久保建英のアシストに込められた成長の足跡 絶対的な“存在”へ―代表2ゴールでは足りない【コラム】

日本代表の久保建英【写真:ロイター】
日本代表の久保建英【写真:ロイター】

トルコ戦では先発が有力か

 伊東純也(スタッド・ランス)、上田綺世(フェイエノールト)、浅野拓磨(ボーフム)、田中碧(デュッセルドルフ)の4ゴールで強豪ドイツ代表を敵地で4-1と粉砕した9日の日本代表。敵将のハンジ・フリック監督を解任に追い込んだ歴史的一戦から3日後の12日、彼らはベルギー・ゲンクでトルコとのゲームに挑むことになる。

 中2日という強行日程に加え、ヴォルフスブルクからゲンクのチャーター便&バス移動、日中のギラギラ照り付ける太陽と暑さが重なり、日本選手たちのコンディションはかなり厳しそうだ。

 森保一監督も「今回のトルコ戦はドイツ戦から大幅にメンバー変更をして試合に臨みたい」と明言。スタメン11人のうち8~9人は変わると見られる。

 一番変化が大きいのは攻撃陣だろう。1トップは古橋亨梧(セルティック)か、浅野、2列目は右に久保建英(レアル・ソシエダ)、中央に鎌田大地(ラツィオ)、左に前田大然(セルティック)か、中村敬斗(スタッド・ランス)という陣容が有力だ。

 ドイツ戦は終盤の15分間の出場で2アシストを記録した久保は、満を持してレアル・ソシエダと同じ右サイドで先発出場することになる。

「ちゃんと自分のポジション、一番自分がやりたいところで使ってもらえたら、あのくらいできるよっていうのは前から思っていました。(カタール・)ワールドカップ(W杯)でも色々あって左で出たりしましたけど、やっと自分本来の力を出させてもらえる環境が徐々にできつつあるのかなと感じています。今のチーム(ソシエダ)でも右のウイングで出ているし、僕のファーストチョイスというか、一番力を発揮できるのは右だと思います」と彼は日頃から慣れているポジションでプレーできる喜びを強く押し出していた。

 ただ、本人としては、ドイツ戦に先発できなかった悔しさの方がより強い様子。9月シリーズに入ってからの久保はずっと鼻息が荒かったからだ。

 ドイツ戦前日の取材対応では「コンディションは僕史上最高」と断言。「メンタル的にも今はすごいし、これ以上ないスタートを切っているので、自信しかないですね」とまで語気を強めた。さらに、試合後にも「僕は100%スタメンで出ると思っていたから、正直、ガッカリしました」と発言。伊東純也という絶対的右サイドの存在に阻まれ続ける現状に複雑な思いを滲ませた。

 それでも、今の久保は単なるエゴイストではない。「それだけ競争のレベルが高いとポジティブに捉えようと自分に言い聞かせた」と言うように、フォア・ザ・チーム精神を第一に振舞ったのだ。

 それを象徴したのが、浅野の3点目をお膳立てしたプレゼントパス。2010年南アフリカW杯デンマーク戦の本田圭佑から岡崎慎司(シント=トロイデン)へのラストパスを彷彿させたが、「自分が決めたい」という思いを抑えて、より確率の高い浅野に決めさせたあたりが、人間的にも大人になった久保の精神状態をよく表している。

「自分が決めてコーナーに走ってやろうかと思っていましたけど、後ろを確認した時に相手の選手が来ていなかったのと、拓磨くんがこっちを見ながら走っていたので、悩みましたけど、チームのために勝利に徹することができて良かった」と本人も率直な心情を吐露していた。

久保の真骨頂で偉大な先輩を超える圧倒的な存在になれるか

 トルコ戦もチームの勝利第一という部分は変わらないが、攻撃陣の陣容が大きく変わるだけに、彼がタクトを振るわなければいけない状況も増えてくる。

「タケはタケで、1対1で打開できるし、(三笘)薫と似たような状況を作るというか、1人で2人を引き付けられる選手だと思う」と鎌田も語っていたが、確かに久保と伊東は違った変化をチームにもたらすことができる。持ち前のテクニカルなドリブルで相手をかわせれば、左の前田や中村がフィッシュに行けるようなシーンも増えてきそうだ。

 さらにリターンパスが来て、久保がゴールに突き進む形も作れそうだ。考えてみれば、彼の代表ゴールは、2022年6月のガーナ戦(神戸)と今年6月のエルサルバドル戦(豊田)の2点だけ。それは18歳でA代表デビューし、将来を嘱望された選手にとっては、あまりにも少なすぎる。ここからグングン数字を引き上げていかないと、歴代代表を牽引してきた本田圭佑や香川真司(セレッソ大阪)らを超えるような圧倒的な存在になるのは難しくなる。

 まだ22歳とはいえ、世界的に見ればそこまで若いとは言えないだけに、彼にはもっともっと突き抜けてもらう必要がある。今回のトルコ戦でぜひとも布石を打ってほしいのだ。

「一番確率の高いプレーをするだけだと思っているので、シュートを打った方がいいなと持ったら打ちますし、パスを出した方がいいなと思ったら出します。とにかく勝てばいいなので、ムリヤリにとは考えていないですけど、いい入りができれば当然、前目の選手にチャンスが出てくる。そこは逃さないようにしたいですね」

 9月シリーズ直近のグラナダ戦で2ゴールを奪い、チームの5点中4点に絡むという圧巻パフォーマンスを見せた久保なら、代表でももっと輝けるはず。そういう形をそろそろ確立させたいところ。この一戦が久保建英にとっての飛躍に節目になってくれれば理想的である。

元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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