FWトリオ、守備意識、スーパーサブ…柏が見出したJ1残留への“指標” 連係面の向上で掴んだ完勝劇【コラム】
【カメラマンの目】天皇杯の準決勝はJ2熊本と戦い4-0で勝利
柏レイソルがロアッソ熊本を相手に4-0とスコア通りの完勝を挙げて、天皇杯決勝への進出を決めた。試合開始から攻守に渡って積極的に仕掛けた柏は、熊本に長所を出させず終始、主導権を握る圧倒的なサッカーをスタンドから大声援を送っていたサポーターたちに披露した。
守備ではボールを持った相手選手を激しいプレスで追い込んで攻めの形を作らせず、攻撃に転じればスピードに乗った迫力のあるプレーで熊本ゴールへと進出し、結果4ゴールを奪取。シーズン開幕からの低迷を打破するために指揮官交代の決断に至っても、なかなか調子が上向かなかったが、粘り強く勝利を探究した井原正巳監督のもと、ようやくここにきて戦い方が定まってきた印象だ。
決勝という大舞台への進出を懸けた一発勝負となると、どうしても慎重なゲーム運びとなってしまうものだ。しかし、柏の選手たちは試合開始から勇気を持って大胆に、そして激しくプレーした。勝利への飽くなき渇望から生まれる豊富な運動量を武器としたフィジカルプレーは、ダイナミックで多少のパスミスや連係のズレも帳消しにしてしまい、終始ゲームを支配した。
チームを牽引したのは前線の3トップ。細谷真大、山田康太、そしてマテウス・サヴィオのFWトリオは前線からボールを持った熊本の選手へプレッシャーをかけ続け、攻撃でもスピードに乗って攻め込む攻守に渡って気迫のこもったプレーを展開し、チームにリズムをもたらした。
細谷は相手の守備選手から強いプレッシャーを受けるゴール前でも冷静なプレーが光り、山田は迫力ある突破で存在感を発揮した。ゴール裏からカメラのファインダーに捉えた柏のFWトリオは、対人プレーとなる局面を個人技で勝利し、なおかつ視野を広げた連係も強く意識しているように見え、実にバランスのいいハーモニーを醸し出していた。
攻守に渡って存在感を発揮した3トップだが、彼らのなかでもっとも光彩を放っていたのがM・ザヴィオだ。エースナンバー10番を背負うこのブラジル人は、高い個人技で相手守備網を切り崩してチャンスを演出し、自らも積極的にゴールを狙い攻撃をリードした。
ただ、そうした個人技だけに走るのではなく、チームとしての動きもしっかりとこなしている。
この試合でも熊本が柏側から見た左サイドを突破して行くと、ジエゴと連係して攻撃を防いでいる。ジエゴがボールを持った熊本の選手を追いながら、ボール奪取のためにさらに間合いを詰めるフェイントを繰り返してスピードを鈍らせると、前線から自陣へと戻ったM・ザヴィオが隙を突いてボールを奪うという、組織の一員としての役割も怠っていない。
さらに後半36分にドウグラスが交代でピッチに立つと、その動きに呼応してスルーパスを前線へと供給していた。ドウグラスは他のFW陣と同じく積極的に前線からプレスを仕掛け、さらにポストプレーもこなし、放つシュートも正確なオールラウンドのFWだ。短い出場時間だったが、先発した3人のFWとも連係面で相性が良いように見えた。
柏は天皇杯決勝だけでなく、J1残留に向けてリーグ戦でも緊張感を伴う試合が続く。それだけに安定感のあるドウグラスの存在は、スーパーサブとして貴重な戦力になりそうだ。
ピッチに立つフィールドプレーヤー全員が高い守備意識を持ち、チーム全体で攻守の切り替えを早くし、ミスを恐れずダイナミックにプレーする。この天皇杯準決勝はシーズン終盤に向けて、柏が行うべきサッカーの指標となる試合になったのではないだろうか。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。