柏の前線3人の“ボールハンティング”は圧巻 J1生き残りへ鍵を握る若きFW細谷真大の存在【コラム】
【カメラマンの目】アウェーで横浜FCを2-1で撃破
強い風がアウェーのベンチ側からホームへと吹いていた。J1リーグ第27節横浜FC対柏レイソル戦。
前半33分、柏はPKを獲得する。キッカーはマテウス・サヴィオ。
このチャンスにマテウス・サヴィオは慎重な動きで、PKスポットから思いのほか後方へと下がっていった。助走の距離を長く取り、キックのモーションを起こすまで時間をかける。
カメラのファインダーで捉えたマテウス・サヴィオの表情は緊張に縛られているように見えた。J1生き残りを賭けたライバルとの直接対決。勝利のために重要となる得点へのチャンスを迎えて、さすがに柏の背番号10番もプレッシャーを感じていたのだろう。ニッパツ三ツ沢球技場に流れる強い追い風も、シュートに影響を及ぼすかもしれないと心配していたのかもしれない。
しかし、マテウス・サヴィオはそのプレッシャーに勝ち、柏は先制に成功する。続く5分後にも細谷真大が相手のパスミスを見逃さずボールを奪って追加点をゲット。リードを2-0と広げた。
立て続けにゴールをマークしたことによりスコア的に主導権を握った柏だが、内容でもキックオフからアウェーチームの優勢で進んでいた。チームに勢いをもたらしたのは前線の3選手。細谷、マテウス・サヴィオ、そして山田康太が試合開始からフルスロットルの状態で横浜FCに真っ向勝負を挑み、ペースを引き寄せていった。
彼らがピッチで見せたアグレッシブな動きは、スピードとテクニックを駆使して相手守備網を突破し、ゴールへと迫るだけに留まらず、ボールを持った横浜FCの選手へと猛然と詰め寄る、前線からの積極的な守備への貢献も強烈だった。3人が見せた守備は、まさに“ボールハンティング”という言葉が似合う激しさだった。
その攻撃陣のハイペースなプレーは、最後まで息切れせずにもつのかと心配になるほどで、3人のなかで特にマテウス・サヴィオは飛ばしに飛ばしていて、実際に足を攣って後半21分に交代することになる。残る2人も後半25分を目途にベンチへと下がっていった。
3選手とも90分間を戦い抜くことはできなかったが、結果的に出し惜しみせず“行けるところまで行く”この柏の積極策は功を奏することになる。
試合の主導権を一気に握って2得点をマークし、終盤は横浜FCの反撃に遭い劣勢の時間帯があったものの、何とか逃げ切ったのだから井原正巳監督の采配は的中したことになる。ただ、終盤に反撃を受けたようにすべてが思い通りに進んだわけではなく、その劣勢から改めて細谷の存在が重要であることを感じた。
細谷は今の柏で替えの利かない選手
柏のJ1生き残りへの道はまだ安泰ではない。気の抜けない順位であることは間違いなく、これからも厳しい試合の連続となることだろう。
犬飼智也の加入によって守備面では改善が見られ安定感が増してきた。しかし、勝利のためなら相手にどんな局面でもサッカーをさせない、この対横浜FC戦で見せたような前線から相手の動きを封じるサッカーを展開するのが望ましい。
そうしたスタイルでは前線の選手の疲労は早く訪れる。先発の選手を90分間、使い続けるのは難しいだろう。
細谷も後半27分に交代している。ここで細谷に替わってピッチに立ったフロートだが、守備面であまり威力を発揮することができなかった。柏の試合終盤での劣勢は横浜FCが後半から投入したテクニシャンのカプリーニの個人技から生まれる多彩な攻撃に手を焼いたことに加え、前線からの守備が機能しなかったことが挙げられる。
選手にはそれぞれ特徴がある。体格の良いフロートはパワープレーからゴールを狙う際には有効な選手だ。リードを許した場面での投入は相手にとって脅威となるだろう。
しかし、試合を安定させるには少し不向きな選手だ。18人と限られたメンバーで、ピッチで起こり得るすべてのことに対応するのは難しい。それだけに負けられない試合の連続となる今後は、これまで以上に相手を研究して、より多くのことに対応できるメンバー構成とする井原監督の判断力が重要となってくる。
そうした状況で感じたのが細谷の重要性だった。チーム戦術としての前線からの守備をアグレッシブに行い、個人技でゴールを奪えるオールラウンダーの細谷は、替えの利かない選手であることを改めて実感した。キックオフから100%でプレーする細谷がどれだけの時間ピッチに立っていられるか。背番号19番の若きストライカーがJ1生き残りを賭けた戦いの生命線であることは間違いない。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。