプールでアレクシス・マック・アリスターとのポジション争いをしている。今季のリバプールは右サイドバック(SB)のトレント・アレクサンダー=アーノルドを「偽SB」としてビルドアップの軸に置いた。そのため、右のインサイドハーフであるドミニク・ソボスライはアーノルドとは逆に外へ開く。アーノルドが外ならソボスライは中。上手くバランスを取っているのだが、その役割は遠藤には向かない。左のハーフスペースに常駐しているライアン・フラーフェンベルクの役割も遠藤には向かない。つまり、マック・アリスターのポジションしか遠藤がプレーする場所はない。
遠藤の実力は認められているようで、逆に移籍の目玉だったマック・アリスターへの風当たりが強いのだが、組み立ての軸としてマック・アリスターがファーストチョイスである。マック・アリスターのポジションを1つ上げれば万事収まりそうな気もするが現状そうなっていない。日本代表のキャプテンで不動のボランチである遠藤でもリバプールでは安泰という立場ではないわけだ。
所属クラブでの状況と代表戦は別物ではある。ただ、長い目で見ればクラブで活躍してこその代表であり、ミャンマーとシリアに勝つために招集される身になると、なかなか辛いものがあるのではないかと想像してしまう。クラブでのハイレベルな競争と2次予選の温度差があまりにも大きい。メリットはほぼなくて、デメリットだけが予想される今回の編成には違和感が残る。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。