Jリーグ勢のACLグループ初戦で明暗 横浜FMがいきなり試練?…次節アウェー戦で命運懸けた“最難関”到来か【コラム】
ACLグループ初戦、Jリーグ4クラブの戦いぶりから今後の展望を考察
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023-24シーズンが開幕。Jリーグ勢の4クラブもそれぞれ初戦に挑んだ。コロナ禍ではセントラル開催だったグループステージもホーム&アウェー方式となり、本来の醍醐味が戻ってきたのは嬉しいが、やはりJリーグや国内カップ戦と並行するなかで、過密日程に海外遠征が重なるタフさを観る側としても、改めて感じさせられる。現場の選手やスタッフはなおさらだろう。
Jリーグ勢で勝ち点3を獲得したのはマレーシア王者ジョホール・ダルル・タクジムFC(JDT)に挑んだ川崎フロンターレだけだった。JDTと韓国王者の蔚山現代は前回大会と同じ顔ぶれ。2位フィニッシュながら、成績上位に入れず敗退したリベンジを目指す川崎にとって、格好のステージが整ったと言える。
今回はそこに前回ベスト8のパトゥム・ユナイテッド(タイ)が加わり、より厳しいグループだが、いきなり完全アウェーのタフな戦いを1-0で、粘り強く勝ち切ったことは好材料だ。川崎は天皇杯で優勝の可能性を残すが、リーグ戦は現在9位とタイトル獲得は絶望的で、これまで苦手と言われてきたアジアの戦いに懸ける思いは強いようだ。
マルシーニョのゴールも右サイドを起点にニアで瀬古樹が競り合い、ファーサイドでマルシーニョがオーバーヘッドというスペクタクルではあるが、川崎らしい崩しというより力強さを感じさせる。2019年ACL得点王の元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミスもまだ100%ではないが、アジアを勝ち上がっていくための武器になっていく予感をさせる存在感だった。
前回王者の浦和レッズもアウェーの地で、中国王者の武漢三鎮と2-2の引き分けという結果は悪くない。ここに来て、怪我人が目立ってきているのはルヴァン杯も含めた終盤戦に向けて気掛かりではある。ただ、ブライアン・リンセンがようやく助っ人らしい働きでゴールをもたらし、好調のホセ・カンテが、ACLの舞台でも“理不尽”な存在であることを証明したことで、得点力不足に悩まされた浦和にとって、逆転優勝を目指すリーグ戦にもつながりそうなアウェーでの初戦だった。
その一方で、J1最少失点のディフェンスが、アヴィドソンやアジズなど、パワフルなアタッカーを揃える相手に対して、対応が苦しくなる傾向が見られたのも確かだろう。武漢の1点目を決めたのはボランチのジャン・シャオビンだったが、岩波拓也とアレクサンダー・ショルツのセンターバック(CB)コンビがアジズの圧力を吸収し切れなかった。もちろんマリウス・ホイブラーテンとショルツが揃えば守備強度は高まるが、岩波もルヴァン杯のガンバ大阪戦で見事なパフォーマンスを見せていただけに、ここから奮起して欲しいところだ。
J2甲府はACL初参戦ながら堂々たる戦いぶり、横浜FMは痛恨のホーム黒星発進に
J2のヴァンフォーレ甲府は昨年の天皇杯を優勝して、クラブとして初めてACLに挑むなか、南半球に移動して、オーストラリア代表のメルボルン・シティとのアウェーゲームで堂々たる戦いぶりを見せた。結果はスコアレスドローだったが、むしろ甲府に多くの勝機があったことは特筆に値する。フリーキックが惜しくもクロスバーを叩いた佐藤和弘は昨シーズン、J3の松本山雅FCに在籍していた選手で、CBの神谷凱士は川崎で主力を掴めず、2度目の期限付き移籍となる甲府でアジアの舞台を戦っている。そうしたさまざまな境遇の選手の戦いというのは胸を打つものがある。
なにより甲府から遠くメルボルンまで駆け付けたサポーターの応援は、選手たちの背中を力強く後押ししたはず。小瀬のホームスタジアムがACL基準を満たさないため、次節は10月4日に国立競技場でタイのブリーラム・ユナイテッドに挑む。どれだけホームの雰囲気を作り出せるかは勝負に関わってくるポイントだろう。リーグ戦ではJ1昇格プレーオフ圏内(3位~6位)を狙える位置に付ける。ACLとの“二足の草鞋”が不利に働くとの見方も強くあるが、アジアの戦いで得た刺激を昇格争いのパワーに変えてもらいたい。
横浜F・マリノスの初戦は筆者も現場で取材したが、韓国の仁川ユナイテッドFCを相手に、ホームで2-4という残念な結果と内容に終わってしまった。怪我人も多く出ているなかで、ケヴィン・マスカット監督は過密日程も考えて、1-1で引き分けた9月15日のサガン鳥栖戦から GK一森純をのぞく10人のスタメンを入れ替えて臨んだ。5バックの相手をなかなか攻略できず、徹底したカウンターから4失点を喫した。トランジションがやや悪く、中盤からのプレスもうまくはまらないなかで、怪我明けの角田涼太朗と上島拓巳が組むCBコンビは連係が不十分だった。
そのなかでも、戦い方のバリエーションを広げるために4-3-3にトライしたこと、吉尾海夏のコーナーキックから2得点できたことはポジティブな要素だった。鳥栖戦と仁川戦のメンバーを比較しても、必ずしも前者が現在のファーストチョイスというわけでもなく、コンディション面も考慮しつつ、24日に行われる鹿島アントラーズとの大一番、さらに中4日で迎えるヴィッセル神戸とのJ1首位決戦(29日)を戦い抜くための選手起用と想定できるが、やはりプロの世界で結果と内容が発揮されないと、戦略面までネガティブな評価をされてしまう。
東地区は5組に分かれて戦っているため、グループ2位の場合、各組の成績上位3チームに入らないと次ラウンドへ勝ち上がれない。そのレギュレーションを考えても、ホーム開幕戦で勝ち点ゼロは非常に痛い。次節は神戸戦から中3日で、山東泰山(中国)とのアウェーゲームという、おそらく6試合で最も厳しい戦いが待つ。相手は違うが、ホームでの負けをアウェーでの勝利で取り返して、残り4試合に希望をつなげてほしい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。