中村俊輔伝説 今もグラスゴーで語り継がれる、2本のフリーキックの奇跡
いまだ多くのファンの脳裏に刻まれる俊輔の功績
キックオフは午後1時だから、12月14日の午後1時45分過ぎには、グラスゴーのセルティック・パークで万雷の拍手と歓声が巻き起こることだろう。
そしてその拍手と歓声の中心には中村俊輔がいる。
2005年8月7日の夕刻、筆者はBBCラジオ・スコットランドからの電話を待っていた。その前日、ダンディー・ユナイテッドとのホーム戦で、中村俊輔はセルティックでのデビューを飾っていた。
2-0でセルティックが完勝した試合、はじめてスコットランドのピッチに立った俊輔はシンプルなプレーを心がけていた印象だった。
先発して後半39分まで悠々と、軽快にプレーしていた。いつもよりやや深めの位置で、自分を窮屈にしない形を作ってパスを受け、ボール離れも早かったと思う。しかしファーストタッチの精度は高く、どんな強いボールでもいとも簡単に足元に収めてしまうと、的確なパス相手を瞬時に選択してボールを動かした。
だからその印象をそのままBBCの番組で話した。「フィジカルが強いスコットランドでのデビュー戦、いつもよりシンプルなプレーを心がけていたと思う。本来の俊輔はもう少しfancy(サッカーでは自在性を表し、または”派手”という意味もある言葉)な選手だ」と。
すると、電話の向こう側で「WOW!」と短い歓声が上がるのが聞こえた。続いて「あれ以上にfancyな選手なのか!?」というつぶやきが聞こえてきた。
あの日から9年2か月が過ぎた2014年の10月23日、日本人MF瀬戸貴幸が所属するFCアストラとのヨーロッパ・リーグ戦を取材するため、筆者は久々にセルティック・パークを訪れた。2009年6月に中村俊輔がエスパニョールへ移籍してから、すでに5年4か月の月日が流れていた。