3位浮上の鹿島、優勝戦線の鍵を握る存在に 勝利への強い意志によるフィジカルの強さが生み出すモノ【コラム】

決勝ゴールを決めた鈴木優磨【写真:徳原隆元】
決勝ゴールを決めた鈴木優磨【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】C大阪戦は数的劣勢の中でも堅い守備を展開

 試合終了のホイッスルが県立カシマサッカースタジアムに響き渡ると、鈴木優磨は精根尽き果てたようにピッチへと倒れ込んだ。その後、立ち上がると激しい消耗戦に勝利した喜びを全身で表現した。

 J1リーグ第27節鹿島アントラーズ対セレッソ大阪戦はホームチームにとってタフな展開の試合となった。前半13分に先制点をマークしたが、同25分に退場者を出して数的不利の状況となる。

 しかし、65分間を1人少ない状況で戦うことを強いられながらも、C大阪の猛攻に耐え虎の子の1点を守り抜くことに成功する。当然、鹿島の選手たちの消耗は激しく、劣勢の展開のなかで勝ち点3を守り切った試合は、鈴木が終了のホイッスルのあとに見せた体力を使い果たして倒れ込み、そして歓喜した2つの姿に集約されていたと言える。

 まさに前半25分のディエゴ・ピトゥカの退場は、この試合の勝敗の行方を決定付けることになる。それも本来なら鹿島からすれば不利になるところを、逆に勝利に影響を及ぼすことになるのだった。

 リーグ後半戦を戦う最近の鹿島のサッカーの特徴は、選手たちの勝利に対する強い意志から生まれるフィジカルの強さにある。各選手が激しくファイトして局地戦で勝利し、その積み重ねでゲームを作っていくのが勝利のパターンとなっている。特に中盤から最終ラインでの相手の攻撃を防ぐ対人プレーで威力を発揮し、2人のセンターバック(CB)とGK早川友基が築く堅陣がチームを支えている。

 鹿島は退場者を出したことによって1点を守り抜こうとする守備への意識が高まり、それが対人プレーにより磨きをかけることになる。C大阪の切り込み隊長を務めるカピシャーバの力強いドリブルをはじめ、怒涛の攻撃を激しい守備で防いでいった。さらに、攻撃に転じた際に見せたカウンターは、相手が数的優位となり、攻め落とそうと前掛かりの展開となっていたため、切れ味が増すことになる。

勝利を喜んだ鈴木優磨【写真:徳原隆元】
勝利を喜んだ鈴木優磨【写真:徳原隆元】

“ファイター”鈴木優磨は鹿島の象徴

 接近戦での勝負に力を注ぐ鹿島の守備に対して、ボールをキープするC大阪の選手にしてみれば、どうしても視野が狭くなりがちになる。眼前に敵が迫ればピッチを広く見ることが難しくなり、ショートパスでの崩しが増えてしまい、守備意識が高く混戦を望む鹿島の術中にハマっていくことになる。

 だが、局地戦での戦いとなってしまうなかで、広い視野を持つ香川真司は中盤からロングやさまざまな種類のパスを供給し、鹿島の守備網に揺さ振りをかけていたところは流石だった。

 しかし、そうした攻撃も功を奏さず、C大阪にとってはボールをキープしながらも攻め切れない不完全燃焼の90分間となった。

 激しいファイトを見せ、勝利した鹿島の代表格は言うまでもなく鈴木だ。好戦的な性格を隠そうともしない態度は、鹿島と対戦する側に立つ人間からすれば気にくわない存在となることもあるだろう。

 だが、そんなアグレッシブな性格の鈴木だが、ゴール裏からカメラのファインターを通して見る彼のプレーは実に冷静だった。もちろんFWとしてチャンスがあればゴールを狙い、実際に先制点をゲットしている。

 そうした一方でカウンター攻撃からドリブルでC大阪陣内へと進出しても、強引なプレーを見せたりしないのが鈴木なのだ。味方の攻め上がりを待ち、相手守備を引き付けて出すタイミングのいいショートパスや、逆サイドに走る味方へ繰り出すロングパスと、冷静にゴールへの確率が増すプレーを選択しているのが目に留まった。

 鹿島はこの勝利によって3位に浮上した。リーグ戦も残すところ7試合。今後の日程を見ると鹿島は9月24日に第28節横浜F・マリノス戦(ホーム)、10月2日に第30節ヴィッセル神戸戦(アウェー)、10月28日に第31節浦和レッズ戦(ホーム)と上位対決を残している。後半に入って順位を上げてきた鹿島が、優勝の行方の鍵を握るチームになりそうだ。

 試合後、サポーターに挨拶をする鹿島の選手たちの中から、エレケと勝利の喜びを分かち合う鈴木の引き締まった表情にシャッターを切った。今の鹿島にはシーズン前半のひ弱さは消え、鈴木の表情が示しているように、したたかさがチームに漂っている。

 神戸と横浜FMが牽引してきた今シーズンのリーグに、主役の座を狙う存在に鹿島が加わろうとしている。

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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