久保建英、試練の10月シリーズ 過酷な日程、熾烈な競争…“本職”右ウイングで真価を発揮できるか【コラム】
森保監督が「一番生きるところ」を「右ウイング」と明言
2026年北中米ワールドカップ(W杯)優勝を目指す日本代表にとって、10月シリーズは数少ないテストの場。ここからアジア予選、来年1~2月のアジアカップ(カタール)を控えているため、底上げを図ろうと思うなら今回のカナダ(13日=新潟)・チュニジア(17日=神戸)2連戦を最大限有効活用しなければならないだろう。
「基本は4-1-4-1でスタートかなとは思っています」と森保一監督は前日会見で語ったが、今日のカナダ戦は6月シリーズで採用した布陣をベースに挑む構えのようだ。
そこで気になるのが、攻撃陣の陣容。三笘薫(ブライトン)不在で左サイドは中村敬斗(スタッド・ランス)でほぼ確定だが、右サイドは読めないところ。中村敬斗との関係性を踏まえると、同じクラブの先輩・伊東純也(スタッド・ランス)と組ませるのが無難と言えるが、今季絶好調の久保建英(レアル・ソシエダ)を本職のポジションで使わないのはもったいない。
「一番生きるところは4-3-3の右ウイングかなと思っています」と森保監督もスペインで異彩を放つ彼をリスペクト。この位置で積極的に使っていこうという意向を垣間見せている。今回のカナダ戦は期待して良さそうだ。
久保が右に入る場合、対面に位置するカナダの絶対的スター、アルフォンソ・デイビス(バイエルン・ミュンヘン)と1対1で対峙するシーンも増えてきそうだ。
「タケは9月のドイツ戦(ヴォルフスブルク)の時も『攻撃もできるけど守備も献身的にチームに関わっていく』という、我々の全員攻撃・全員守備というコンセプトに貢献する姿勢を見せてくれてた」と指揮官は守備面の献身性も高く評価している。ただ、相手の推進力が凄まじい分、守備負担がより大きくなり、久保らしい攻撃センスが出しづらくなることも想定される。
ただでさえ、リーグ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)、代表の掛け持ちと長距離移動の負担で疲労困ぱいの久保だけに、かなり厳しい状況に追い込まれるかもしれないが、そこで自力を見せてこそ、真のトップ選手。ゴールに直結するプレーを出せてこそ、代表の看板に相応しい存在と言えるのだ。
「僕のサイドなんかは(相手が)1人、2人、3人と包囲網みたいのを敷いてくることが多い。そういう中でもやれる自信はあります。サイドで2枚、2枚で引きつけられたら、中はすごい楽。そういったレベルに前目の選手が到達していくことが日本代表のレベルアップにつながると思います」と久保自身もコメントしていたが、サイドで敵を凌駕できればできるほど、得点に近づくし、勝利の確率も上がる。それだけの迫力ある仕事を代表でも見せられれば、久保はもう一段階序列を上げ、エース級の1人に上り詰めることができるのだ。
ここまでの久保は、代表では足踏み状態が長く続いている印象が強かった。第1次森保ジャパンの4年間はまさにそう。18歳5日という若さで2019年6月のエルサルバドル戦(宮城)で初キャップを飾ったにもかかわらず、出場時間が増えず、最終予選のほとんどをケガで棒に振った。本大会もドイツ、スペイン戦で先発したが、守備に忙殺されるばかり。クロアチア戦の発熱欠場含め、彼らしさを出せずに終わってしまった。
今年からの新体制移行後も、いきなりコロナ疑いで静養を余儀なくされ、3月シリーズの出番はコロンビア戦(ヨドコウ)の終盤だけ。6月以降、ようやくコンスタントにプレーできるようになり、トップ下、右サイド、インサイドハーフの3つのポジションを担っているが、レアル・ソシエダのような圧倒的存在感を示すには至っていない。本人が望んでいたエースナンバー10を与えられなかった通り、森保ジャパンでは今も看板アタッカーになり切れていない。そこは本人も認めるところだろう。
中村俊輔や香川真司もぶち当たった壁…エースに立ちはだかるコンディション調整の苦しみ
ゆえに、自身の立ち位置をグッと引き上げるべきだ。10代の頃から全てのカテゴリーで飛び級昇格してきた久保は際限ないポテンシャルを備えた逸材。そこは誰もが認めるところだ。20歳前後の数年間は確かに苦しみも味わったかもしれないが、今季CLデビューを果たし、最高峰の舞台を日常にしている今を逃してはならない。本人も覚悟を持って10月シリーズに挑んでいるはずだ。
「正直、日本でいろいろ待ってくれている人もいるし、新潟のチケットも完売だと聞いていますし、そういう人のために試合できるのはすごく幸せです。菅原(由勢=AZアルクマール) なんかは僕より試合に出てますけど、文句ひとつ言わずに帰ってきて試合に出ている。そういうことをファンのみなさんも頭の片隅に入れてもらえれば、より楽しみに試合を見てもらえると思います」と彼はタイトな日程を乗り越えて代表の責務を果たそうとしている。
こういった苦しみは過去の欧州組エース級アタッカーの大半が経験してきたこと。中村俊輔(横浜FC)コーチなどは、レッジーナ、セルティック時代に毎月のように日本と欧州を行き来し、時差調整に苦しみ、睡眠薬を飲んで代表戦に照準を合わせていたと言われる。香川真司(セレッソ大阪)も「ドルトムントの輝きを代表では示せていない」と揶揄され続け、クラブと代表の両立に苦しんだ。三笘も今、初めての過酷なスケジュールと戦っているが、久保にしてもそれを乗り越える術を見出しつつ、折り合いをつけていくしかない。
いずれにしても、久保には代表27試合2ゴールという数字をもっともっと引き上げてほしいところ。彼ほどのフィニッシュの精度と迫力を備えたアタッカーがまだ代表で2点というのはあまりにも少なすぎる。香川の31点、中村俊輔の24点という領域はまだまだ遠いが、そういう選手が出てこなければ、日本が3年後のW杯で頂点に立つのは難しい。
今季スペイン1部8試合5ゴールと驚異的なハイペースでゴールを重ねている今の久保ならシュート時の冷静さと落ち着きは特筆すべきものがある。その感覚を代表に持ち込むことに集中してほしい。今回をきっかけに、ここからゴール量産体制に突入する背番号20の一挙手一投足が楽しみだ。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。