エースFWケインが異国の地で躍動 驚くほどの力強さ「なし」でも…バイエルンで得点量産のワケ【コラム】
【カメラマンの目】CLグループ4戦目、バイエルンはホームでガラタサライと対戦
11月に入っても秋の訪れが感じられなかった東京から、機上の人となりドイツのフランクフルトに降り立ち、そこから列車でミュンヘンへと向かう。
東京とは違いミュンヘンの街は、身を切るような厳粛なまでの本格的な冬を前にして、黄色い落ち葉が石畳の道を飾り、晴れた空も高く秋らしさが感じられた。ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンの本拠地であるアリアンツ・アリーナは、そんな秋の夜の肌寒さを吹き飛ばすような熱狂のなかにあった。
UEFAチャンピオンズリーグのグループリーグ第4節で、バイエルン・ミュンヘンはトルコのガラタサライをホームに迎えた。バイエルンはここまで3試合を消化して全勝と好調だ。
7万5000人の大観衆のなかで戦うバイエルンは、当たり前だがヨーロッパシーズン開幕前の夏のジャパンツアーで見た時とは比べ物にならないほど、チームの完成度は上がり攻守に渡ってスピーディーなサッカーを展開した。
なによりパス交換によるボール運びが実にスムーズだった。まさに流れるようなゲーム展開という言葉が似合う、よどみないパス攻撃でガラタサライゴールへと迫る。
ただ、バイエルンのチームとしての技術の高さに驚かされたのは、単純に攻撃を仕掛けている時ではなく、ガラタサライの激しい守備を受けている時だった。激しいプレッシャーを受ければ、並のチームだったら相手のマークから逃げるようなパスが増え、攻撃は停滞してしまうことになる。
ガラタサライからすればバイエルンの選手を激しい守備で後退、あるいは足止めしていたのだから、状況としては局面の勝負で勝利しているように見える。だが、カメラのファインダーに捉えたバイエルンの選手たちは、プレッシャーを受けながらも攻撃への意識を持ち続け、虎視眈々と逆襲の機会を伺っていることが見て取れた。
そうした一瞬の隙を突いて反撃に出る象徴が、マークに来たガラタサライDFの頭上をフワリと超すチップキックで、敵の背後にできたスペースにパスを出し、そこにFWが走り込んで一気にゴールへと迫るプレーだ。左サイドのレロイ・サネがドリブルを多用してガラタサライ守備網の攻略に着手していたのとは対照的に、右サイドの前線に張るキングスレー・コマンは、この相手DFの頭上を越すテクニカルなキックのパスに良く反応し、前線へと進出してチャンスを作った。
パス攻撃でガラタサライの守備ラインを揺さぶり、相手が引けばドリブルで攻め上がり、食いついてくればプレッシャーをモノともせず、その背後を狙う。バイエルンは激しいマークを受けても冷静に、そして正確にプレーし多彩な崩しをピッチで展開した。
ケインのプレーに派手さはないが、得点へ結び付ける確率が高い
しかし、バイエルンは攻めながらも最終局面が崩せない時間が続いた。それを救ったのがハリー・ケインだった。今シーズン新たにチームに加わったセンターフォワードは、試合終盤に2ゴールをゲット。ガラタサライの反撃を1点に抑えたバイエルンが勝利した。
リーグ戦でもゴールを量産し、この試合でも勝利の立役者となったケインだが、彼のプレーには驚くほどの力強さは感じられない。1人で局面を打開し、力で相手DFを捻じ伏せるというより、周囲の選手との連係プレーからゴールを決めるタイプの選手だ。
ゴールゲッターが試合を通して、すべてのチャンスを得点へと結び付けることはまずできない。しかし、ケインのプレーには派手さはないが、チャンスを得点へと結び付ける確率が非常に高いように見える。ゴールへの決定的な場面において指揮官や仲間たちを失望させることが少ないと感じさせ、ゴール前における冷静なプレーは目を見張るものがある。
タレントが揃うバイエルンの前線にあっても、得点源としてストライカーの象徴である背番号9番を背負うこの男は、チームにとって欠かすことのできない選手であることは間違いない。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。