ラ・リーガ上位争いに異変 クラブ創設93年目で初の首位浮上…伏兵ジローナ旋風はなぜ起きた?【現地発】
サラリーキャップは20チーム中13番目…ジローナが序盤戦で躍進
第7節を終えたスペイン1部リーグ、ラ・リーガでは今、大きなサプライズが起こっている。それはジローナがクラブ創設以来、93年目にして初めて首位に立ったことだ。
ジローナは開幕戦でレアル・ソシエダに引き分けたあと、破竹の勢いで勝ち続け、前節ビジャレアル戦で2-1の逆転勝利を収めたことで6連勝を達成。ここまでの成績は7試合で6勝1分の勝ち点19で2位。レアル・マドリード(勝ち点18/3位)、FCバルセロナ(勝ち点20/首位※)とともに、堂々の上位争いを繰り広げている(※第8節を9月29日に消化)。
ジローナの今夏の移籍市場終了後のサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)は5197万6000ユーロ(約83億1616万円)。これはプリメーラ(1部)20チーム中13番目と多くはない。
サラリーキャップ1位のレアルが7億2745万1000ユーロ(約1163億9216万円)、2位アトレティコ・マドリードが2億9635万7000ユーロ(約474億1712万円)、3位バルセロナが2億7002万6000ユーロ(約432億416万円)であることを考慮すると、ジローナの成し遂げたことがどれだけ凄いのかが分かるだろう。
今季、ジローナではサンティ・ブエノ、オリオール・ロメウ、ロドリゴ・リケルメ、そしてレアル相手に1試合4得点という離れ業をやってのけたバレンティン・カステジャーノスといった主力選手が退団した。これを補うため、プリメーラで7番目に多い2200万ユーロ(約35億2000万円)を投資して大型補強を敢行。クラブ史上最高額の750万ユーロ(約12億円)で獲得したウクライナ代表のアルテム・ドフビクを筆頭に、ジョン・ソリス、ポルトゥ、デイリー・ブランド、エリック・ガルシア、パブロ・トーレ、サビオが加わった。
ジローナがプリメーラに初めて辿り着いたのは2017-18シーズンとごく最近のこと。初年度は10位、2018-19シーズンは18位でセグンダ降格、プリメーラ復帰を果たした昨季は10位という結果で終わっていたにもかかわらず、なぜ今季これほどの成績を残せているのだろうか。
その功績は2016-17シーズンにラージョ・バジェカーノ、2019-20シーズンに岡崎慎司を擁するウエスカ、そして2021-22シーズンにジローナと、3回に渡りチームをプリメーラに昇格させる偉業を成し遂げてきたミチェル監督によるところが大きい。
また、イングランド1部マンチェスター・シティを頂点としたシティ・フットボール・グループに属していることも成功の要因と言える。これにはさまざまな分野のサポートを受け、上質な選手を回してもらえるという大きな利点がある。
今季、マンチェスター・シティからヤンヘル・エレーラを買い取り、ヤン・コウトが2季連続レンタルで所属。そして現在、ラ・リーガ最大の注目選手の1人となっているU-20ブラジル代表のサビオが、同グループ傘下のトロワ(フランス)からレンタルでやって来た。
攻撃を牽引するサビオは9月の月間MVPにノミネート
ジローナで3季目を指揮するミチェル監督が目指すサッカーは、できるだけ多くの得点を奪うという非常に攻撃的なもの。システムは4-1-4-1を貫き、スタメンはほぼ固定されている。
ゴールマウスを守るのは昨季以上にファインセーブを連発しているパウロ・ガッツァニーガ。最終ラインではバルセロナからレンタル加入したエリック・ガルシアがブリンド、もしくはダビド・ロペスとセンターバックでコンビを組み、精度の高いパスで攻撃の起点となっている。さらにアルナウ・マルティネスとミゲル・グティエレスの両サイドバックと連係し、うまく失点を抑えている。
中盤ではアンカーのアレイシュ・ガルシアがラ・リーガ3位のパス本数を記録してオリオール・ロメウの抜けた穴を十二分に埋め、イバン・マルティンやヤンヘル・エレーラとともにクオリティーの高い中盤を形成している。
また勇敢に戦うことを好むミチェル監督は、大きな武器であるサビオやビクトル・ツィガンコフといったサイドアタッカーの高い能力を生かしつつ、DFを含めた多くの選手で相手ゴールを包囲することを目指している。
特に素晴らしいパフォーマンスを発揮しているのは左サイドハーフのサビオ。ここまで全7試合に先発し2得点4アシストを記録し、ラ・リーガのアシストランキングでアレックス・バエナ(ビジャレアル)と並びトップに立ち、ドリブル成功数18回はラ・リーガで2番目に多い。
さらにミチェル監督が「スペインでヴィニシウスが頭角を現して以来、あれほど突破力のある選手は見たことがない」と驚きの表情を見せ、スペイン紙「マルカ」が次節レアル戦に向け、「ラ・リーガ屈指の突破力を誇る、世界でもトップクラスの2人がピッチで対峙」とヴィニシウスとの対決を煽るほどの逸材。久保建英(レアル・ソシエダ)、ロベルト・レバンドフスキ(バルセロナ)、ジュード・ベリンガム(レアル)、イニャキ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)とともに9月の月間MVPにノミネートされている。
これらのチームメイトに支えられ、フィニッシュワークの役割を果たすワントップのドフビクは、ロングボールを受ける能力やサイドに流れる動きでチームに貢献し、ここまで3得点2アシストを記録。長年ジローナの前線に君臨してきたベテランのクリスティアン・ストゥアーニからレギュラーの座を奪っている。
またポルトゥ、ストゥアーニ、パブロ・トーレ、ジョン・ソリスなどがベンチに控えており、特に攻撃面のバックアップが充実している。
「我々の目標はプリメーラ残留」首位争いの偉業も指揮官は冷静
相手に怯むことなく攻め続ける姿勢が実を結び、第7節終了時点でバルセロナと並ぶ最多18得点を記録した。さらに空中戦に強く、ヘディングでの5得点はラ・リーガ2位。しかしこのような戦い方は当然、ディフェンス面に大きなリスクを伴うもの。守備陣の奮闘により総失点数を8で抑えているが、被シュート数はラ・リーガで2番目に多い96本のため、どれだけ減らせるかが今後の課題となりそうだ。
ラ・リーガでの首位争いという偉業を成し遂げながらもミチェル監督は、「我々の目標は明確だ。プリメーラ残留のために戦わなければいけない」と冷静だ。さらに30日にホームで行われるレアルとの上位対決でチームの真価が問われることになるが、「世界中が我々に注目しているのは贅沢なこと」と全くプレッシャーを感じていない様子を見せていた。
ジローナが昨季同様にモンティリビ(本拠地)でレアルを破り、再び首位の座をキープできるかどうか、非常に楽しみな一戦となるだろう。
(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。