大躍進・神戸の立役者、ベテラン大迫勇也に見られた微妙な“変化” 万能型FWに芽生えたリーダーの自覚【コラム】

神戸でプレーする大迫勇也【写真:徳原隆元】
神戸でプレーする大迫勇也【写真:徳原隆元】

20ゴールで得点ランク首位の大迫

 2023年J1リーグもいよいよ佳境。開幕から首位を走ってきたヴィッセル神戸が初の頂点に刻一刻と近づいている。

 8月19日の柏レイソル戦、26日のFC東京戦を連続ドローに終わり、一時は横浜F・マリノスにトップの座を明け渡したが、9月以降は復調。23日のセレッソ大阪との関西対決を制し、29日の横浜との大一番を2-0で完勝。3週間の中断期間を経て、10月21日の鹿島アントラーズとの上位対決に臨んだ。

 神戸のホームゲームながら、東京・国立競技場開催ということで、鹿島サポーターも数多く詰めかけ、完全なる本拠地という雰囲気にはならなかったこの試合。そういった外的要因に関係なく、神戸は序盤から一方的に主導権を握った。

 今季20ゴールと得点ランキングのダントツトップに立っている大迫勇也も、ケガから復帰したGK前川黛也のロングフィードを確実に競り、体を張って攻撃の起点になり続ける。前線からの守備意識も高く、日本代表・森保一監督が見守る中、まだまだインターナショナルレベルでやれるところを強烈にアピールしていた。

 この日の先制点は前半16分、左サイドを打開した井出遥也のクロスをファーから飛び込んだ佐々木大樹がヘッドで押し込む形だった。が、大迫も大外でフリーになっており、ボールが来ていたら確実に今季21点目が入っていただろう。

 1点をリードした後も神戸ペースが続き、前半終了間際には先制点と全く同じような崩しから武藤嘉紀のクロスを井出が頭で押し込んで2-0で前半を終了。後半になって鹿島も巻き返しを図ってきたものの、残り7分というところでリスタートから佐々木がもう1点を追加し、終わってみれば3-1。これで神戸は勝ち点を61に伸ばし、悲願の優勝に大きく前進する格好となった。

 勝利に直結する結果を残したのが、佐々木や井出らだったこともあり、この日の大迫は控え目だった。もともとメディアには多くを語らない男だが、ミックスゾーンを通る際、「彼ら(佐々木や井出)に話を聞いてあげてください」と発言。日頃から注目度の高い自分や武藤、山口蛍、酒井高徳ら日本代表経験のあるベテラン以外がクローズアップされるように仕向けたのだ。

 その後、自身も少しコメントしたのだが、「チームとしてこの3週間をうまく活用できたのが良かった。あと4試合ですけど、1試合1試合、やるべきことを整理しながら臨むのが一番だと思います」とあくまで神戸の戦いにフォーカス。自分自身のパフォーマンスに関しては一切、言及しなかったのだ。

 それだけ今の大迫は「神戸を勝たせたい」「自分のことよりチームの勝利」という”フォア・ザ・チーム精神”が強いのだろう。そのためにも、全体のレベルを引き上げる必要がある。佐々木らに練習からフィニッシュの部分を細かくアドバイスしていることなどは、象徴的な事例と言っていい。

「練習でもサコくん(大迫)から『最後のところ』っていうのは日々、言われていますし、常に高い意識を持つように仕向けられています。シュート練習でも『そこだよ、そこだよ、お前』とアドバイスしてくれる。シュートに入る体勢とかタイミングとか細いところまで気付かせてくれるので本当に助かります」と今季ゴール数を7に伸ばした佐々木は心から感謝していた。

 ここまで大迫が若く経験不足の選手を伸ばそうと意欲的にアクションを起こす姿は代表時代も見られなかった。彼の中で前線のリーダーとしての自覚が日に日に強まっているからこそ、こういった行動が自然と出てくるのだろう。

怪我から復帰…今季に懸けた負けず嫌い男の思い

 2021年夏にドイツ1部のブレーメンからJリーグ復帰を果たして以来、大迫はケガ続きだった。2021年は11試合出場4ゴール、2022年は26試合出場7ゴールにとどまり、クラブのAFCチャンピオンズリーグ制覇も自身の2022年カタールワールドカップ(W杯)行きも逃す結果になってしまった。

 となれば、今季は何としても復活を果たすしかない。負けず嫌いの男は自分を追い込み、結果を出し続けてきたが、1人がゴールを奪っただけではタイトル獲得には届かない。チームのスタンダードを引き上げ、総合力や選手層を高めていくことが必要不可欠だ。

 今シーズン途中にアンドレス・イニエスタ(エミレーツ・クラブ)という名手が去ったこともあり、「自分たち30代のベテランがやらなければいけない」という思いはひと際高まったはず。それが佐々木らへの懇切丁寧なアドバイスとどこからでも点を取れる基盤作りにつながっているのではないか。

「(9月以降は)いいタイミングで暑さもなくなり、メンバーも変わり、新たに入った選手がうまくフィットして勝てるようになった。みんなが努力を続けたからこそ、結果が出ていると思いますけど、そこは引き続きやるしかないんで」と大迫は継続の重要を改めて強調したが、タテに速いサッカーの完成度を高めていけば、必ずタイトルを手にできるという確信があるはずだ。

 あとは彼自身がどれだけゴール数を伸ばすかだ。直近5試合では横浜FM戦のPK1点だけで、大迫包囲網が時間を追うごとに強まっている印象だが、彼ならば「味方を生かして自分が生きる」という頭脳的な得点パターンを構築できる。

 上昇気流に乗っている佐々木、2ケタの大台まであと1点と迫っている武藤をうまくおとりにしつつ、大迫が万能型ストライカーの才能をいかんなく発揮していけば、あと5点くらいは積み重ねられるのではないか。それくらいの頭抜けた実績を残し、Jリーグ全体に好影響をもたらしてくれれば理想的だ。

 ラスト4戦、半端ない点取り屋の真髄をピッチ上で思い切り表現し、自他ともに認める大きな成果を残してほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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