終盤失速の浦和に「欠けているもの」とは? 誠実で有能な指揮官を迎え入れ再建も…あぶり出されたアキレス腱【コラム】
スコルジャ監督のコメントから伝わってきた忸怩たる想い
浦和レッズがシーズン終盤の重要な試合を立て続けに失った。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)では浦項に連敗し、ルヴァンカップ決勝でもアビスパ福岡に敗れ、さらにJ1リーグ第32節では首位のヴィッセル神戸との直接対決を落とし優勝の可能性が消えた。
国内での3戦を通じて、敗軍の将マチェイ・スコルジャ監督のコメントは似ていた。
「相手のサッカーに対応しようとしたが、特に前半はフィジカル面で難しく、プレースピードが上がらずチャンスを作れなかった」(ACL浦項戦=ホーム・0-2)
「立ち上がりが酷いものになった。開始5分で失点したあとは、ボールを保持しながら流れを変えようとしたが、ナーバスになった」(ルヴァンカップ決勝福岡戦・1-2)
「前半のほうが苦しかった。素晴らしい攻撃的な選手を揃えた神戸は多くのセットプレーを獲得し、我々はファイナルサードでナーバスになりチャンスを作れなかった」(J1第32節神戸戦・1-2)
つまりどの試合でも監督の言葉からは、前半で相手に主導権を握られ、後半立て直し切れなかった忸怩たる想いが伝わってきた。
浦項戦では、相手が先制したうえに前半だけでも2~3度の決定機を作ったのに対し、浦和には決定機どころかコーナーキック(CK)もなかった。ルヴァンカップ決勝は、福岡が浦和対策を徹底し前半で2ゴールを挙げて突き放した。
また神戸は、もともとシンプルにクロスを多用するチームだが、浦和戦では前後半を通じて30本以上のクロスで左右から揺さぶり、ついに後半27分に左サイドから井出遥也、続いてそれを拾った初瀬亮が右から折り返すと、マテウス・トゥーレルのヘディングで均衡を破った。浦和も終了間際には、コンディションの良いホセ・カンテがアグレッシブな突破から同点ゴールを叩き込むが、セットプレーでGK西川周作が追加点を狙いゴール前へ上がった隙を突かれて決勝点を献上し力尽きた。
気になったのは滑り出しの劣勢、相手を圧倒する爆発力が不足
スコルジャ監督は、タイトルを逃した要因の1つとして熱狂的なスタジアムの利を活かし切れなかったことを挙げた。確かに神戸戦には5万人近い観客が集まり、ルヴァンカップ決勝も実質ホームに近い雰囲気だった。だが今年の浦和のホームゲームの全成績を見れば、15勝3敗7分けで勝率60%、敗率もわずかに12%で必ずしも悪くはない。
逆に気になったのが、ここ最近の敗戦であぶり出された滑り出しの劣勢だ。実際、第32節までのJ1を振り返れば、浦和の前半だけのスコアは8勝5敗19分。後半のほうが11勝5敗16分けと上回っている。
ACLを見ても、昨年度のアル・ヒラルとの決勝戦では、アウェー戦で前半に先制されながら後半に追い付き、折り返しのホーム戦では後半に決勝点を奪って優勝を飾った。今年の予備戦とグループステージを加えると、前半が3勝3敗1分で、後半が5勝2敗となる。さらにはルヴァンカップのノックアウトステージでも、横浜F・マリノスとの準決勝初戦以外は残り4戦ともに後半のほうがスコア上は良化した。
結局浦和はリーグ戦で3位につけ、ルヴァンカップでも決勝に進むなど、相対的に見れば層の厚さを活かして安定したシーズンを送ってきた。シーズンの出足で躓き、春先に初めて日本の現場に立つ新監督を迎えたことを思えば、上々の再建ぶりだったと見ることもできる。しかし反面、終盤の失速に象徴されるように、お互いがフレッシュな状態でせめぎ合う前半の攻防では後手に回ることが多く、タイトルを奪い切り相手を圧倒する爆発力は不足していた。
最近の浦和は、経済効率的には助っ人の補強もそれなりの成果を収め、日本代表歴を持つ欧州からの復帰組にも投資をして、誠実で有能な指揮官も迎え入れることができた。だが日本で随一の人気チームが、はっきりとJのリーダーシップを担うなら、そのうえで自他ともに認める確固たる牽引車が必要なのかもしれない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。