スペクタクルさは皆無 ブライトンがアヤックスの悪い流れに飲み込まれた訳【コラム】
【カメラマンの目】混戦のなかで奪い合いが続き、見せ場なく90分が経過
川崎フロンターレに所属していた以来、クラブチームでプレーする三笘薫の姿を撮影するため、ドイツのミュンヘンからオランダのアムステルダムに列車で向かった。11月9日、三笘が所属するブライトンは、アヤックスに栄光をもたらした英雄ヨハン・クライフの名を冠するスタジアムで、UEFAヨーロッパリーグ(EL)グループステージ第4節のアウェー戦に臨んだ。
当然、本来なら三笘のことを書きたいところだが、この試合を語るにはまずはアヤックスの状態を説明しなければならない。オランダの強豪として知られるアヤックスだが、今シーズンはかつてない不振に喘いでいる。リーグ戦では中位に低迷し、ELの舞台となったこの試合でも、ちぐはぐな戦い方が90分間続いた。その姿はヨーロッパを代表するクラブのそれではまったくなかった。
それでもアヤックスは立ち直ろうと努力をしているのは見て取れた。後方からボールをつなぎ、丁寧にサッカーをしようとしているのはゴール裏から見ていても分かった。サポーターも大声援で復活を期する選手たちを後押ししていた。しかし、GKを含めた後方からのつなぎは各選手の基本技術の問題か、リズムが悪く見ていてとてもおぼつかない。
それでもアヤックスがボールをつなごうという意識があるため、ブライトンとしては前線から彼らをマークせざるを得なくなる。ブライトンはこのリズムの悪いつなぎに付き合わされるように、前線から守備をしなくてはならないゲーム展開となっていく。
試合はリズムの悪いボール回しで攻撃の形を作れないアヤックスに加え、ブライトンも決してボールハンティングに優れていたわけではなく、混戦状態のなかボールの奪い合いが続き、特に見せ場もなく90分間が過ぎ去ってしまったという内容だ。
ブライトンとしてはアヤックスの後方からのボールつなぎに付き合わずに自陣で守り、そこからボールを奪って三笘を中心としたスピードサッカーを展開すれば良かったのかもしれない。そうした戦い方をしたほうがチームの持ち味を発揮できたように思う。アヤックスの攻撃は、決して焦って前線から食い止めに行かなければならないほどの脅威は感じられなかったのだから。
ブライトンは結果的に2-0で勝利したものの、アヤックスの自滅から勝ちを拾ったという感じで、とても褒められるような試合内容ではなかった。三笘も得意のドリブルから見せ場を作ることができなかった。時に自陣からアヤックスゴール前へと長い距離をドリブルで切り込んでいたが、そのプレーはただボールを運んでいるだけという印象は拭えず、そこからゴールへのチャンスが生まれる気配はあまり感じられなかった。三笘を含めたブライトンは、アヤックスの復活への試行錯誤が続く、未完成な悪い流れのサッカーに飲み込まれてしまったということだ。
サッカーの試合はすべてがスペクタクルなわけではない。むしろそうした人々の心を熱くさせる試合は少ない。両チームとも上手く試合を作れない時もある。それがサッカーだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。