田中碧が数字で示し始めた上昇気流の兆候 転機は代表戦…“点を取れるボランチ”が見据える次なるステージ【現地発】

復調の兆しを見せ始めたデュッセルドルフの田中碧【写真:Getty Images】
復調の兆しを見せ始めたデュッセルドルフの田中碧【写真:Getty Images】

カナダ戦で2ゴール、デュッセルドルフでも2戦連発

 本人の言葉を借りれば「まだまだ」なのかもしれない。それでも、昨季の終盤に怪我をして以降、なかなか結果を残せていなかった事実を考えれば、確実に前へと進み出している。日本代表として戦ったカナダ戦から3試合連続ゴール。田中碧に復活の兆候が見えてきた。

 今シーズンはハッキリ言って難しい時間が続いていた。怪我明けでコンディションを少しずつ上げていかなければいけない状況だったことはもちろんあるが、やはり移籍関係で揺れたことが少なからず影響がある。

 クラブも移籍を容認していたこともあり、離れていく可能性がある選手を中心に据えないのは普通のこと。コンディション面を含め、レギュラー落ちをしてしまうのは仕方がなかった。これでしっかり移籍することができていれば話は簡単だったが、最後のところでまとめることができず残留。新たな選手を組み込んで結果が出ていたデュッセルドルフからすれば、田中の力は理解していても再び変化を加えようとはしなかった。

 だから我慢が必要だった。

 少々八方塞がりだったようにも見える。練習でどれだけ能力を見せてもスタメンの機会は回ってこず、途中出場で大きく流れを変える活躍もポジション柄、簡単ではなかった。そのうえ、ドイツメディアからも厳しい目に晒される。何が正解かわからなくなってもおかしくなかった。

 ただ、その時から言っていたのは「得点が欲しい」ということ。

「出るために点を取るというわけではなく、ただシンプルに点を取りたい。いつも結構(最初のゴールが)遅いので、早めに点を取りたいなと思ってサッカーをやっています」

 きっかけになったのは日本代表10月シリーズのカナダ代表戦だろう。ミドルシュートが決まったのもあれば、連係を駆使して前に出て行きゴールを奪ったのも大きかった。成功体験を積み上げたことで自信も深まっていた。

 そして、大きなインパクトを残したのが代表戦帰りの一戦となった10月21日ブンデスリーガ2部第10節カイザースラウテルン戦だ。少しずつデュッセルドルフの結果が出なくなっていたなか、ここで先発起用されると得点という“数字”で貢献する。

 前半の内容はそこまで良くなかったのだが、0-3で迎えた前半の終盤にシュートのこぼれ球を押し込んで今季初ゴールを奪取すると、極め付けは3-3で迎えたゲーム終盤のことだった。ゴール中央でFWからの落としを受けると、ゴール左へ見事なミドルシュートを沈めた。不振に喘いでいた田中からすれば、状況を一変するようなゴールだった。

 試合後、田中は「自分が点を取るというよりは勝つことが一番大事だった。そういう意味では自分が出た試合で勝ったことにすごくホッとしている」と謙虚な姿勢を貫いていたが、試合終了後の大きなガッツポーズを見ても嬉しさはひとしおだったことだろう。

チームメイトの内野が明かす練習姿勢

 チームメイトの内野貴史も陰の努力を明かす。

「碧くんは練習後にシュート練習をずっとやっていたし、自分にもパス出してと言って貪欲にやっていた。こういう大切な試合でああいう結果を出せるのは自分のことのように嬉しかった」

 トレーニングでの積み上げが結果につながった田中は、次の試合でも抜け目ない動き出しからゴール前に走り込んで2試合連続ゴールを奪取。最近、“どうやってゴールを奪うか”を考えた末の動き出しがゴールに直結し始めているのはいい兆候だ。

 あとは本人が言うようにこれをいかに継続させていくかがポイントになる。ミッドウィークにあったカップ戦ではチャンスで決め切れない場面もあっただけに、やはり結果を出し続けていくことの難しさがあるのは間違いない。それでも、その結果を追い求めなければさらに上のステージに行くこともできない。

 そう考えれば、3試合連続で得点しても「まだまだ」なのだろう。ここからウィンターブレイクまでの試合でどれだけの数字を残すことができるか。そこが今後に向けて重要になってくる。進化を見据える25歳、ドイツの地で研鑽を積む田中は、自身の能力を信じながら結果を求めて邁進する。

(藤丸リオ / Fujimaru Rio)



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