岩渕真奈が語った女子サッカー界“未来”への進言 「正解、不正解はない」…キャリアで実感した海外移籍の意義【コラム】

引退会見を行った岩渕真奈【写真:轡田哲朗】
引退会見を行った岩渕真奈【写真:轡田哲朗】

現役キャリアに終止符、岩渕真奈が語った現在の心境

 なでしこジャパン(日本女子代表)などで活躍した岩渕真奈が、9月8日に東京都内で引退会見を行った。その類まれな才能をいかんなく発揮し、国内外で実績を築いたFWは日本代表として89試合36ゴールの成績を残して現役キャリアに終止符を打った。後進に道を譲った今、なでしこジャパンの“元10番”はどのような心境にあるのか。海外移籍で得たもの、日本女子サッカーの未来に対する思いを訊いた。(取材・文=轡田哲朗)

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 岩渕は日テレ・ベレーザの下部組織から育ち、2007年には当時14歳でトップチームにデビューしている。成長を続けて10代でなでしこジャパンに選出されると、11年のドイツ女子ワールドカップ(W杯)の優勝、12年のロンドン五輪銀メダルメンバーにも名を連ねた。それも、将来性を強く意識した選出というよりも、実際の戦力として当時のチームで機能していた。そして、五輪の戦いを終えたあとにドイツで当時2部だったホッフェンハイムに移籍。「アンダー世代で世界と戦って、やってみたいと思っていた時にホッフェンハイムが長年継続して声をかけてくれていたのでチャレンジしようと思ったんです」と、海外でのプレーを選択した。

 海を渡った岩渕は、チームの1部昇格に貢献して14年夏にはバイエルン・ミュンヘンの女子チームへ移籍。負傷との戦いもあったが、「なぜ海外にいるかと言えば、代表で結果を残したいという気持ちだったんです。代表で成績を残したい一心で歩んできたので、『このプレーが』と言われても分からないし、代表で自分が中心になってから結果はなかなか出なかったけど、やったことのすべての成果がつながっていたと思います。短い出場時間でも、この相手を背負って受けられた、抜けたとか、今までならビビッてできなかったものが海外に行ってできるようになった。その瞬間、瞬間で思うわけではないけど、行って良かったなと思えるタイミングがあるんです」と、その成長も実感しながらキャリアを積んだ。

 その後、2017年途中からINAC神戸レオネッサへ。自身にとって「キャプテンも含め、いろいろな経験をさせてもらえた。いい意味でも悪い意味でも、日本でサッカーをするのが楽な期間だったなと思う。その楽が自分を成長させてくれたし、身体もフィットしてその時の最大の目標だった東京五輪に向かえた」と前向きに捉える約3年間のプレーを経て、次のキャリアはイングランドへ。アストンビラ、アーセナル、トッテナムの3クラブでプレーした英国での生活をこう振り返る。

「ドイツと比べてもイギリスはサッカーへの熱がすごい。女子のチームにも長年応援してくれている人が、すごい人数いる。アーセナルのファンだから女子の試合にも来てくれるという人が多くて、その街に生まれたから好きとか、家族代々がファンだとか、小さい時に服を着させてもらったというような、人生の中での一瞬ではなくて生まれてから死ぬまでサッカーというような人がイギリスにはいる。歴史が作ったものではあるけど、いつか日本もそうなったらいいなというサッカー文化ですね」

 そしてバイエルンやアーセナル、トッテナムといったサッカー界で知名度の高い伝統あるチームでプレーしたことに「特にビッグクラブを意識して選んだわけではなかったけど、例えばアーセナルのファンは日本人にも山ほどいるので、日本からもたくさん応援してもらえたという意味でもバイエルンやアーセナルに所属できたのは幸せだったなと思いますね」とほほ笑んだ。

「サッカー以外のことも成長できる場が海外には山ほどある」

 そうしたキャリアを積んだからこそ、今後を担う若い世代には「チャンスがあるなら出るべきだなと思います。そこで無理なら戻ってきてチャレンジもできるので」と、海外に羽ばたいていくことを勧める。

「サッカー以外のことも成長できる場が海外には山ほどあって、語学もそうですけど、サッカーなしで海外に住みたいとなったら『どうやって?』となるところが、サッカーを通してできる。そして、サッカーも素晴らしい環境を持っているチームが多く、そういうなかでプレーするのをいろいろな選手に経験してほしい。もっとみんな出てほしいなと。正解、不正解はないので、やってみたらいいんじゃないかなと思います。

 いろいろな人に支えてもらいながらだけど、言葉が通じないところで1つ喋れるようになるだけでも嬉しい。そういうワクワク感もそうだし、合う、合わないはあるので一概に海外にと言い続けるのは違うと思うけど、私は出て良かったなと思います。みんなで楽しめて喜べるのがサッカーのいいところ。喋れなくてもボール1個でというのも海外で感じられるいいところかもしれないですね」

「WEリーグがあるので言いにくいですけどね」と苦笑いする岩渕だが、その価値を軽視しているわけではない。例えば、海外でプレーしたあとにWEリーグでその経験を還元しながらプレーする選手も多い。そうしたキャリアもまた「素晴らしいと思います」と話しつつ、「夢を持つのは絶対に大切だし、サッカー選手になりたいと強く思っている選手たちがWEリーグに来たころにレベルが上がっていくと思う。だからこそ今のWEリーグの選手たちには魅力あるサッカーをしてもらいたいし、サッカー以外の生活の部分でもいろいろな発信をしていいし、するべきだと思う。子供たちが目標にするWEリーグというものがあるのは、女子サッカーとして嬉しいことだし、魅力があればあるほど頑張るパワーになれるので、何か少しできたらとも思います」と、その発展を願う気持ちを話した。

日本女子サッカーの発展へ必要なもの…岩渕の見解は?

 岩渕が優勝メンバーに名を連ねた2011年のドイツ女子W杯の当時からは、世界の勢力も大きく変化してきた。欧州ではドイツに加え、ノルウェーやスウェーデンといった伝統的に女子サッカーに実績を持つ北欧だけでなく、今年のオーストラリアとニュージーランドで共催された女子W杯はスペインが初優勝を飾るなど、オランダやフランス、イタリアといった男子の伝統国がそのノウハウを生かしながら育成してレベルを上げている。各国のリーグにも多くの観客が集まるようになり、資金が投下されることで競争が激しくなってレベルが上がってきている。日本からもその競争の中へ選手たちが参加しつつある。

 そうしたなかで、なでしこジャパンが世界で戦い、日本女子サッカーも発展を続けるためにどうしたらいいのか。岩渕は「個々の成長が代表の成長につながると思う。合う、合わないもあるので難しいけど、その人に合ったサッカーをその人が楽しんでやること。上を目指すにはそれだけでは足りないかもしれないけど、1人1人が強い志を持って女子サッカーのため、自分のためにキャリアを積んでいくと思えたら成長できる」と、まずは個人にフォーカスを当てた。

 そのうえで、「日本人は器用なので、どのスポーツを見てもある程度いけると思うんですけど、もっと貪欲に海外の選手っぽさを海外にいる選手が出すことで求め合う空間、求め合うチームになれると思います。成長するためとなった時に、いろいろな個性を入れることが大事だと思うので、日本人らしくみんな大人しく黙ってというチームやリーグではなく、1人1人が欲を持てる女子サッカーという世界であったらいいなと思いますし、そうやって何かを発することができる人がもっと増えたらいいと思います」と、その個性が発展的に融合していける環境になっていくことへの希望を話した。

 海外クラブで100試合以上の公式戦に出場し、なでしこジャパンでは89試合36ゴールの成績を残してキャリアに終止符を打った岩渕だが、笑顔を交えながら振り返ったキャリアはなでしこジャパンや日本女子サッカーへの思いと同時にチャレンジ精神にも満ちていた。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



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