W杯で「一体何ができたのか」 上田綺世が大舞台での挫折からアップデート…ドイツとの再戦へ覗かせる自信【コラム】
今夏からオランダの名門フェイエノールトに移籍
2026年北中米ワールドカップ(W杯)での悲願の8強を目指し、3月から本格始動した第2次森保ジャパン。ここまで4試合を戦って2勝1分1敗。強豪ペルーを4-0で撃破するなど、まずまずの結果を残している。
とはいえ、今回の9月シリーズの初戦・ドイツは全くレベルの違う相手。2022年カタールW杯初戦ではご存知の通り、堂安律(フライブルク)と浅野拓磨(ボーフム)の一撃で劇的な逆転勝利を挙げたが、彼らの危機感は前回以上に強い。2大会連続W杯グループステージ敗退に加え、2023年に入ってから1勝1分3敗と低迷続きのドイツは絶対に日本に倒さなければいけない状況で、凄まじい勢いでぶつかってくるはずだ。
森保監督としては、頭から飛ばしてくるであろうドイツの出方を伺いながら、どこで勝負をかけるかをしっかりと見極める必要がある。
前回対戦時は4-2-3-1でスタートし、後半から3バックにシフトしているが、今回もスタートは同様の形で行くという。攻撃陣の軸はもちろん三笘薫(ブライトン)と伊東純也(スタッド・ランス)の左右のウイングだ。そして中盤はトップ下が鎌田大地(ラツィオ)、ダブルボランチに守田英正(スポルティング)と遠藤航(リバプール)という構成になると見られる。
そこで気になるのが、FWの人選。カタールW杯と同じ戦い方を選択するなら前田大然(セルティック)か浅野拓磨(ボーフム)が先発だろうが、あえてボール保持率を上げながら積極的にチャンスを作りに行くという思惑なら、上田綺世(フェイエノールト)という選択肢も出てくるのではないか。
昨年11~12月時点の上田は、セルクル・ブルージュ入りからまだ4か月しか経過しておらず、欧州での試合経験や実績が少なかった。カタールで仕事らしい仕事ができなかったのも、経験不足によるところが大だろう。
しかし、その後、ベルギー1部でシーズン22ゴールをゲット。得点ランキング2位という上々の結果を残し、本人も大いに自信をつけた。ポジションも当初はサイドや2シャドーの一角がメインだったが、シーズン終盤は1トップでのプレー機会が増え、最前線のストライカーとして自信を大いに深めた。
欧州1年目での成功を引っ提げて今夏、オランダの名門フェイエノールトの一員となった上田。直近9月3日のユトレヒト戦で豪快な反転ゴールを決めたのだから、上昇気流に乗っているのは間違いない。
「W杯から半年以上経って、積み重ねてきたものもあるし、自分の中でも成長した部分って多くあると思う。点を取る感覚もそうだし、チームが変わって強度やプレースタイルだとかも進化できるので、当時とは違う感覚、違う心境でプレーできるのかなと思います」と彼自身、余裕を持ってピッチに立てる確信があるようだ。
「5大リーグのトップ・トップでやっている選手は大舞台でも違いを出せる」
だからこそ、ドイツ戦は自身の現在地を測る絶好機と言っていい。相手守備陣はアントニオ・リュティガー(レアル・マドリード)やニコ・シュロッターベック(ドルトムント)ら高さと強さを併せ持った屈強なDFの面々が並んでおり、上田が自由自在にボールを受けたり、シュートを打ちにいく余裕はなかなかないだろう。ただ、そういう世界最高レベルのディフェンス陣と対峙するからこそ、成長をしっかりと確認できるのだ。
10か月前の大舞台では、唯一ピッチに立ったコスタリカ戦で存在感を示せず、世界の高い壁に跳ね返された。苦い記憶を本人は決して忘れてはいないはずだ。
「カタールW杯で世界基準が分かったというよりは、(三笘)薫くんとか(堂安)律のように5大リーグのトップ・トップでやっている選手はあれだけの大舞台でも違いを出せるという部分に差を感じました。コスタリカ戦で何もできなかった僕がドイツやスペインの試合に出ていたら、一体何ができたのかという疑問もある。その差を埋めるためにも、自分のアップデートと日々、向き合っていくしかないと思います」
今年2月、セルクル・ブルージュでもがいていた上田は神妙な面持ちでこう語っていた。カタールでの挫折を糧に、「このままではいけない」と常に危機感を抱き、前進を続けた。その努力が実り、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)本戦出場に飛躍できた。フェイエノールトではまだ定位置をつかむには至っていないが、ユトレヒト戦のゴールを見れば、彼の潜在能力の高さがよく分かるだろう。今後は過密日程を踏まえると、出番は確実に増えていく。そこでブレイクするためにも、ドイツ戦で一気に浮上するしかない。
「カタールW杯の頃とは別の自分」をピッチ上で証明し、日本を勝利へと導くゴールを奪うこと。それができれば、上田は代表エースFWの座に大きく近づく。このビッグマッチを大きな飛躍の場にできれば理想的だ。
「ドイツとの対戦が日本代表の価値を示すチャンスになるというのはW杯の頃から言っていました。でも、僕もそうだけど、それぞれがステップアップして、今は5大リーグでプレーしている選手も多いので、そこに肩を並べていかないと、日本サッカーが目指しているところには届かない。強豪うんぬんではなく、自分たちがどのくらい通用するのか、どういう戦いができるのかというのが重要なのかなと思います」
上田はドイツと同じ目線で対等に戦う重要性を改めて強調した。今の彼ならきっとそれができるはず。日本の新エース候補筆頭FWの価値と能力を、今こそ世界に知らしめてもらいたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。