南野拓実に託される牽引力と決定力 W杯アジア初戦の重要性を知る男が臨む代表キャリアも“左右”する2戦【コラム】
10月シリーズに続けて2か月連続で招集
今年3月の本格始動から8試合を戦い、6勝1分1敗と破竹の勢いを見せている第2次森保ジャパン。だが、ここまでの親善試合とは違い、11月16日のミャンマー戦(吹田)からスタートする2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア予選は全くの別物。過去の歴史を見ても分かる通り、一筋縄ではいかないだろう。
2022年カタールW杯への第1歩だった2019年9月の2次予選初戦・ミャンマー戦(ヤンゴン)も、やはり厳しい試合だった。
「土砂降りの中、物凄い環境だった」とこの一戦に出場していた南野拓実(モナコ)は回想する。高温多湿の気候、時折やってくるゲリラ豪雨、水はけの悪い劣悪なピッチと日本では考えられない悪条件が重なる中、守備を固めてきた相手に日本は大苦戦を強いられた。最終的には中島翔哉(浦和)と彼自身のゴールで2-0と勝ち切ったものの、簡単なゲームではなかったのは確かだ。
「ホームは割といいですけど、アウェーの難しさはすごくある。タジキスタンも同じタイミング(同年10月)だったけど、すごく強かったイメージがある。予選はホントに何があるか分かんないので、まずはしっかりとホームで勝たないといけない。つねに大事なのは目の前の1戦1戦を見つめて試合をしていくこと。それが重要だと思います」
前回予選を知る男・南野は神妙な面持ちで心構えを説いていた。それを自ら率先して周りに伝えていく統率力や牽引力が、28歳になった彼には今、強く求められている。
今回、招集されている2列目の面々を見ると、三笘薫(ブライトン)、久保建英(レアル・ソシエダ)、堂安律(フライブルク)、鎌田大地(ラツィオ)の4人は所属先でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)とヨーロッパリーグ(EL)に参戦中。しかも代表合流が14日からになる。調整時間が少ないことを踏まえると、三笘や久保は21日のシリア戦(ジッダ)での起用をメインに考えるべき。先に合流している南野や伊東純也(スタッド・ランス)、相馬勇紀(カーザ・ピア)をミャンマー戦で使うのが賢明な選択と言えそうだ。
特に南野は、前述のアウェー・ミャンマー戦のみならず、2021年5月のホームゲームでも2得点。合計3ゴールを奪うという相性のよさを見せている。その分、メンタル的な余裕を持って戦えるはずだ。
必死になって向かってくる相手をいなしつつ、ゴール前での推進力と決定力を示せれば、第2次森保ジャパン定着にも大きく前進する。10月のカナダ(新潟)、チュニジア(神戸)2連戦ではビッグチャンスがありながら決めきれなかっただけに、ここは絶対に結果が求められるところだ。
「今の自分はチャレンジャー。すごくハングリーな気持ちでいる」と目の色を変えている今の南野なら、迷うことなくゴールに突き進めるに違いない。
10月シリーズの後、所属のモナコで明確な数字を残せていないことも、奮起する大きな材料になるのではないか。フランス2年目の今季、8月20日のストラスブール戦の2点、25日のナント戦の1点と8月だけで3ゴールを挙げていた南野。8月のリーグアン月間MVPにも選ばれ、不振にあえいだ昨季の屈辱感を完全払拭したかと思われた。
しかしながら、10月に入ってから徐々に出番が減少。22日のメス戦、29日のリール戦はスタメン出場したものの、11月5日のブレスト戦と11日のルアーブル戦はベンチスタートを余儀なくされているのだ。
開幕ダッシュを切ったモナコでも正念場…11月シリーズは代表キャリアを左右する重要な2戦
今季モナコの1トップ2シャドーのうち、ウィサム・ベン・イェデルとアレクサンドル・ゴロビンの2人は鉄板。もう1つのポジションを複数選手が争う構図になっている。最近は21歳の若きフランス人アタッカー、マグネス・アクリウシェ、昨季スタッド・ランスで伊東と名コンビを結成していたフォラリン・バログンが出る機会も増えてきて、南野はやや厳しい局面に直面していると見ていいだろう。
このまま先発落ちが続くと、ようやく復帰を果たした森保ジャパンから再び遠のく可能性も否定できない。そういう悪循環に陥らないためにも、まずは今回のミャンマー戦で確実に結果を出して存在感を確立し、シリア戦でもチームに貢献したうえで、モナコに戻ることが肝要だ。今の南野にはゴールという結果が最大の良薬なのは間違いない。
「10月シリーズではチャンスがあった中でゴールを決められなかった悔しさがあります。その一方で、自分がファーストDFになって、どこでボールを奪うかという意図をチームに伝えたり、攻撃に関わる部分は出せたところもあった。その両方をもっとここで出さないと、代表では生き残っていけない。そういう思いは強いですね」と本人も自身のやるべきことを明確にしている。
それをピッチ上で具現化し、周りを生かして自分も生きるという理想的な関係性を築ければ、森保監督の南野への信頼もより深まるはずだ。トップ下に久保、鎌田というカタールW杯で主力級と位置づけられた面々がいるため、本当にサバイバルは熾烈を極める。1つ1つのチャンスを確実にモノにしていく選手だけが2026年W杯の大舞台に立てる。カタールでポジションを失った南野は誰よりも厳しさを熟知する選手。その苦い経験も含めて、あらゆる英知を結集して今回の2次予選に挑むべきなのだ。
自身の代表キャリアの今後を大きく左右するかもしれない重要な2連戦で、かつてエースナンバー10を背負った男はどのような違いを見せてくれるのか。改めて南野拓実のパフォーマンスをしっかりと注視したい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。