三笘薫の酷使問題「僕も100%出そうとしてますけど…」 疲労蓄積で「それはあるある」と語る現象は?【現地発】
今季継続起用が続く三笘「70~80%でしっかりと(コンディションは)作れてはいます」
代表選手は大変だ。所属クラブでのプレーに加えて、まったく違う条件下で練習や試合をすることが求められる。欧州でプレーする選手が日本での親善試合に参加するためには移動時間に加え、時差や生活環境への対応や準備が欠かせない。バランスの取れた栄養管理、質の高い睡眠時間の確保、疲れを残さないためのケア。やらなければならないことはたくさんある。
それが代表選手としての宿命と言われたらそうかもしれない。そして移動距離が長く、時差の影響も大きい国での代表戦へ飛びながら、年間で驚くほどの試合数を重ねる選手も実在する世界だ。大変だが、だからこそそれを乗り越えることは、選手としてのさらなる成長・成熟につながっていく。
とはいえ、だ。コンディション調整には、できることとできないことがある。どれだけのケアをしても、時間でしか解決できないことも多い。特に休養に関してはそうだ。時差というのは1時間のずれを解消するのに1日必要とされている。日本と欧州の基本的な時差は冬時間で8時間なので、自然に解消するためには8日間必要ということになるが、実際に代表選手はそんな休みをもらえない。
時差による影響だけではなく、移動や試合による疲労もある。やれる限りのことを100%やることはできる。だからといってどんな試合でも100%のコンディションで臨めるかというと、それは極めて困難だ。
アヤックスとのUEFAヨーロッパリーグ(EL)グループステージ戦後、ブライトンの日本代表MF三笘薫が自身のコンディションについて話していた。
この試合では試合開始早々の前半8分にジェームズ・ミルナーが負傷交代したのをはじめ、バタバタと選手が怪我をしていく。三笘にしても毎試合のように90分フル出場を続けていたなか、「左サイド(選手が)いないんで。やってくしかないです」と出続けざるを得ない台所事情に触れた。
「疲れというか、毎週100%で上手く調整できてるってわけではないですけど、70~80%でしっかりと(コンディションは)作れてはいます」
その日に自身の状態と向き合い「ピッチに入ったら意外と(身体が)動かなかったりする」
どんな試合でも全力でプレーと選手は口にするし、どんな監督もそれを要求する。だから「100%でプレーできない=良くない状況」と変換されがちだ。でも、コンディション調整が難しい状況で100%を出すことが本当に必要なことなのだろうか。
「いや、僕も100%出そうとしてますけど、ピッチに入ったら意外と(身体が)動かなかったりするだけで。それはあるあるなこと。そのなかで、どれだけいいプレーができるか」(三笘)
選手はピッチに立った時にその日の自分の感触と向き合う。それこそ自身の状態が70~80%の時に無理やり100%の力でプレーし続けようとすると悲鳴を上げるのは身体だ。突発的な怪我につながりやすい。
集中力とパワーの出し入れを上手くコントロールしながら、それでいてチーム戦術に穴を空けず、ここぞという時にギアを上げる。そうした狡猾さが長いシーズンを戦ううえでは大切な要素と言えるだろう。
得点とはならなかったが、アヤックス戦の後半40分に見せたプレーは自身のコンディション、チーム状況、試合の流れを考えた時に、狙いどおりのものだったのではないだろうか。
虎視眈々と狙っていたカウンターの場面で左サイドから上手くスルーパスを引き出してゴール方向へとドリブルを開始。中へボール運んで相手守備をずらし、スッと右足で縦方向に運んで相手を外すという仕掛けまではまさにイメージどおりだったはず。最後のところでグラウンドに少し足を取られて抜け切れなかったものの、対応したDFは体重を完全にずらされていたので、縦に持ち出されたら付いてこられなかっただろう。
主力選手として所属チームでも代表チームでも必要不可欠な存在となっている三笘。選手として、そのなかでやれることをやる。ただシーズンを通じて常に70~80%のコンディションでとなると、それは選手にとってもチームにとっても喜ばしいことではない。これから適度に休みをもらいながら、可能な限り最適なコンディションでプレーできる機会が増えてくることを願いたい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。