森保ジャパンの11月シリーズ、欧州組の“招集”提言 過密日程の久保、三笘、冨安らはサウジで合流のススメ【コラム】
2019年にも同様の形で招集した過去がある
アメリカ、カナダ、メキシコで2026年に共催される次回ワールドカップ(W杯)出場への第一歩となる、ミャンマー、シリア両代表と戦うアジア2次予選初戦及び第2戦に臨む日本代表メンバーが、11月8日に発表されることが決まった。
ホームのミャンマー戦は大阪・パナソニックスタジアム吹田で16日に、アウェーのシリア戦は政情不安で同国内にて試合を開催できない関係で、中立地となるサウジアラビアの首都ジッダのプリンス・アブドゥラ・アル・ファイサル・スタジアムで21日(日本時間22日未明)にそれぞれ開催される。
今回の11月シリーズでは従来と大きな違いはがある。初戦が木曜日に開催される点だ。新潟・デンカビッグスワンスタジアムでカナダ代表と対戦した10月シリーズの初戦は13日の金曜日だった。わずか1日の差で何が違ってくるのか。日本代表の森保一監督は、特にヨーロッパ組を蝕む過密日程に神経を尖らせていた。
「週末のリーグ戦を戦ったヨーロッパの選手たちのなかで、最後に帰国して代表に合流する選手は火曜日か、もしくは(試合前日の)水曜日になる場合もある。これでは練習する時間もほとんどない。選手たちのコンディション面で言えば、リカバリーする時間もない状況で公式戦を戦わなければいけない」
ヨーロッパ組の日程を見れば、キャプテンのMF遠藤航をはじめ、MF三笘薫やMF守田英正、FW上田綺世、FW古橋亨梧、FW前田大然、DF菅原由勢ら主軸の大半が12日の日曜日に所属クラブでの試合がある。森保監督が指摘した通り、試合後に帰国の途につくタイミング次第では、日本到着が火曜日になる可能性が大きい。
しかも11月第2週のミッドウィークにはヨーロッパの国際大会、UEFAチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグのグループリーグが開催され、上記の選手たちに加えてMF久保建英、DF冨安健洋も主力としてピッチに立つ。さらに久保と冨安は中2日の11日土曜日に、それぞれのリーグ戦に臨む。
プレー強度の高い試合を立て続けに戦った後に長時間フライトで帰国し、時差ぼけを残したままモードを日本代表に切り替えて公式戦に臨む。10月シリーズの期間中に久保が「きついですよ、正直」と思わず本音を漏らしたように、ヨーロッパ組の心身には計り知れないほど大きな負荷がかかり、必然的に故障のリスクも高まる。
選手たちは代表に選ばれれば意気に感じ、必死にモチベーションを高めてピッチに立つだろう。そのなかで同じポジションに疲労を蓄積させた選手と、コンディション的にある程度フレッシュな選手がいる場合、どちらを起用すべきなのか。森保監督が後者を選択しても、決して異論や批判の対象にはならないだろう。
これまでの戦いを振り返れば、森保監督は同じシリーズ内で選手を大きく入れ替えた例がある。
2019年の11月シリーズ。敵地で行われたキルギス代表とのW杯アジア2次予選で勝利した後に、指揮官は招集したメンバー23人のうちキャプテンのDF吉田麻也や遠藤、MF伊東純也、MF南野拓実、MF鎌田大地、当時はヨーロッパ組だったDF長友佑都やDF酒井宏樹ら9人を各所属クラブへ戻している。
残る14人はインド・デリー経由で帰国して大阪入り。そこへ9人の国内組を加えた陣容で、中4日で行われたベネズエラ代表との国際親善試合(パナソニックスタジアム吹田)に臨んだ。国内組のなかには当時ヴィッセル神戸所属の古橋ら4人の初招集組が含まれていた。選手を大きく入れ替えた理由を森保監督はこう語っていた。
「よりいいコンディションで自チームへと戻ってもらうことで、さらにパフォーマンスを上げて、それぞれの所属クラブ内で存在感を発揮していってほしいと考えました」
2試合を通して招集されたヨーロッパ組は、当時の所属クラブで出場機会を失っていたMF柴崎岳やDF植田直通、GK川島永嗣ら7人だった。試合勘の不足を代表戦で補ってほしいという考えも働いていた。
初戦に招集は伊東ら16人の欧州組…伊藤涼太郎や小川航基の招集で新戦力発掘も?
逆の発想で言えば、今回は常連組のなかでヨーロッパの国際大会に出場していない選手たちを、2試合を通して招集するのもひとつの手となる。具体的な名前を挙げれば伊東、南野、FW浅野拓磨、DF伊藤洋輝、DF橋岡大樹、MF川辺駿となり、いずれも11日の土曜日に所属クラブでのリーグ戦がある。そこへ中東カタールでプレーするDF谷口彰悟も加わる。
GKにはパリ五輪世代の主力ながら、森保監督が10月シリーズに続いて招集を示唆した鈴木彩艶がいる。さらに第2次森保ジャパンでの招集歴があるDF瀬古歩夢やMF相馬勇紀、2部クラブに所属するMF田中碧、DF中山雄太、MF奥抜侃志に加えて、今夏に新天地を求めたFW町野修斗を呼ぶのも一手となる。
国内組では大迫敬介と10月シリーズを怪我で途中離脱した前川黛也のGKコンビに、DF毎熊晟矢、MF伊藤敦樹がいる。さらに3月シリーズで出番のなかったDF藤井陽也、6月シリーズを故障離脱したMF川村拓夢、9月シリーズで出番がなかったDF森下龍矢に再びチャンスを与えるのもありだろう。
W杯アジア2次予選から、ベンチ入りできる選手数が26人からコロナ禍前の23人に戻る。第2次森保ジャパンに1度でも招集された選手から、過密日程組や怪我人を除いても22人に達する。さらにトップ下に新戦力の伊藤涼太郎、FWに復帰組の小川航基と今夏に旅立った選手たちを加えれば、GK3人、フィールドプレイヤーは原則としてひとつのポジションに2人という23人体制でミャンマー戦に臨める。
そして、ヨーロッパからの移動距離が短いサウジアラビアへは、国内組や一部のヨーロッパ組に代えて、満を持して直近のシリーズでも招集したヨーロッパ組をそろえてシリア戦に臨む。サウジアラビアへの往復後にJ1のラスト2試合へ臨む強行日程を回避させる意味でも、国内組のミャンマー戦限定も理にかなってくる。
4年前とは異なり、今回は2試合ともに公式戦となる。それだけに「選手たちの頑張りという部分において、私自身、常にリスペクトの気持ちを抱いている。そうした選手たちを多くのみなさんに応援していただければ」とも語る森保監督が、これまで通りに固定したメンバーに日の丸を背負う覚悟とタフさを求める可能性もある。
一方でヨーロッパ組だけでなく、ヨーロッパの国際大会でプレーする代表選手たちも激増しているなかで、コンディションを管理するうえでこれまでにはない、新たなアプローチを取る段階に差しかかったと言ってもいい。第2次森保ジャパンが船出した3月以来の選手選考や、招集期間中の練習を含めたチーム作りが正しい方向に進んでいると証明し、同時に選手層を厚くしていく意味でも2段階編成に着手する意義は大きいはずだ。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。