チェルシーが見せる“若気の至り” ロンドンダービー快勝も喜びなし…指揮官の表情が晴れない訳とは?【現地発】

トッテナムとのロンドンダービーを制したチェルシー【写真:ロイター】
トッテナムとのロンドンダービーを制したチェルシー【写真:ロイター】

4-1で快勝も晴れなかったポチェッティーノの表情

 ベンチ前のマウリシオ・ポチェッティーノは、全く喜びを表さなかった。11月6日のプレミアリーグ第11節トッテナム戦(4-1)、今季から率いるチェルシーが2点差をつけて勝利をほぼ確実なものとした後半アディショナルタイム4分。反対側のピッチサイドでは、得点者のニコラス・ジャクソンが、敵地でのロンドンダービーに駆けつけたサポーターたちとゴールを祝っていた。

 開幕以来、リーグ戦2得点のみだった新センターフォワード(CF)が、この試合で久々のゴールを決めた。前節でブレントフォードとのロンドンダービーに敗れていたチームは、面目躍如の勝ち点「3」を手に入れることになる。しかも、好調トッテナムの勢いに圧倒された立ち上がりに先制されていながらの逆転勝ち。にもかかわらず、チェルシーの新監督にはガッツポーズの「ガ」の字も見られなかった。

 単に、4年前までの古巣にリスペクトを示したというわけではない。それは、このシーン前後の様子を見れば明らかだ。スコアを3-1とする30秒ほど前、チェルシーは2-2とされる寸前だった。GKロベルト・サンチェスが弾き出した相手FWソン・フンミンのシュートは、軽率さが招いた自業自得の危機。DFチアゴ・シウバのフリーキックに始まり、19歳の新MFレスリー・ウゴチュクのボールロストで終わった“緩い”パス回しで速攻カウンターを浴びる羽目になった。

 ポチェッティーノは、テクニカルエリアで苛立ちを隠せずにいた。そして、逆に生まれた自軍の追加点などなかったかのように、シウバをベンチ前に呼び寄せている。「何だ、あれは!」とでも言いたげに両手を挙げたジェスチャーを交えながら、チーム最年長でもある守備の要に指示を与え、激しい口調で改善を迫ったのだった。

 チェルシーは、最終的にジャクソンがハットトリックを達成し、市内ライバルから3点差の大勝を収めることになる。だが、試合後の会見で「与えてはならないチャンスを与えた」と認めたのは、退場者2名を出したあとも変わらなかったハイラインが仇となり、今季リーグ戦初黒星を喫したトッテナムの新監督ではなかった。

 そのアンジェ・ポステコグルーがチームの「決意」を称えたように、ポチェッティーノも「3ポイント獲得」の意義を強調しはした。しかしながら、一気に若手が増えた“新チェルシー”が、前半33分で10人、後半10分には9人になった敵をその気にさせ続けた“若さ”は否定できなかった。

ハットトリックを達成したニコラス・ジャクソン【写真:ロイター】
ハットトリックを達成したニコラス・ジャクソン【写真:ロイター】

新キャプテンからでさえ垣間見える「若さ」

 ポチェッティーノは、左サイドバック(SB)で先発したDFレヴィ・コルウィルをハーフタイムでベンチに下げている。スピード抜群のFWミハイロ・ムドリクを前線に加えた後半13分のベンチワーク同様、「妥当」な交代策だった。20歳のDFは、12分間の前半アディショナルタイム中の小競り合いでイエローカードをもらっていたのだ。

 当然、相手選手たちは10人同士の戦いに持ち込もうとけしかけた。挑発に乗れば、チェルシーの数的優位が失われる。この一戦では、2日前にも批難の対象となったばかりのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)がまるで「逆襲」にでも出たかの如く、事あるごとにチェックを繰り返していた。

 その後も、“若気の至り”がチェルシーにあわやの危機を招くことになった。長期欠場明けでベンチを出た相手MFロドリゴ・ベンタンクールが、ゴール前至近距離で合わせ損ねてくれた後半41分の失点回避。放り込まれたFKは、その9分前にDFリース・ジェームズと交代した20歳の右SBマロ・ギュストが、無駄なファウルで与えていた。

 やはり戦線復帰から間もないジェイムズ自身にも、新キャプテンとはいえ「若い」と思わせる場面があった。23歳の生え抜きにすれば、ダービーで気持ちが先走ってしまった部分があったのかもしれない。相手左SBデスティニー・ウドジェと競った際のエルボーが幸運にもお咎めなしで済んだのは、前述のコルウィルが警告を受けた2分後のことだ。

 もっとも、はやる気持ちと言えばジャクソンだろう。移籍1年目の22歳は、まるで散歩中にボールを投げて欲しくて仕方のない子犬のよう。ライン裏のスペースは十分で焦る必要などなかったはずが、我慢できずに走り出しては、オフサイドの位置でパスを求める姿が目についた。終了間際に自身4ゴール目を決める絶好機も訪れたが、ボックス内でのシュートを吹かしてもいる。

 前半35分、3分を要したVAR判定の末に得たPKを決めて試合を振り出しに戻したのは、21歳ながら落ち着きも光る新MFコール・パルマーだった。後半30分に逆転ゴールを決めたのは、ジャクソン。だが厳密に言えば、周囲の味方がオフサイドで飛び出す1トップへのスルーパスを優先しなくなっていた時間帯に、28歳にしてチーム年長の部類に入るラヒーム・スターリングが合わせるだけで良い折り返しで演出してくれたゴールだった。

チェルシー指揮官が見据える時間をかけたチーム作り

 スカッドの平均年齢が今季プレミア最年少のチェルシーは、チーム全体としても終始「うぶ」だったと言える。後半アディショナルタイムまでトッテナムにカムバックの可能性が残されていたピッチ上で、敵による予想外のハイライン継続に戸惑っていたというよりは、点を取って当然、勝って当たり前という展開に伴うプレッシャーに苦しんでいるような印象を受けた。パスのコースが次第にずれ、判断は遅くなっていった。

 対照的に、新体制下で新たなスタイルを習得中とはいえ、開幕ダッシュ成功で自信を高めていたトッテナムは、臆せずに攻めの姿勢を貫いてチャンスを作り続けた。前半にハムストリングを痛めたCBミッキー・ファン・デ・フェンと代わっていたエリック・ダイアーが、セットプレーの流れからネットを揺らしたのは後半33分。VARによる際どいオフサイド判定がなければ、その16分後、ソン・フンミンには勝ち越し点の絶好機が訪れていたことになる。

 もしも、サンチェスのビッグセーブがなかったとしたら? ホーム観衆によるトッテナムへの後押しは、3点差の敗戦に終わっても総立ちで拍手喝采を送っていたほど。土壇場で再びリードを奪う展開となれば、スタンドからの凄まじい「音圧」にも晒されていたはずの若いアウェーチームが、再度逆転に漕ぎ着けられたかどうかは、9人対11人のピッチ上でも極めて怪しい。

 前節まで、ポゼッションが平均63.8%だったリーグ戦10試合で、計17得点にとどまっていた決定力に関する議論には、「実力派CF不在」で終止符が打たれてきた。精神力も、実力のうち。この点における未熟さが、皮肉にも今季チーム最多タイの4得点を奪った一戦で露呈された。そう思いながら振り返ってみると、すでに喫している4敗のうち3試合を、ノッティンガム・フォレスト、アストンビラ、ブレントフォードを相手に勝って然るべきとされたホームゲームが占めている。

 VARによるチェックが9回に及び、結果としてのアディショナルタイムは計21分、退場者は2名、そして取り消された得点が5点を数えた狂気の熱戦においても、チェルシーの“若さ”には冷静な目を向けざるを得なかった。チーム作りに取り組むポチェッティーノは、こう言って会見を締め括っている。「我々は時間の経過とともに成長していく。そのための下地とクオリティーはあるのだから」と。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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