クレバー集団へ変貌の日本代表 「なまくら刀」→「鋭利なナイフ」の進化と“本物”スタイル【コラム】
【カメラマンの目】チュニジア戦の1本のパスに象徴される日本代表の確固たる強さ
その日本代表の一連のプレーをカメラのファインダー越しに見たあと、スタジアムのウィングビジョンに設置されたデジタル時計で時間を確かめた。前半6分が過ぎた、まだゲームのスコアが動いていない序盤だ。
やや右サイドに位置していた久保建英は、後方でボールをキープする味方に対して、自らの力でチュニジア代表の守備網に風穴を開けようと、自分にボールを渡してくれとジェスチャーで示す。
しかし、ボールは久保を追い越してさらに前線にいた選手へと送られた。この1本のパスは続くプレーでゴールが生まれたわけではなく、また得点へと迫る決定的な場面が描かれたわけでもない。だが、この1本のロングパスは今の日本代表の確固たる強さを象徴していると言える。
なるべく手数をかけずに素早く前線へとボールを運び、相手の守備体制が整う前にゴールを奪取する。余計なボールキープをせず、選手たちの意識は相手ゴールへと貫かれ、その目的を的確に遂行する。6連勝と好調が続く日本の最大の武器となっているのが、この一気呵成にゴールを目指す選手たちの統一された意識だ。
日本は旗手怜央が相手の急所を突くパスのタイミングを虎視眈々と狙っていたように、後方と中盤の選手のパス交換で相手を誘い込むと、機を見て空いたスペースに向かって一気にスルーパスやロングパスを供給して相手ゴールへと迫った。
また、伊東純也をはじめとした攻撃陣による単独のドリブル突破による切り崩しに冴えを見せた。トップ下に入った久保もテクニックを駆使してチュニジア守備網に挑み、存分に存在感を発揮。さらにチュニジアの守備陣がゴール前を固めれば、ミドルシュートを放つなど多彩な手段で敵ゴールの攻略に着手した。そうしたダイナミックな攻撃にスタンドを埋めた観客も大いに沸いた。
以前の日本は、攻めあぐねるなかで無用なボール回しを続ける場面も見られた。そうした攻撃に鋭さはなく、なまくら刀の切れ味でしかない。
昨年のカタール・ワールドカップ(W杯)コスタリカ戦でも、日本のプレースタイルからはそうした兆候が見られ案の定、敗れることになる。対して対ドイツ、スペイン、クロアチア戦では強敵という意識もあってか、強固な守備網を敷き、素早いカウンター攻撃で状況の打開を試みた。結果は誰もが知っているようにドイツとスペインに勝利し、PK戦で敗れはしたもののクロアチア相手に互角の展開を見せた。
成功と失敗で磨きをかけた果断速攻のスタイル、総仕上げのFWが見つかれば…
日本の目指すべきスタイルはサッカー界最高峰の大会を経験したことによって、その方向性が徐々に固まっていく。第2次森保一政権となった最初の3月シリーズではポゼッションサッカーの比重を強めた結果、消化不良の内容に終わった。鈍重な攻撃がいたずらに時間を消費し、得点へのチャンスを失うという事実をチーム全体で知ることになる。
日本は成功と失敗を経験しながら磨きをかけ、果断速攻のスタイルを取り入れ9月のヨーロッパ遠征では強豪ドイツと互角に渡り合い勝利。10月シリーズを戦った日本の得点への表現方法は、まさに鋭利なナイフを思わせるほど切れ味があった。
これで2026年W杯のアジア予選に向けて、日本が目指すべき戦い方の礎は出来上がったと言える。それでもチームの完成度にまだまだ伸びしろはある。最前線のセンターフォワードで圧倒的な存在感を示す選手が現れていない。攻撃への流れが確立されてきているだけに、ゴールへの総仕上げとなるプレーを任されるFWが見つかれば、日本のレベルは強豪国への階段をさらに駆け上がることになる。
ただ、現状でもサムライブルーの強さは本物だ。勝利という結果だけでなく内容も伴うクレバーな集団となっている。そしてこの本物の強さが実際にどれほどのレベルなのかを知りたいという思いに駆られる。親善試合ではなく、相手が高い勝利への意識を持って対抗してくるビッグイベントで、その能力を見てみたいと思う。そうしたビッグイベントで日本が躍動し、勝利する姿を現実的に想像できるほど、今のサムライブルーの強さには期待が持てる。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。