セルティック岩田智輝が上り詰めたCL夢の舞台 深めた“ポリバレント”への自信と「強み」【コラム】
CLフェイエノールト戦 で古橋と交代でCBとして途中出場
2023-24シーズン、スコットランド1部で開幕から首位を走るセルティック。だが、昨季リーグ・リーグカップ・FAカップの3冠へと導いたアンジェ・ポステコグルー監督(現トッテナム)が去り、ブレンダン・ロジャーズ監督体制に移行して間もない彼らは目下、模索の最中にいる。ここまでの戦いを見る限りでは、「昨季ほどの勢いが感じられない」と見る向きも多い。
恩師・ポステコグルー監督からオファーを受け、今年1月に横浜F・マリノスから初の海外挑戦に打って出た岩田智輝にとっても、2シーズン目の今季は難しさを感じる日々だという。
今季はなかなか出番を得られず、公式戦初出場となったのが、9月19日のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)・グループリーグ初戦のフェイエノールト戦。しかも、0-1でリードされる中、DFグスタフ・ラゲルビェルケが退場した直後にFW古橋亨梧との交代を命じられるという異例の抜擢だった。
加えて言うと、入ったポジションはセンターバック(CB)。7月の日本ツアーで右サイドバック(SB)を務めたことはあったが、日頃はボランチで練習している彼にとっては意外な起用にほかならなかった。が、ピッチに送り出された以上は失点をゼロに抑え、巻き返しの機運を生み出さなければならない。岩田は普段以上の高度な集中力を持ってプレーしようと試みた。
ところが出場から1分後、後半から出ていたオーディン・ディアゴ・ホルムがまさかの一発退場。セルティックは9対11の劣勢を強いられる。これも想定外の事態だったが、守備のマルチタスクをこなせる男は冷静に相手の攻撃を読み、対処する。それが試合終了まで続けばよかったのだが、後半31分に一瞬のスキが生まれ、イラン代表のアリレザ・ジャパンバクシュに2点目を献上してしまったのだ。
「9人の状態でも0-1だったので、失点をせずに耐えていれば、1回くらいは巻き返しのチャンスが来ると思っていた。だからこそ、あの2失点目は痛かったですね。CBとしての仕事を遂行しきれなかったことは本当に悔やまれます」と岩田は反省しきりだった。
そのシーン以外はフェイエノールト攻撃陣と対峙しても十分戦えていただけに、悔しさはひとしおだったに違いない。
「失点した時間帯以外は、確かに全く歯が立たないという感覚はなかったですね。向こうもエースFWの(サンティアゴ・)ヒメネスや(上田)綺世が出ていなかったし、そこまで迫力は感じなかった。むしろ僕自身がずっと試合に出ていなかったので、試合勘が不足していて、判断が遅かったり、ミスも結構あったかなと感じます。ただ、そういう部分はこれから修正していけば問題ない。もちろん11対11でやってみないと本当に強度やレベルは分かりませんけど、CLの舞台でもある程度はやっていけるのかなという前向きな印象は持てました」と岩田はポジティブなコメントを口にした。
さまざまなアクシデントが重なったCL初出場だったが、彼にとっては長年の悲願達成となる節目の一戦でもあった。セルティック移籍当初、岩田は「僕にはCL出場という夢がある。スコットランド王者のセルティックにいれば、来季はそのチャンスが巡ってくる。そこまでに自分自身を成長させていたい」と力を込めていた。その大舞台をついに踏んだことで、サッカー選手としての経験値は確実にアップしたと言っていい。
鎌田が所属するラツィオとも戦う「Jリーグでは1度も対戦したことがない」
「ピッチでアンセムを聞いた瞬間はやっぱり感動したし、実際に欧州最高峰基準を肌で感じられたのは大きかった。CLはまだ始まったばかりですし、10月4日には鎌田大地選手のいるラツィオとの次戦があります。鎌田選手とはJリーグでは1度も対戦したことがないので、ぜひ次は同じピッチで戦いたいし、マッチアップしてみたいですね。
セルティックはフェイエノールト戦で退場した2人が出場停止になるので結構大変ですけど、ケガで離脱している(キャメロン・カーター・)ピッカースも戻ってくると思うので、僕がピッチに立てるかどうかは微妙かな。でもチャンスをつかむべく練習からアピールしていきたいと思います」と本人は強い意気込みを見せている。
どこまでも前向きな岩田に対して、ロジャーズ監督も徐々に信頼を深めているのか、9月23日のリビングストン戦では旗手怜央との交代で後半16分から中盤で起用。彼自身もようやくリーグ初出場を果たした。そうやって少しずつ出場機会増やし、チームにプラスをもたらせる人材であることを認識させていくことで、CLでのプレー時間も延びていくはずだ。
「フェイエノールト戦では、相手のトップ下に入っていた10番(カルビン・ステングス)が結構狭いスペースで1対1に仕掛けてきていた。ああいう選手をバチっと止められるところを示したいですね。それが僕のストロングだし、アピールポイントになるとも思うので。本職の中盤でピッチに立てれば、相手キーマンとのマッチアップの回数も増えて、見せ場も多くなるのかなと感じます。とはいえ、僕はボランチ、SB、CBを幅広くこなせるところも強み。マリノス時代もいろんな役割をこなすことでチームに貢献し、タイトルを取ってきた。それと同じように今の環境でも日々、全力を尽くしていくだけだと思います」
つねに真摯な姿勢でサッカーと向き合っている岩田。その努力はいつか必ず報われるはず。CL初出場という力強い1歩を糧にして、ここから一気に存在感を高めていく彼の姿を楽しみに待ちたいものだ。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。