森保ジャパン、対アジアへ無視できない「不安要素」 大迫VS鈴木…“守護神”不在のGK問題の行方は?【コラム】
第1次政権ではアジア杯以降に権田がポジションを掴む
森保ジャパンでは第1次政権と第2次政権で、GKに対するアプローチが大きく変わっている。
双方の船出した直後に招集された顔ぶれを振り返れば、第1次政権は東口順昭、権田修一、シュミット・ダニエルの3人で固定されたまま、2018年9月から11月までに行われた5試合に臨んでいる。先発した内訳は東口と権田が2試合ずつで、シュミットがA代表デビュー戦となる1試合。翌19年1月に開催されたアジアカップUAE大会から権田がファーストチョイスとなった流れは、昨年のカタール・ワールドカップ(W杯)まで継続された。
一転して第2次政権では、10月までの4度の活動で7人が招集された。シュミット、大迫敬介、谷晃生で形成された3月を皮切りに、6月と9月はシュミット、大迫、中村航輔で固定。10月には前川黛也と大迫に加えてパリ五輪世代の鈴木彩艶が抜擢され、さらに負傷離脱した前川に代わって小島亨介が追加で呼ばれた。ここまで行われた8試合で先発した内訳は大迫が3、シュミットが2、中村が2、そして先のチュニジア代表戦の鈴木が1で続き、9月のトルコ代表戦では負傷した中村に代わってシュミットが前半終了間際から途中出場している。
招集メンバーおよび先発した顔ぶれから、森保一監督が定める明確な基準が伝わってくる。まずは「国内の優先順位はJ1が中心」と指揮官が明言したなかで、J2の清水でプレーする権田が選外になった。所属クラブで継続して出場しているかどうかも重視されているためか、前所属のガンバ大阪で5月に入ってリザーブに回った谷は、今夏にベルギー2部のFCVデンデルEHへ期限付き移籍したあとも選外が続いている。
フランスリーグのメスへの移籍が期限ギリギリで破談になったシュミットは、残留したシント=トロイデンでリザーブにも名を連ねない状況を余儀なくされ、必然的に10月シリーズでも選外になった。怪我が癒えないためか、中村もポルティモネンセで欠場が続いている。こうした事情もあってシリーズごとにGK陣の陣容や先発が変わってきたため、第1次政権の船出以上に第2次政権の守護神選びは順調に進んでいないように映る。
しかし、なかなか固定しない顔ぶれはイコール、森保監督がさまざまな可能性を追求し続けている証でもある。ゆえに10月シリーズで大抜擢された鈴木の存在がクローズアップされてくる。主戦場とするU-22日本代表の米国遠征と日程が重複するなかでの招集について、森保監督は「A代表の戦力にふさわしいと考えた」と説明する。
「彩艶はシント=トロイデンへ移籍した直後から試合に出続け、非常に高いパフォーマンスを見せている」
森保監督とコミュニケーションを密にするU-22日本代表の大岩剛監督も、鈴木のA代表入りを歓迎する。
「彩艶だけではなく、ほかの選手も我々のグループから呼ばれる状況を歓迎している。個々のレベルアップを果たし、目標として掲げる『A代表経由パリ五輪行き』という目標を、身を持って表現してほしい」
彩艶が今夏に浦和レッズからシント=トロイデンへ期限付き移籍した背景には、シュミットが移籍する前提もあったはずだ。実際に8月下旬から6試合連続で先発(10月8日時点)を果たすなど、西川周作を超えられなかった浦和時代には味わえなかった経験をまさに現在進行形で積んでいる。シント=トロイデンを率いるヴィッセル神戸の元指揮官、トルステン・フィンク監督も彩艶が秘める稀有なポテンシャルを称賛している。
森保監督は11月以降も鈴木を“飛び級”A代表招集の意向
両代表の活動が重複する11月も、森保監督は引き続き鈴木を招集する意向を示している。チュニジア戦ではほとんどプレー機会が訪れなかったが、国内組だけで臨んだ昨夏のE-1サッカー選手権にも、当時浦和で出場機会を得られていなかった鈴木を抜擢しただけに、試合を重ねるたびに成長していく姿に大きな期待をかけているのは明らかだ。誰よりも鈴木自身が、チュニジアに2-0で勝利した後にこう語っていた。
「E-1の時は自チーム(浦和)で試合に出られていなかった。今は試合勘という部分でも非常にレベルアップできているので、A代表でも自信を持ってプレーできると思っています」
前述したように、第1次政権ではアジア杯前に守護神のファーストチョイスを権田に定めた。その流れを踏襲すれば、ミャンマー、シリア両代表とのW杯アジア2次予選に臨む11月シリーズ、もしくは来年1月のアジア杯である程度の方向性が示される可能性がある。今シーズンのサンフレッチェ広島で全30試合に先発し、9月のドイツ代表戦でも先発を任された24歳の大迫か。それともマンチェスター・ユナイテッドへの完全移籍を断り、ベルギーの地でゴールマウスを守り続ける道を選んだ21歳の鈴木か。2人を軸に切磋琢磨していく構図が生まれれば、現時点で感じられるGKへの不安はオセロゲームのように、期待へとひっくり返っていく。
藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。