W杯アジア予選の生き残りへ一発回答 古橋亨梧、熾烈な1トップ争いの現在地【コラム】

日本代表の古橋亨梧【写真:徳原隆元】
日本代表の古橋亨梧【写真:徳原隆元】

チュニジア戦では前半終了間際に先制ゴールをマーク

 3月のウルグアイ戦(東京・国立)で本格始動し、17日のチュニジア戦(神戸)まで8試合を消化。6勝1分1敗という目覚ましい成績を残している第2次森保ジャパン。勝った相手の多くが大国・ドイツや2022年カタール・ワールドカップ(W杯)出場国のカナダ、チュニジアといった強豪で、その相手に大量得点を奪っている点を見ても、今のチームには凄まじい勢いが感じられる。

 キャプテン遠藤航(リバプール)が「シンプルに前のタレントが多い」とコメントしていたが、10月シリーズは三笘薫(ブライトン)、鎌田大地(ラツィオ)ら主力級が不在。にもかかわらず、久保建英(レアル・ソシエダ)や伊東純也(スタッド・ランス)、旗手怜央(セルティック)らが攻撃陣を力強くけん引した。

 チュニジア戦のMVPとも言っていい活躍だった久保は「2列目の競争は厳しいですよね。一昔前の日本代表が羨ましいです」と苦笑いした。確かに、本田圭佑、岡崎慎司(シント=トロイデン)、香川真司(セレッソ大阪)の「ビッグ3」への依存度が高かった2014年ブラジルW杯当時を考えてみると、やはり隔世の感がある。欧州トップクラブで活躍する選手も大幅に増え、日本サッカーが着実に進化しつつあるのは間違いないだろう。

 その反面、物足りないのがFW陣ではないか。98年フランスW杯の中山雅史(沼津監督)、2002年日韓W杯の鈴木隆行(解説者)と柳沢敦(鹿島ユース監督)、2006年ドイツW杯の高原直泰(沖縄SV)、2014年ブラジル、2018年ロシアW杯の大迫勇也(神戸)など、代表には最前線を担ったタレントが何人かいたが、つねに人材難が指摘されてきたのも事実だ。

 2010年南アフリカW杯に至っては、本田圭佑を1トップに据える苦肉の策を講じたほど。その本田がW杯歴代最多の4ゴールを挙げているのも皮肉なところだ。華麗な2列目に比べると、突出した人材がなかなか出てこないのが日本の実情なのである。

 現代表を見ても、森保監督の秘蔵っ子である浅野拓磨(ボーフム)を筆頭に、カタールW杯メンバーの前田大然(セルティック)と上田綺世(フェイエノールト)、昨季スコットランドでMVP&得点王に輝いた古橋亨梧(セルティック)が最近の常連メンバーだが、序列は横一線。突き抜けた絶対的存在はまだ出てきていない。

 9月シリーズではドイツ戦(ヴォルフスブルク)で値千金の決勝弾を挙げた上田が強烈アピールを見せ、主軸FWに躍り出そうな雰囲気が漂った。そこで危機感を募らせたのが、カタール落選組の古橋。彼はトルコ戦(ゲンク)でスタメンに抜擢されながら、決めるべきチャンスを逃しており、当落線上から脱しきれなかった。だからこそ、10月シリーズでは確固たる結果が求められた。

 今回、背番号11を着ける小柄な点取り屋が起用されたのは、カナダ戦の後半27分からとチュニジア戦の前半45分間。不動の地位を確立しているセルティックとは異なり、限られた時間にゴールを奪わなければ、自身の立ち位置が変わらない。そればかりでなく、前線で起点になる仕事、献身的な守備など、幅広いタスクも要求される。それを高いレベルでこなさなければ、代表定着も叶わないのだ。

 チュニジア戦の古橋はそういった幅広い役割をこなそうと精力的に動いていた。相手が5バックで強固なブロックを作ってきただけに、なかなかスペースがなかったが、駆け引きしながら背後を突く意識を強く押し出した。かつてプレーしたヴィッセル神戸の本拠地・ノエビアスタジアム神戸でのゲームだったこともあり、熱狂的な応援も大きな力になったはずだ。

古橋が今後見せるべき姿とは

 開始11分には自ら奪ったボールをドリブルで一気に持ち上がり、フリーキック(FK)をゲット。久保のシュートは惜しくも外れたが、まずはいいプレーで弾みをつける。この2分後には右からドリブル突破してきた伊東のラストパスに反応するも、DFに間に入られ、シュートを打てなかった。さらに33分には、遠藤のタテパスに反応。伊東とともに飛び出し、決定機が生まれそうになったが、最終的には決めきれない。苛立ちが募る展開を余儀なくされた。

 直後には上田がアップを開始。古橋はハーフタイムに交代を告げられるのを察したはずだ。となれば、残された時間に何とかするしかない。それがついに結実したのが、前半43分の先制点だった。

 守田英正(スポルティング)→久保→旗手とタテパスがつながり、旗手がスルーパスを出した瞬間、古橋は鋭い動き出しを見せ、DFに当たって跳ね返ったボールをトラップ。しっかりと右足で蹴り込んだのだ。

「流れの中で出てくればいいなかと動き出していて、偶発的に相手に当たってボールが来たんですけど、思っていた以上に自分の中で落ち着いてトラップできましたし、GKを見ながらどっちにも蹴れるポジションにボールを置けた。それは良かったと思います」と本人も安堵感をにじませた。

 ここで決めていなければ、本当に次がないかもしれなかった。生き残りを猛アピールしたという意味で、この一撃は大きな価値があった。

 今回は上田が結果を出せず、不完全燃焼に終わったものの、浅野がカナダ戦で目覚ましいパフォーマンスを披露。古橋がファーストチョイスにのし上がったわけではない。今後、さらなる高みを目指していくためにも、武器である裏抜けに磨きをかけるのはもちろん、前線でターゲットになる仕事にも貪欲にも取り組んでいくべきだ。

 華奢な点取り屋にそれを求めるのは酷かもしれないが、相手がベタ引きしてくるアジア予選の場合、FWが前線で時間を作らなければ厚みのある攻撃ができなくなりがち。自身のマイナス面を克服していくことで、古橋には明るい未来が開けてくるだろう。

「クラブでやり続けないと次は選んでもらえないと思うので、頑張りたいです」と本人も力を込めていた。所属先の試合では、特にUEFAチャンピオンズリーグ(CL)でのパフォーマンスが重要になってくる。

 10月4日のラツィオ戦で欧州CL初ゴールを挙げ、彼自身も大いに自信をつけただろうが、この先、対峙するアトレティコ・マドリード、フェイエノールトらに対しても脅威を与えるプレーを見せられれば、森保監督の評価もグッと上がるはず。指揮官はスコットランドリーグよりも欧州CLを重視している。そこは彼自身も頭に入れながら、10~11月の試合に向かっていくべきだ。

 古橋が欧州の舞台でもゴールを量産するようになれば、代表1トップの定位置も見えてくる。そうなるように祈りつつ、まずは10月25日のアトレティコ戦をしっかりと見極めていきたいものである。

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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