ACLグループステージ展望、Jリーグ勢の勝算を考察 ベスト16進出の本命クラブは?…川崎は強豪揃いの“最難関”入り【コラム】
9月19日に東地区のグループステージ開幕、Jリーグ勢が入った各組を展望
ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の2023-24シーズンが9月19日に東地区で1次リーグが開幕する。グループステージは従来どおり東西に分かれて抽選が行われ、東地区5組のうち、E組をのぞく4組にJリーグ勢が振り分けられた。各組1位と2位のうち成績上位の3チームがノックアウトステージのラウンド16に進出する。
▼G組
横浜F・マリノス(日本)
仁川ユナイテッド(韓国)
カヤFC(フィリピン)
山東泰山(中国)
昨シーズンのJ1王者である横浜FMが本命と見て間違いない。ACLに簡単な組などないが、横浜FMは比較的、良いグループだと言える。仁川ユナイテッドはKリーグ4位で、プレーオフを勝ち上がってきた。ACLなど国際経験があまりないクラブだ。元神戸のステファン・ムゴジャと191センチのFWチョン・ソンホンの“ツインタワー”はJリーグにあまりない強さを持つが、主導権を握ってロングボール頼みにさせてしまえば、あとはリスクマネジメントの問題になってくる。
フィリピンのカヤFCは国内で圧倒的な強さを誇るが、長らく王者だったユナイテッド・シティの撤退によるところが大きい。昨シーズンのACLでは予選ラウンドで、オーストラリアのシドニーFCに0-5で敗れている。かなり攻撃的なチームだが、チーム力が上のチームとばかりの対戦になるなかで、どう戦術的な折り合いを付けていくのか。日本人FW堀越大蔵は神奈川県の出身でもあり、横浜FMとの対戦は感慨深いだろう。
山東泰山は昨シーズン、浦和レッズと同じF組で最下位だったが、中国勢がコロナ禍の防疫対策で主力を国外に送れず、セントラル開催だったグループステージに、2軍で臨むしかなかった実情がある。今回はそうした問題もなく、主力が参戦してくるはず。2023年の中国超級リーグで10得点しているブラジル人FWクリサンと10番を背負う元パルメイラスの攻撃的MFモイゼスのホットラインには要注意だ。
▼H組
ブリーラム・ユナイテッド(タイ)
ヴァンフォーレ甲府(日本)
メルボルン・シティ(オーストラリア)
浙江FC(中国)
最も読みにくいグループで、天皇杯王者として参加する甲府にも十分に突破のチャンスはある。本命はメルボルン・シティと見るべきか。昨シーズンは2位の中で成績上位に入れずノックアウトステージを逃したが、このグループでは唯一、前回大会を経験している。ただ、戦力的には日本のファンにもお馴染みのDFティーラトンやアゼルバイジャン代表FWラミル・シェイダエフなど、良質な外国人を揃えるタイ王者ブリーラムも見劣りしない。
やや不気味な存在はプレーオフを勝ち上がってきた浙江FCで、杭州市を拠点とする上昇中のクラブだ。元バスケットボール選手という異色の経歴を持つジンバブエ代表FWニャシャ・ムシェクウィがエースに君臨。2列目にも得点力のあるタレントが並ぶ。クラブの国際経験はゼロに等しいが、バルセロナBを率いたこともあるジョルディ・ヴィニャルス監督がボールを保持しながら勝ちに行けるチームを作っている。同じく中盤のパスワークを武器とするメルボルンとの試合は注目だ。
甲府の“鬼門”は初戦のメルボルン戦だろう。あまり海外遠征に慣れていない選手やスタッフが、いきなり南半球に移動して、過酷な戦いを強いられるからだ。オーストラリアはリーグ戦が開幕していないものの、オーストラリア・カップが進行しており、メルボルン・シティは準々決勝に勝ち上がっている。危険なのは元ドイツU-21代表で、セリエAのウディネーゼなどで活躍した10番のMFトルガイ・アルスランだ。
サイドには経験豊富なオーストラリア代表のFWマシュー・レッキーがおり、シティ・グループのチームらしいパスワークから最後は昨シーズン24ゴールでAリーグ得点王のFWジェイミー・マクラーレンに合わせてくる。押し込まれる時間が長くなると予想されるが、粘り強い守備から得意のカウンターやトリタートで活路を見出したい。
Jリーグ勢の中では組分けに恵まれた浦和、武漢とのアウェー戦では油断禁物
▼I組
蔚山現代(韓国)
BGパトゥム・ユナイテッド(タイ)
ジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)
川崎フロンターレ(日本)
韓国王者で2023シーズンも首位を走る蔚山現代に昨シーズン16強のマレーシア王者ジョホール・ダルル・タクジム(JDT)、昨シーズン8強のBGパトゥム・ユナイテッドが集うグループに川崎が入った。東地区では最も過酷なグループだろう。Jリーグでは現在9位と振るわない川崎としては国際舞台が復調の転機になる期待もあるが、非常に厳しい戦いが待っていることに疑いの余地はない。
川崎にとっては昨シーズンのI組から広州FCがパトゥムに変わっただけで、蔚山現代もJDTも戦い慣れた相手となる。ただし、パトゥムはプレーオフで、元ブラジル代表FWオスカルや中国代表FWウー・レイを擁する上海海港に、アウェーで3-2と競り勝って本大会に上がってきた。昨シーズンは中国勢がコロナ禍の防衛機対策で、セントラル開催の大会に主力を出せなかった事情があり、実質的に3チームの争いになっていたことを考えれば、2位の成績上位でノックアウトステージに行けなかった昨シーズンより過酷さは増している。
今回はホーム&アウェーなので、ホームの3試合で確実に勝ち点3を取り、そこにどれだけアウェーの勝ち点を上乗せできるかがテーマになってくる。蔚山はハンガリー代表FWアーダーム・マルティンとジョージア代表FWヴァレリ・カザイシュヴィリという異色の2トップが猛威を振るっており、中盤からMFイ・ドンキョンから良質なパスが出てくる。守護神チョ・ヒョヌを中心とした守備も強固で、基本は川崎にとって最大のライバルになってくるだろう。
しかしながら昨シーズン、その蔚山と川崎をまとめて敗退に追いやったのがJDTだ。もちろんマレーシア開催だった地の利もあるが、ホーム&アウェーのホームで圧倒的な強さを発揮してくるのは間違いない。外国人監督がチーム強化に努めてきたJDTだが、アルゼンチンU-23を率いていたエステバン・ソラーリ監督に託されている。4-3-3をベースに攻撃的なスタイルを掲げているが、蔚山、川崎、パトゥムという強敵を相手に、ホームとアウェーでどう戦い分けるのか。エースのFWベルグソンは健在で、セレッソ大阪、ザスパクサツ群馬、ベガルタ仙台に在籍したMFヘベルチの左足もアクセントになっている。
▼J組
武漢三鎮
浦和レッズ
ハノイFC
浦項スティーラーズ
浦和はアル・ヒラル(サウジアラビア)との壮絶なファイナルを制してアジア王者に。それに伴い、プレーオフの権利を得て、香港の理文に勝ってグループステージに駒を進めた。率直に言ってJリーグ勢の中では組分けに恵まれた。ただし、油断は禁物だ。開幕節が武漢三鎮とのアウェーで、ここで躓くと大苦戦につながりかねない。
勢力図が大変動している中国超級リーグにあって武漢は上昇中のクラブで、ACLも初出場となる。かつて川崎を率いた高畠勉監督が率いるチームは3-4-3をベースに鋭いサイドアタックを強みとしており、ブラジル人FWダヴィドソンの仕掛けからゴール前でガーナ人FWアブドゥル・アジズ・ヤクブが合わせるフィニッシュはシンプルでも鋭い。もう1つ脅威になるのがルーマニア代表の司令塔スタンチュからのスルーパスだ。
浦項は個人よりも組織で戦う伝統があり、カップ戦に強さを発揮する傾向が強い。クラブのレジェンドでもあるキム・ギドン監督が率いており、とにかく相手に隙を与えない集中力はすさまじい。現在の浦和は堅守をベースが、攻撃面は自分たちから相手を崩して点を取るというのがあまり得意ではないので、浦項のような手堅いチームには苦しむかもしれない。逆に言えば自分たちの課題に向き合う格好の機会とも言えるだけど、MF中島翔哉やFW安部裕葵などの真価も試されることになりそうだ。
ベトナムでリーグ戦とカップ戦の2冠達成のハノイは下馬評で見るならJ組の4番手と言えそうだが、タイのブリーラム・ユナイテッドなどを率いたモンテネグロ人のボジダル・バンドヴィッチ監督がチームを強化しており、元湘南のFWルーカス・ビニシウスを中心に、縦に鋭い攻撃を仕掛けてくる。ベトナム代表FWファム・トゥアン・ハイなど、個人で打開する能力のある選手が前線に揃っているので、浦和がボールを支配する展開になったとしても、常にリスクマネジメントが大事になる。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。