東大サッカー部、シント=トロイデンVVと異例提携の舞台裏 スカウトの一翼を担う頭脳集団6人が明かす内情と活動【インタビュー】
「とにかくワクワク感が半端なかった」締結のきっかけ
元Jリーガーの林陵平監督の招聘など、近年先進的な活動を見せる東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部/以下、ア式蹴球部)は先日、ベルギー1部シント=トロイデンVV(以下STVV)と選手スカウトにおけるパートナーシップ締結を発表した。
ア式蹴球部には分析を専門的に行うテクニカルユニットが存在し、プロクラブにも類を見ない約25名が所属する大所帯となっている。今回はそのテクニカルユニットがSTVVと提携を結んだ形だ。どのような経緯で締結に至り、実際にどのような活動をしているのか、計6人の部員にインタビューを行った。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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「この企画は、STVVでCEOを務めていらっしゃる立石様よりお話をいただき、昨年の6月頃から活動を行ってきました」。現在スカウト業務の責任者を務める川上皓大さん(2年)は語る。
「夏と冬に開かれる移籍市場に向けて、選手のスカウトをサポートしながら、STVVの強化に貢献したい、というのが弊部としての目的です」
実際にはどのような形でスカウト業務を進めているのだろうか。
「ベルギーリーグとJリーグを除く多様なリーグを担当しています。該当選手について数試合を確認し、数段階でランク付けをします。そのなかで特に推薦したい選手をレポートにまとめ、提出するという流れで進めています。そこからSTVVがさらに選定を行うという感じですね。データなどで明確な基準を設定してはいますが、部員によって評価が分かれることもあるので、必ず複数人の評価を経て総合的に判断することを心がけています」
スカウト業務開始にあたっては、テクニカルユニット内で希望者を募り、10名弱のチームが編成された。川上さんは迷わず参加することを決めたという。
「何よりSTVVと一緒にやれるんだというワクワク感が半端ではなかったです。希望者が募集された時は、ぜひ参加したいとすぐに立候補しました」
とはいえ東大生。授業の予習や復習、さらには部活もあるなかで、時間のやりくりには苦労したという。
「主に授業と授業の合間、家での隙間時間に試合を見てスカウトを行っています。時間的に厳しい時もありましたが、方針や具体的な方法も基本的にこちらに任せていただいていたので、柔軟に対応していました」
このように語る川上さんのように、ほかの部員も授業などの合間を縫って業務にあたっているそうだ
高橋駿平さん(3年)は「空きコマを利用して試合を見ていました。普段は見ないような世界各国の試合を見れるので、新鮮で楽しいです」と話す。
また、錦谷智貴さん(2年)は「帰宅して夜の9時から寝る12時までをスカウトに費やすと決めています。期限が迫っている時は1時くらいまで行うこともあります。映像を見て選手の評価を行うというスカウトの仕事に憧れがあったので、まさか自分がスカウトに関われるとは思っていませんでした。なので今はワクワクしっぱなしです」と満面の笑みを浮かべながら話してくれた。多忙を極めるなかでも、充実感にあふれているようだ。
「個人分析の精度が上がった」 スカウト業務から得たものとは?
「スカウト業務ということで、個人に着目して試合を見ることになります。今まではチーム全体の戦術などに注目していましたが、より個人にフォーカスを当てることでサッカーの見方に幅が出ました」
そう話すのは永田祐麻さん(2年)だ。ア式蹴球部では、テクニカルユニットが中心となりリーグ戦の対戦相手のスカウティングを行っている。STVVのスカウト業務を通じて、ア式でのスカウティングにも大幅な改善がなされたそうだ。
「例えば、足が速いというところ1つ取っても、『ボール保持時に速い』『非保持時に速い』『速くはないがタイミングが上手いから抜け出せる』など、評価の解像度が上がりました。個人分析の精度が上がったので、対戦相手のスカウティングでもより正確な分析ができるようになりました」
テクニカルユニットに所属しながら学生コーチも兼任する坊垣内大紀さん(3年)は、練習での指導にも良い影響が出ていると話している。
「コーチをしている身として、選手個人の長所だけではなく短所も含めて客観的に見ることが大事だと感じています。スカウト業務はまさにそういった評価を繰り返し経験できる機会だったので、とてもいい経験になりました」
スカウト業務を日頃の活動に生かし、長らく定着に苦しんだ東京都1部リーグで今年は残留を果たした東大ア式蹴球部。東太陽さん(2年)は、スカウト業務、そしてア式蹴球部での活動にさらなる貢献を誓う。
「まずはSTVVで獲得につながっていくような選手を推薦できるように努力していきたいです。そしてア式にも、関東リーグ昇格という長年の悲願を達成すべく、今まで以上に貢献していきたいです」
ピッチ内外で大きな進化を続ける東京大学ア式蹴球部。今後のさらなる発展に注目だ。
(FOOTBALL ZONE編集部)