負傷者続出、ルヴァン杯敗退…横浜FMが“暗雲”から“復活”を遂げた理由 逆転優勝へのカギは?【コラム】
ACLカヤ戦後の選手コメントから紐解く
すっかり秋も深まり、10月が終わろうとしている。ついこの間まで夏だと思っていたのに、気づけばもうシーズン終盤だ。
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横浜F・マリノスにとって、この10月は試練の1か月だった。3日にアウェーで行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の山東泰山戦でエドゥアルドが負傷したのを皮切りに、次々と重要な選手たちが戦線離脱。今シーズン中の復帰が不可能な選手も複数出てしまい、起用可能なセンターバックがチームに1人しかいないという状況にもなった。
ケビン・マスカット監督も「この世界に30年間関わってきたが、こんな状況は初めてだ」と驚くほどである。
だが、エドゥアルドの言葉にハッとさせられた。戦列復帰を間近に控えた26日の練習後、取材に応じたブラジル人DFはこう言った。
「サッカーの世界で、怪我は誰にでも起こりうること。でも、負傷者が出たことによって、普段あまり出場機会のない選手たちにチャンスが生まれ、彼らがゴールを決めるなど結果を残して自信をつかみ、チームに貢献してくれました。そして、10月はチームとしていい結果が出ているとも思います。アウェーの浦和戦だけ負けてしまったのは残念でしたけど、特にホームではしっかり勝っています。浦和に勝って、札幌に4-1で勝って、昨日のカヤFC戦もしっかりと勝つことができました」
確かに、彼の言う通りだ。負傷者続出というアクシデントにばかり気を取られていたが、10月のマリノスは公式戦5試合を戦って4勝1敗。アウェーで浦和レッズに屈してルヴァンカップは準決勝敗退となったが、リーグ優勝の可能性は残っているし、ACLでも連勝している。
25日に行われたACLグループステージ第3節のカヤFC戦は3-0で勝利。実力差があるとはいえ9人でゴール前を固めてくる相手を攻略するのは骨の折れる作業だったが、しっかりと勝ち切ることができた。
センターバックを本職とする選手を1人も起用せず、松原健、喜田拓也、永戸勝也が3バックを形成。普段の4バックからのシステム変更に加え、前半途中に永戸が負傷交代してしまうアクシデントもあった。終盤には榊原彗悟、喜田、吉尾海夏が最終ラインに並ぶ珍しい時間帯もありながら、週末のアビスパ福岡戦に向けて戦力を温存しつつ勝てた意味は大きい。
試合後、水沼宏太は「課題はたくさんあるけど……」と前置きしたうえで、カヤFC戦の勝利を誇った。
「(杉本)健勇が決め、(アンデルソン・)ロペスが決め、僕も含めてゴールが欲しい選手たちでした。ロペスはここ何試合かすごくストレスを溜めていたと思うし、ゴールを決められたという意味では、チームとしてはすごく良かったと思います。次のリーグ戦は出るメンバーがまた変わるかもしれないけど、今日の課題も含めて、より楽しそうにやれるサッカー、選手が楽しそうにやっているなと思ってもらえるような、躍動した姿を見せられるんじゃないかと思っています」
やはり「勝って反省」ができると、苦しい状況でも気持ちは前向きになれる。杉本健勇や井上健太、吉尾、榊原といった出場機会を欲していた選手たちが、湧き出てくるエネルギーをチームのために還元できたACLの勝利によって、大きな弾みがつくはずだ。
21日に行われたJ1リーグ第30節の北海道コンサドーレ札幌戦の3日前には、ルヴァン杯敗退を受けて選手たちだけでのミーティングが開かれた。そこで改めてチームとして何をすべきか意思統一が図られ、選手たちの結束はより強くなっている。エドゥアルドも「選手たちがお互いを受け入れ、絆を深めるいい機会になった」と決意を新たにしているようだった。
ACLの勝利、今後のカギを握るのは「アイデア」
では、ヴィッセル神戸を追い抜いて逆転優勝を果たすために改善すべき課題は? 水沼はカヤFC戦でのチームパフォーマンスをあえて厳しく総括し、「何よりもアイデアが少なすぎるというのが一番の課題。それはリーグ戦でも同じことが言える」と指摘していた。
「押し込んだ中でどんなアイデアを出すか。距離感も、3人目の動きもそうです。単純に放り込んだり、裏を狙いにいったりするだけではアイデアが少なかったと思っていました。勝つことができたのはすごくよかったですし、あそこまで引いてくるのはなかなか難しい。たぶん上から見ている以上にやっている本人たちが難しさをすごく感じていたと思います。あそこまで固められると、『どうしようかな?』と考える時間は間違いなくある。でも、それが長すぎたというのが、自分たちの今日のプレーだったかなと思います」
マリノスが最初のシュートを放ったのは、前半17分だった。それよりも早くカヤFCに一度ビッグチャンスを作られている。ゴール前をガッチリ固められ、大外からのクロス以外に攻め手を見つけられない時間帯が続いてしまった。
そんな中で均衡を破ったのは、水沼の「アイデア」だった。同35分、左サイドのエウベルが上げたクロスに、右サイドから斜めに走り込んだ水沼が頭で合わせる。完璧にミートしたシュートではなかったが、高く上がったボールは相手GKの頭を越えてゴールネットに収まった。
「エウベルに『あれを狙っているから出してくれ』とずっと言っていて、なんか『ボンッ』となって入りましたけど、イメージ的にはあれを狙っていたので、入ってよかったです。ああいうイメージというのをお互いが信じあって共有できて、それを成功体験につなげることができれば、また次につながると思うので」
後半27分に杉本が決めた追加点も、水沼の機転がきっかけとなった。左サイド深くまで進出した背番号18は、突破をやめて後ろにパス。するとサポートに入っていた吉尾がダイレクトでクロスを上げ、杉本が打点の高いヘディングシュートで2試合連続となるゴールを決めた。
ディフェンスの意識が水沼に向いていた瞬間、ボールを下げてワンタッチクロスでゴール前にピンポイントで合わせるというのはチームとしても狙いの1つとして共有していたもの。なかなか形にならなかったが、ここぞの場面で関わった選手たちのイメージが一致してゴールにつながった。
ポジティブさが伝わってくる「勝って反省」
そして極めつけは後半36分のチャンスシーンだ。左サイドからパスを受けた山根陸がシュートを打ちそうな体勢から身体を捻って、左のゴール前のスペースへ浮き球のパスを通す。それに抜け出した水沼が意表を突くシュートでゴールネットを揺らした。残念ながらぎりぎりオフサイドの判定で得点は認められなかったものの、これもボールウォッチャーになりがちな相手ディフェンスを攻略するための「アイデア」の1つだったという。
「(山根)陸からもらった、ああいう感じで目線を変えさせてからの同サイドへのボールは、(交代で)入ってきた瞬間に陸に『絶対に空くから出せ』と言っていたもの。あそこはうまくどフリーになれたし、オフサイドにはなってしまいましたけど、ああいう形は人数をかけなくても2人だけのイメージでできることもある。そういうものを増やすことが大事かなと」
そう語った水沼は「みんながもっともっとアイデアを出すことが大事」だと続ける。
「今日のメンバーに限らずリーグ戦でもそうですけど、個人頼みになったらよくないし、崩しきれないところもある。イメージの共有というのは今シーズンの自分たちの課題でもあるんですけど、もっともっと出せたんじゃないかなという試合でした」
こうして明確な課題があったとしても「勝って反省」ができているのが何よりだ。チームの3分の1近い選手が負傷離脱していながら優勝争いができている状況をポジティブに捉え、目の前の試合での勝利のために全てを捧げながら前進していくしかない。
札幌とカヤFCとタフな相手に連勝したマリノスは、負傷者続出という苦しい状況ながらJリーグ連覇に向けて勢いづいている。この逆境を跳ね返して獲得したタイトルなら、喜びの大きさは昨年以上のものになるはず。誰も諦めていない。自分たちの積み重ねてきたものを信じて突き進むのみだ。
(舩木渉 / Wataru Funaki)
舩木渉
ふなき・わたる/1994年生まれ、神奈川県逗子市出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材やカタールワールドカップ取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。