ACL秋春制移行はメリットorデメリット? 監督が安心してシーズンを戦える環境作りの必要性【コラム】
オーストラリアはACLの日程とリーグ戦の重なりが最も多い
Jリーグ勢のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループステージが始まった。9月19日に先陣を切った横浜F・マリノスはホームで仁川ユナイテッド(韓国)に2-4で敗れ、川崎フロンターレはアウェーの地でジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)を1-0で下した。
20日には浦和レッズが武漢三鎮(中国)にアウェーで終了間際のゴールで2-2に追い付き、ヴァンフォーレ甲府はメルボルン・シティ(オーストラリア)に同じくアウェーで無得点ドローとなった。
今シーズンからACLは「秋開幕春終了」の「秋春制」に変更された。このシーズンで有利なのはどの国か。9月21日のFIFAランキングでアジアサッカー連盟(AFC)東地区の国々がどうなっているか見ていく。
26位の韓国と80位の中国は日本と同じ春秋制で、ACLは2シーズンをまたぐことになる。
27位のオーストラリアは10月にシーズンがスタートするため、現在は開幕前ということになるが、ACLは同じシーズンの中でグループステージから決勝までが行われる。
95位のベトナムは2月にシーズンがスタートしたが代表チーム優先のため途中に45日間の中断期間があるなどかなり変則的な運用が行われている。ただ、春秋制と言っていいだろう。
102位のインドのスーパーリーグは9月から12月末までになっている。112位のタイは8月に開幕し、来年の6月まで。9月にスタートするACLを戦ううえでは、チームが始動して固まった頃にACLの初戦を迎えることができるため、一番有利な日程だろう。
最近10年のACL歴代優勝国は、日本3回、韓国2回、中国2回、サウジアラビア2回、オーストラリア1回とやはりFIFAランクでも上位国が独占しており、その意味ではACLの日程とシーズンの重なりが多いオーストラリアが有利になったと考えられる。
そんな対外的な心配も必要だが、一方で内在的な問題も見え隠れしている。それは「監督を何で評価するか」という点だ。
ACLとJリーグのクライマックスは半年ずれ
監督業は地位が非常に不安定な職業だ。契約が残っていても成績次第では簡単に立場を追われてしまう。長期的視野に立って選手を育成し、システムを成熟させ、チームに新しいバリューをもたらしていたとしても、それを決定権のある人物たちが認めなかったら職を失う。
だから、監督が何より残さなければならないのは「成績」となる。過去のJリーグでも、シーズン限りの契約満了が囁かれていた監督が最後に高成績を上げたために契約延長を勝ち取ったという例はあった。
では、その「成績」という物差しで、JクラブにおけるACLの位置付けはどうなっていくのだろうか。
今年のACLグループステージの最終日は12月13日。11月12日にJ2リーグはレギュラーシーズンが終わり、12月3日にはJ1リーグも最終節を迎える。
もしもACLのグループステージで圧倒的な成績を残してノックアウトステージへの進出を決めたとしても、それまでにJ1昇格を逃したり、あるいはJ1昇格プレーオフ圏内に入らなかったり、J1で優勝を逃したり、あるいは翌年のACL出場圏外になったり、はたまた残留争いに巻き込まれていたりした場合、その監督は翌年のACLで指揮を執らせてもらえるだろうか。
本当ならば、リーグ戦で高成績を出したり天皇杯で優勝したりしたのは、アジアとの戦い、あるいはそこから世界の強豪クラブとの対戦を勝ち取るためという面もあったはずだ。かつてはアジアの戦いに出て行くと費用ばかりがかさんでいたが、現在は賞金が上がってACL出場でもメリットが出るようになってきた。
一方でACLとJリーグのシーズンがずれている以上、両者のクライマックスは半年ずれることになる。ACLで「優勝できるかも」と一層力が入るのはJリーグでも序盤戦。「リーグタイトル争いはまだ取り戻せる」とアジアに力を傾注できるはずだ。
ACLとリーグ戦、どちらを優先したほうがいいのかは頭痛の種
ところがJリーグの追い込みの間には、ACLのグループステージ突破が懸かる試合が入り込む。リーグでの高成績が狙えるチームにとってはどう戦うか難しい。特に優勝争いをしている相手チームがACLに出場していなかった場合、海外のアウェーが組み込まれてくる日程の中で休養十分な相手チームとのレースを戦うことになる。
ACLとリーグ戦と、どちらを優先したほうがいいのか。監督にとっては頭の痛いところだろう。そしてリーグ戦で高成績を収めるほうが、より長い契約を勝ち取れるのではないかと判断するかもしれない。
もちろん、リーグ戦ではもう何かを達成する望みがなくなったのでACLで素晴らしいサッカーを披露して、自分の評価を勝ち取ろうとする場合もあるだろう。ACLの試合の時には怪我をしていた選手が戻ってきて、やっとやりたいサッカーが見せられた、というケースもあるかもしれない。
けれど、そういう監督をクラブは評価するだろうか。クラブそのものの価値基準と合致するだろうか。他方、リーグ戦で優勝した監督なら、間違いなく翌年も指揮することができる。たとえACLがボロボロでも、翌年のACLの出場権利は勝ち取っているのだ。
ここまでの考察は邪推なのかもしれない。プロである以上、目の前のすべての試合に全力を出しきるものだ、という論は信じたい。信じたいが、それを疑ってしまう余地は残っている。
「世界に挑戦できる」と張り切っている選手をがっかりさせてはならない。監督がACLの戦いに腰が引けるようなことがあってはならない。「ACLのグループステージ突破はリーグ戦の高成績と同列」という宣言を各クラブはできるだろうか。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。