南野拓実、フランスで復活の兆し W杯でサブ降格、PK失敗…「リベンジしたい」と誓った男に“突如吹いた”追い風【コラム】
不運の連続だった昨シーズンを経て、モナコの新シーズンで上々のスタート
8月中旬に入り、欧州主要リーグの2023-24シーズンが続々と開幕している。
昨季はパリ・サンジェルマン(PSG)が辛くも頂点に立ったフランスリーグも11日から戦いが始まり、スタッド・ランスの伊東純也が早速、初ゴールをゲット。同クラブに加入した中村敬斗も新天地デビューを果たしており、日本人選手の動向が気になるところだ。
同リーグで2シーズン目を迎えた南野拓実(ASモナコ)も上々のスタートを切っている。13日のクレルモン戦で3-4-2-1の右シャドーで先発した背番号18は前半26分、バンデルソンの同点弾を巧みにアシスト。さらに後半25分のウィサム・ベン・イェデルの3点目の起点になった。
このシーンではベン・イェデルの縦パスを受けた瞬間、素早い反転を見せ、左足でシュート。それを右から走り込んできたバンデルソンが詰め、ベン・イェデルが押し込んだ格好だった。
南野のゴール前での鋭い動きには対戦相手も観衆も度肝を抜かれたはずだ。これが決勝弾となり、モナコは4-2で勝利。幸先の良い一歩を踏み出すことになった。オーストリア1部ザルツブルク時代の恩師、アドルフ・ヒュッター監督就任で南野は復活への狼煙を上げたと言っていいだろう。
日本代表10番を背負っていた男にとって、2022-23シーズンは不運の連続だった。
2022年カタール・ワールドカップ(W杯)を半年後に控えた昨夏、南野はコンスタントな出場機会を求めてイングランド1部リバプールからモナコへ移籍。万全の状態を取り戻して自身初の夢舞台であるカタールに向かう腹積もりだった。
しかし、昨季のモナコ指揮官であるフィリップ・クレマン監督のフィジカル重視の練習に戸惑い、シーズン序盤から出遅れを強いられた。
「タキは夏に加入したばかりで、練習強度に慣れるまで時間がかかったが、徐々にフレッシュな状態になってきている」と指揮官もフランス初ゴールを奪った9月18日のスタッド・ランス戦後にポジティブな見解を示していたが、その後も序列が上がらなかった。ベン・イェデル、ブレール・エンボロ、アレクサンドル・ゴロビンら世界的なアタッカー陣がひしめくなか、南野は高い壁にぶつかったのである。
結局、モナコで満足に思うように試合に出られなかったことがW杯にも響いてしまう。日本代表の全4試合で、南野がピッチに立ったのはドイツ戦、コロンビア戦、クロアチア戦の途中から。ドイツ戦では堂安律(フライブルク)との2シャドーで輝きを放ち、堂安の同点弾をお膳立てしたが、クロアチア戦では最初のPKキッカーに名乗りを挙げながら失敗。悔しさばかりが残る結末となってしまった。
「W杯に最高の状態で来たかったけど、それは自分の実力不足もある。常にチャレンジし続けたし、リバプールもモナコも自分の中では最高の決断だったので、後悔はないですね」と本人は毅然と言い切ったが、念願だった大舞台で輝くという長年の夢を叶えられなかったのも確かだ。
ザルツブルク時代の恩師と再会、再ブレイクに大きな期待
2023年に入ってからもモナコでの停滞は続き、3月に発足した新生・森保ジャパンからも落選。2020年から背負っていた10番を6月からは堂安に明け渡す格好になった。
この事実に対して南野は何もコメントしていないが、「個人的には絶対に4年後の(2026年北中米)W杯でリベンジしたいと思ってますし、絶対に選手としてレベルアップしてこの場に帰ってきたいと思ってます」とカタールで宣言した以上、悔しさを感じないはずがない。このまま終わるわけにはいかないと闘志を燃やしたに違いない。
セレッソ大阪のアカデミー時代から「拓実ほどの負けず嫌いは見たことがない」と周囲に言われてきた男がこのまま表舞台から消え去るなどというのは、本人も周囲も決して許せないこと。「必ず復活してやる」と力を蓄えていたはずだ。
そんなタイミングで、モナコにかつての恩師がやってきた。ヒュッター監督は南野が2015年1月にザルツブルクに赴いた時の指揮官で、当時からアタッカーとしての才能を高く買っていた。その後、指揮を執ったスイス1部ヤングボーイズで久保裕也(シンシナティ)、ドイツ1部フランクフルトで長谷部誠、鎌田大地(ラツィオ)と共闘。技術レベルが高く勤勉でハードワークを辞さない日本人選手の特性をよく理解しているはずだ。そこは南野にとっての追い風にほかならなかった。
フィジカル色の強いフランスでは、身体の線が細い日本人選手を軽視する監督がいないとも限らない。昨季ストラスブールで半年間プレーした鈴木唯人(ブロンビー)もそういった評価を受け、わずか3試合しか出番を与えてもらえなかった。
「欧州では監督との出会いですべてが変わる」と松井大輔(Y.S.C.C.横浜)ら欧州経験者が口を揃えているが、まさに南野もそうなのだ。
カタールW杯イヤーに不遇の時を味わったのは本当に悔やまれるが、28歳の点取り屋にはまだまだ未来がある。日本代表の森保監督も南野の可能性を完全に見限ったわけではないはずだし、結果を出し続けていれば、必ずまたチャンスを与えるだろう。
直近の9月に行われるドイツ代表戦(ヴォルフスブルク/ドイツ)、トルコ代表戦(ゲンク/ベルギー)2連戦での復帰もないとは言い切れない。そうなるように南野には快進撃を見せてほしいもの。8月のストラスブール、ナント戦でゴールを奪い、強烈なインパクトを残すことが代表復帰への第一歩。今季は南野の再ブレイクに大きな期待を寄せたいものである。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。