独ブンデスリーガ「新シーズン展望」 ケイン獲得バイエルンがV争いの軸も…上位戦線は混戦の可能性【コラム】
ドイツ1部リーグ「ブンデスリーガ」の2023-24シーズンを展望
欧州5大リーグの新シーズンが、いよいよ幕を開ける。「FOOTBALL ZONE」では、各リーグの始動に合わせて特集を展開するなかで、ここでは8月18日(現地時間)に開幕するドイツ1部リーグ「ブンデスリーガ」の2023-24シーズンを展望する。
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バイエルン・ミュンヘンが前人未到の11連覇を果たしたが、昨シーズンはボルシア・ドルトムントと同じ勝ち点71で、得失点差による優勝だった。しかも、3位のRBライプツィヒが勝ち点5差だったことを考えても、新シーズンはさらに激しい優勝争い、上位争いになることが期待される。
王者バイエルンは昨季途中から率いるトーマス・トゥヘル監督のもと、来日ツアーなどで着々とチームを強化してきた。しかし、シーズン最初のタイトルをかけたスーパーカップではライプツィヒに0-3の惨敗を喫した。ただ、そのライプツィヒ戦で早速、新加入のイングランド代表FWハリー・ケインが途中出場するなど収穫もあった。
最大の懸案事項だった前線にプレミアリーグで200ゴール超をマークした新エースを迎えたバイエルン。韓国代表DFキム・ミンジェを補強した最終ライン、MFジャマル・ムシアラなど、ドイツ代表クラスがずらりと揃う中盤、FWレロイ・サネやFWセルジュ・ニャブリを擁するサイドアタッカーと役者は揃っており、UEFAチャンピオンズリーグとの2冠を十分に狙える陣容を鬼才のトゥヘル監督がどう率いていくか。
ドルトムントは中盤の要だったイングランド代表MFジュード・ベリンガムがスペイン1部レアル・マドリードに移籍したが、1億300万ユーロ(約164億円)とも伝えられる売却益を使い、ヴォルフスブルクからドイツ代表MFフェリックス・ヌメチャを獲得。シーズン最初の公式戦となるDFBポカール(ドイツカップ)1回戦でヌメチャは出場しなかったが、ドイツ代表MFエムレ・ジャンとオーストリア代表MFマルセル・ザビッツァーが奮起を見せた。
ザビッツァーのゴールなどでTSVショット・マインツ相手に6-1の勝利に貢献するなど、チームが活性化している。そのポカールで2得点したコートジボワール代表の大型FWセバスティアン・ハラーは昨季の加入直後に精巣腫瘍が見つかり、闘病生活に打ち勝ってコンディションを上げてきており、4-2-3-1をベースとするエディン・テルジッチ監督のチームで、新エースとしての活躍が期待される。
堂安律を擁する昨季5位のフライブルク、さらなる躍進なるか
スペイン代表MFダニ・オルモのハットトリックで、バイエルンとのスーパーカップを3-0で制したライプツィヒは気鋭のマルコ・ローゼ監督が、ハイプレスからのショートカウンターという“レッドブル系”の戦術に磨きをかけており、個人というよりは組織力でバイエルンやドルトムントに挑んで行く。
そのなかでも課題である得点力のアップに向けて、フランス1部RCランスで大ブレイクしたベルギー代表FWロイス・オペンダがどこまでフィットして、ドイツ代表FWティモ・ヴェルナーと“Wエース”を組んで行けるかに悲願のブンデス制覇は懸かってきそうだ。ライプツィヒは開幕戦でいきなり昨季6位のレバークーゼンとの対戦になる。ブンデスリーガの上位争いを占ういきなりの大一番になりそうだ。
日本人選手が所属するクラブではMF堂安律を擁する昨季5位のフライブルクがさらなる躍進なるかが注目される。最終節で惜しくもUEFAチャンピオンズリーグ出場権を逃したが、UEFAヨーロッパリーグ出場というのもクラブにとって大きな出来事となる。ただし、国内外のコンペティションを回しながら、結果を出していける選手層であるかは未知数。DFBポカールのオーバーハーン戦で堂安は3-4-3の右サイドハーフを担った。戦術的にも体力的にも難しいポジションだが、異例の長期政権となるクリスティアン・シュトライヒ監督はボールをしっかり動かして崩す攻撃スタイルを掲げるだけに、大型FWルーカス・ヘーラーとのコンビを構築できれば、ゴールに関わる仕事も可能だろう。
昨季10位からのジャンプアップを目指すボルシアMGは7-0と大勝したDFBポカールのベルゼンブリュック戦で、MF板倉滉はボランチとして起用された。ただ、これはオプションのテスト的な意味合いが強く、途中出場したMFフロリアン・ノイハウスのコンディションに問題がなければ、アウクスブルクとの開幕戦では従来のセンターバックをオーストリア代表DFマキシミリアン・ヴェーバーと組むことが予想される。オフには移籍の噂もあった板倉だが、ドイツの名門にやってきて1シーズンを戦ったのみであり、腰を落ち着けて上位に押し上げ、ステップアップの道を探るのは悪くない選択だろう。攻撃面ではチェコの大型FWトマーシュ・チュバンチャラのゴール量産に期待が懸かる。
チェイス・アンリ、福田師王ら若き日本人プレーヤーの台頭にも期待
入れ替え戦になんとか勝利して1部に残留したシュツットガルトは、10番を背負う韓国代表MFチョン・ウヨンが中盤の鍵を握る1人。最終ラインでは、オランダの名門アヤックスからのラブコールが伝えられるDF伊藤洋輝が主軸の1人に。チームの不沈にも関わるだけに、クラブは移籍市場が閉じるまで慰留に努めるのではないか。DFBポカールのTSGバーリンゲン戦は4-0と完勝できたが、2度の監督交代があった昨シーズンと同じ轍を踏まないように、セバスティアン・ヘーネス監督が継続的にチームを構築していけるか。
シュツットガルトと同じく、昨季終盤まで残留争いを強いられたボーフムは、DFBポカールでMF水多海斗の所属する3部のビーレフェルトにPK戦で敗れてしまった。そんななかでFW浅野拓磨はゴールを記録。新シーズンはブンデスでもトップレベルの運動量で、トーマス・レッシュの戦術タスクを果たすだけでなく、目に見える結果をさらに残す活躍が期待される。195センチの大型FWフィリップ・ホフマンやガーナ代表FWクリストファー・アントウィ=アジェイと良好な関係を築き、2部ザンクト・パウリから加入のFWルーカス・ダシュナーなどから、ゴール前でラストパスを引き出せるか。
そのほか、MF鎌田大地がイタリア1部ラツィオに移籍したフランクフルトの“カイザー”MF長谷部誠、昨季は2部ビーレフェルトで5得点9アシストを記録し、アウクスブルクで新たなチャレンジとなるMF奥川雅也がブンデス1部に在籍。もちろん、現在はBチームが主戦場となるシュツットガルトDFチェイス・アンリやボルシアMGのFW福田師王がシーズン中にトップチームに絡んでくるような台頭にも期待しながら、ブンデスリーガの熱い戦いを観ていきたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。