中村俊輔伝説 今もグラスゴーで語り継がれる、2本のフリーキックの奇跡
「なんてこった、全く同じ位置だ!」
「アウェイのフリーキックはテレビで見たが、ホームの2発目は生で見たんだ。あんなことってあるのかい!? ディジャブかと錯覚するほど、全く同じ位置だったよ。距離は35ヤード。右サイドの深い位置。誰もが思ったはずさ、『なんてこった、オールド・トラッフォードと全く同じ位置だ!』って。
あのオールド・トラッフォードのフリーキックは完璧だったね。ニアの右サイドのトップコーナーぎりぎりに飛び込んだんだ。壁の頭の上をすれすれで通過したから、ファンデルサールには蹴り出しが見えなかった。それにあの球速だろ、だから一歩も動けなかった。あのフリーキックにはさすがのオランダ代表GKもノーチャンス(全くチャンスなし)だった。いや、誰がキーパーでも止められない、ものすごいフリーキックだった。
あの試合は俊輔のフリーキックで一旦2-2に追いついたけど、最終的には2-3で惜敗して、あのゴールが活かされなかった。
だからみんなが思ったはずさ。こんなことになるなら、あの完璧なフリーキックをこの瞬間までとっておけば良かったのにとね」
ところが中村俊輔は2度目も決めた。しかも今度は欧州CLトーナメント・ステージがかかり、後半36分、0-0が81分も続いた緊迫した場面だった。
ファンデルサールだって、前回のイメージがあったはずだ。同じような位置からまた同じようなゴールを決められるわけにはいかない。今度は動いた。ニアのトップコーナーに2メートル近い長身を思い切り伸ばし、左手を伸ばした。けれども俊輔はまたも、世界中のどんなゴールキーパーにだって止められない、ノーチャンスのフリーキックを蹴った。