J1初制覇へ邁進…神戸が示すチーム作りの理想型 リーグ活性化には育成型のカウンター勢力台頭も望まれる【コラム】

神戸が鹿島に勝利し、J1優勝に前進【写真:徳原隆元】
神戸が鹿島に勝利し、J1優勝に前進【写真:徳原隆元】

鹿島に完勝した神戸、日程面の優位性を考えるとこのまま逃げ切りで優勝か

 ヴィッセル神戸が国立でのホームゲームで鹿島アントラーズに完勝し、J1リーグ初制覇に向けて大きく前進した。

 過剰に盛り上げようとアナウンスの度に音が割れる環境設定は不快だったが、東京・国立競技場には6月のFCバルセロナ戦(4万7335人)を上回る5万3444人の観衆が詰めかけ、おそらく6~7割方を占めた神戸ファンは快勝劇を満喫した。

 現在神戸は2位の横浜F・マリノスに4ポイント(P)、3位の浦和レッズには8Pの差をつけており、リーグ戦のみに集中できる上にチームコンディションも充実。一方故障者連鎖でやり繰りに苦しむ横浜FMはJ1最終節までにAFCチャンピオンズリーグ(ACL)が3試合組み込まれ、浦和にはさらにルヴァンカップ決勝も控えるので、日程面の優位性を考えても逃げ切る公算は濃厚になったと見るべきだろう。

 一応上位に踏みとどまる鹿島は、優勝戦線の鍵を握るチームという見方もできた。第30節には首位神戸戦、第32節には3位につける浦和戦を残していたので、どちらにとっても頂点に立つためには乗り越えなければならない難敵だった。

 ところが終わってみれば、鹿島の岩政大樹監督が「完全な力負け」と振り返るように、神戸は前半からまったく付け入る隙を与えなかった。序盤から鹿島陣内に押し上げると、早くも16分には13本のショートパスを連ねたあとに、左サイドで井出遥也が仕掛けて佐々木大樹にピンポイントクロスを届けて先制。さらに前半終了間際には、山口蛍が左サイド裏へロングボールを供給すると、追い付いた武藤嘉紀がタメを作りノーステップでの絶妙なクロスで井出の追加点を導く。そして後半には、セットプレーからジェアン・パトリッキのヘディングがポストを直撃し、拾った佐々木がダメを押した。

 今年の神戸の強さを支えるのは、何よりも個々の成熟だ。この日も先制ゴールはじっくりとボールを回してから崩し、2点目は自陣最後尾近くからのカウンター、さらに3点目はセットプレーからと攻撃が多彩。つまり状況に応じて最適解を選択し、それを具現化できる選手たちが揃っている証でもある。

 また神戸の吉田孝行監督は「クロスからのゴールが多く、クロスから失点しないのがウチの強み」と語り、敗れた鹿島の岩政監督のほうは「前回(ホーム)の試合でも相手が狙う同じような形でやられた。あの形を何度もやられれば失点は避けられないので、防ぐにはそういう場面になる回数を減らすしかない」と振り返っている。実際神戸は鹿島に乗り込んでのアウェー戦でも、サイドの裏を起点とする攻撃で揺さぶり決定機を連ねて5-1で大勝した。結局鹿島側からすれば、前半戦での課題を克服できずに同じシナリオを重ねたわけだから「力負け」と評するしかなかった。

充実の表情を見せた酒井高徳【写真:徳原隆元】
充実の表情を見せた酒井高徳【写真:徳原隆元】

神戸型の強化は理想のチーム作り、中堅以上で構成すれば同じメンバーで熟成も可能

 神戸は海外も含めた経験豊かな選手たちで構成されている。スタメンでは、大迫勇也、武藤、山口、酒井高徳の4人が欧州からJへの復帰組で、シーズン途中で故障離脱した齊藤未月も含めて経験値に重きを置いた補強を重ねてきた。

 反面当然ながらそこに若い選手たちが割って入るのは難しいので高齢化は避けられず、特にインテンシティーの高いスタイルだけにシーズンを通してのコンディション維持が懸念されたが、リーグ戦に集中できる状況も後押しして巧みに乗り切った。もちろん齊藤や菊池流帆など不運な大怪我もあったが、ライバルと目された横浜FMや川崎フロンターレで故障者が連鎖したのと比べればダメージは最小限に止められた。

 欧州基準を知るベテランがチームを牽引し、国内組を引き上げていく構図は、日本のような輸出国では理想のチーム作りだ。また欧州で経験を積み帰国した選手たちと、中堅以上の選手たちで構成すれば、一定期間同じメンバーでの熟成が見込めるのでリスクが少ない。

 ただこうしたチーム作りが可能なのは、先進国でも限られている。鹿島戦の平均年齢は、スタメンが29.55歳、ベンチ入り18人は29.96歳。さらに神戸が常勝を続けていくには、補強の成功が不可欠になる。

 リーグが誕生を望むリーダーになるには、神戸型の強化が理に適った必然なのかもしれない。しかし今後一層リーグが活性化していくためには、欧州に引き抜かれる人材を輩出しながらも鮮度を保ち続ける育成型のカウンター勢力の台頭も望まれる。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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