リバプール遠藤航は誰の後釜なのか? ファビーニョか、ミルナーか…クロップの真意を紐解く【コラム】
アンカー獲得失敗の緊急事態で白羽の矢が立った遠藤
リバプールにとっては、大刷新の夏となった。電撃加入のMF遠藤航は、日本だけでなく世界でも大きな話題を呼んだ。クラブに不在だった守備的アンカーの役割を託されることになるだろうが、実際のところ、遠藤は誰の後釜として見なされているのだろうか? すでに新天地デビュー、初先発を飾ったなかで、ユルゲン・クロップ監督の発言と起用法から、遠藤に対する指揮官の真意を探っていく。
昨季限りで契約満了となったMFジェームズ・ミルナーがブライトン(イングランド)、MFナビ・ケイタがブレーメン(ドイツ)、MFアレックス・オックスレイド=チェンバレンがベジクタシュ(トルコ)へと移籍。ここまでは世代交代の一環だったが、主力を務めていた主将MFジョーダン・ヘンダーソンがアル・イテファク(サウジアラビア)、MFファビーニョがアル・イテハド(サウジアラビア)に引き抜かれ、国家規模の資金力を誇るサウジアラビア勢の猛威に直面することに。在籍していた中盤5枚が開幕前に退団する緊急事態となった。
一方で、MFアレクシス・マック・アリスター(←ブライトン)とMFドミニク・ソボスライ(←ライプツィヒ/ドイツ)といった逸材の確保にも成功。インサイドハーフの補強は順調に進んでいたものの、手を焼いたのがアンカーの穴埋めだ。プレミアリーグ歴代最高額となる1億1000万ポンド(約202億円)でクラブ間合意したMFモイセス・カイセドに関しては、本人からリバプール加入を拒否されチェルシーへ譲り渡すことになり、また、長きにわたって交渉していたMFロメオ・ラヴィアもチェルシーとの争奪戦で敗れる格好となった。
そんななか、急転直下で白羽の矢が立ったのが遠藤だった。リバプールからのオファーを即決し、メディカルチェックを受け、正式加入が発表。打診から加入まで、わずか2日間の出来事だった。リバプールは若手選手の補強を方針としているなかで、30歳とベテランの選手に1600万ポンド(約30億円)を支払った一連の移籍劇は、クラブにとって特例であり、それだけ切羽詰まった状況に陥っていたことは確かだった。ブンデスリーガで確固たる実績を残してのプレミア挑戦となったが、カイセドとラヴィアの獲得失敗や年齢、イングランドでの認知度の低さも相まって、ファンからは懐疑的な意見も目立っていた。
それでも、加入翌日に行われた第2節ボーンマス戦(3-1)では後半17分に途中出場し、新天地デビューを果たすと、第3節ニューカッスル戦(2-1)では初先発を飾った。いずれの試合も退場者を出すことになり、数的不利な状況でのプレーを強いられたなかで守備に奮闘した。第4節アストン・ビラ戦(3-0)では後半42分からの途中出場。各試合とも現地メディアは遠藤に対して及第点を与えており、決して悪くはない船出を切っている。
遠藤が引き継ぐ役割はファビーニョ?ミルナー?
ここで焦点を当てるべきは、クロップが“誰の後釜として”遠藤を獲得したのかということだ。リバプールは昨季終盤からポゼッション時にDFトレント・アレクサンダー=アーノルドを偽サイドバックとしてボランチに配置する“アーノルドシステム”を採用している。アーノルドのパスセンスとキック精度を活かした戦術となっているが、ボールを奪われてカウンターを受ける際は、アーノルドが不在の右サイドのスペースを突かれることは必然で、失点を招くケースも少なくない。実際、ニューカッスル戦はアーノルドの不用意なボールロストから空いたスペースを突破されて先制点を許している。
そのため、“アーノルドシステム”を継続するうえで、圧倒的な守備能力を備えたアンカーの存在が不可欠だ。昨季まではファビーニョが持ち前のカバー能力で補填しており、遠藤に求められるのもファビーニョが担っていた役割であると考えるのが自然だ。実際、背番号もファビーニョが着用していた「3」を継承している。
また、リバプールが公式インスタグラムに動画でアップした遠藤とクロップの初めての交流シーンでも、「我々は君が必要だ。本当に必要なんだ。君の、両足、能力、頭脳、野心。我々は必要としていた」と、クロップは遠藤の加入を心から歓迎していた。また「我々は良いチームだし、準備はしてきたが、ちょっと攻撃的すぎてね」とも語りかけており、言葉にはしなかったが、「だから守備は任せたよ」という意味合いがそこに含まれていた。今リバプールが取り組んでいる戦術に、遠藤の守備能力が必要であるとクロップ自身が本人に強調していた。
ここまで見れば、遠藤がファビーニョの後釜であることに疑問の余地がないように見えるが、一概にそうとも言えない。クロップの遠藤加入時の記者会見を振り返ると、「私が就任して以降のクラブで最も偉大なレジェンドに数えられるジェームズ・ミルナーも、加入当時は29歳だった。ミルナーがいなければ、近年の成功を収めることはまずできなかっただろう。ワタルも同様のインパクトを残せると考えている」と発言していた。
会話の流れ上、あくまで年齢の話題でミルナーを引き合いに出したコメントであるはずだが、実際、ベンチスタートとなったアストン・ビラ戦で、試合終盤にクローザーとして投入された遠藤は、まさしくミルナーの役割だった。遠藤はアンカーだけでなく、最終ラインでのプレーも可能で、そういったマルチスキルも評価しての獲得だとすれば、ゆくゆくは、遠藤と同様に高いユーティリティー性を誇っていたミルナーの立場、もっと直接的な表現をするならば、利便性の良いスーパーサブの立場として扱う算段であるとも考えられる。
鍵となるのは新加入フラーフェンベルフの起用法
移籍市場のデッドラインで、リバプールはMFライアン・フラーフェンベルフを獲得した。バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)ではレギュラーの座を掴むには至らなかったが、アヤックス(オランダ)ではボックス・トゥ・ボックスの選手として、攻守にわたって質の高いパフォーマンスを発揮していた。決して守備職人ではないが、アーノルドやFWロベルト・フィルミーノ(アル・アハリ/サウジアラビア)を筆頭に、選手のコンバートを真骨頂とするクロップは、21歳の若きオランダ人MFをアンカーのスペシャリストに育て上げる心意気である可能性もないわけではない。
ニューカッスル戦の試合後の記者会見で、クロップは新加入のマック・アリスターとソボスライのプレーを絶賛した一方で、遠藤については「Endo has no clue on what we actually do」と指摘。意訳するならば、「遠藤は我々の戦術のコツをまだ掴んでいない」といった内容だが、あえて公の場でこういったコメントを残したのは「遠藤の適応にはまだ時間がかかる。即戦力として扱うのはまだ先の話だ」というような、ある種の“牽制”にも映った。同試合でアンカーを務めたマック・アリスターもゲームメーカーとしての強みを持つ選手ながら、守備面でもまずまずの出来だったため、しばらくはマック・アリスターのアンカー起用を見据えていても不思議ではない。
おそらく現時点では、守備的MF不在の緊急事態で“ファビーニョ役”をベテランの遠藤に務めてもらい、徐々にスーパーサブとして試合を締める“ミルナー役”へとシフトさせていくのがクロップの思惑ではないだろうか。ただし、マック・アリスターやフラーフェンベルフのアンカー適性をシーズンを通して見出せるとは限らない。そこで遠藤が、与えられた出場時間で安定したパフォーマンスを継続できれば、クロップのプランを良い意味で崩すことができるはずだ。
(城福達也 / Tatsuya Jofuku)