なでしこジャパンのピークは近未来 健在なサイクルと痺れる戦いで「世界一」に肉薄する予感【コラム】

なでしこジャパンは準々決勝で敗退【写真:ロイター】
なでしこジャパンは準々決勝で敗退【写真:ロイター】

通用する武器を見極め、ぶれずにチームの最大値を引き出したのは池田監督の功績

 なでしこジャパンが、東京五輪に続いてスウェーデンにベスト4への道を閉ざされた。

 スウェーデンとの力関係だけに焦点を当てれば、むしろ広がった可能性もある。2年前のスウェーデンは、直線的にロングボールを放り込み、開始早々に先制すると次々に日本を窮地に陥れた。だがその分、守備に回れば隙もあり、日本は前半のうちに長谷川唯の絶妙なクロスに田中美南が合わせて追い付き、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で取り消されたが1度はPKの判定も得た。

 それに対し今回のワールドカップ(W杯)のスウェーデンは、ポゼッションや前線からミドルゾーンでの守備に格段の進歩を遂げ、圧倒的にゲームを支配して前半は日本に1本もシュートを打たせなかった。

 日本はグループリーグからの4戦を通して、対戦相手に応じて柔軟に戦い方を変えていくパフォーマンスが大きな称賛を引き出した。しかし高さやフィジカルに依存気味だったスウェーデンも技術的に見違える進化を見せ、攻守の切り替えやデュエルも含めて完全にコントロールしてしまった。

 最終的に日本にはPK失敗や藤野あおばのFKがクロスバーを叩くなど終盤にビッグチャンスが連なったので不運だったイメージも残るが、裏返せばやはりフルパワー同士の戦いには課題が残った。

 池田太監督の功績は、あくまで個々の国際レベルで通用する武器を見極め、ぶれずにチームとしての最大値を引き出したことだろう。さらにW杯本大会では、入念に対戦相手の分析を行い、適切な戦術を提示したので選手たちから迷いが消えた。

 例えば宮澤ひなたは、大会直前のパナマ戦ではハットトリックが可能なほどのチャンスに遭遇しながらことごとく外した。足もとの技術も判断力も十分に備えた選手だが、的確にボールをミートしてパンチ力を引き出す能力には難があった。しかし指揮官は、同じ試合で左サイドをえぐってゴールを演出したスピードのほうを買って本大会でも重用し続けた。

一新された攻撃的なイメージ、5試合で15ゴールは歴代なでしこジャパンのW杯最多

 また、なでしこジャパンでは伝統的に左サイドバック(SB)の人材発掘に苦慮してきた。池田監督が3バックに踏み切った理由の1つだろうが、一方でフリーで受ければ左足のキックが魅力の遠藤純をウイングバックで起用し高い位置での起点とした。藤野あおばが急成長を遂げた右サイドは、清水梨紗や長谷川が絡んでチャンスを築けていたが、左サイドでも遠藤と宮澤との連係が機能して攻撃の幅が広がった。さらにボランチは長谷川と長野風花でほぼ固定し、長谷川が攻撃のタクトを取る際の長野のバランス取りも絶妙だった。

 5試合で15ゴールは歴代なでしこジャパンのW杯では最多。優勝した2011年大会でも6試合で12ゴール、準優勝した2015年大会は7試合で11ゴールと粘り勝ってきた印象が強いので、一新された攻撃的なイメージこそが新たな人気を集めた。

 近年女子サッカーは、急速に底上げが進みつつあるので8強の力は紙一重だ。今回はスペインに快勝してグループリーグを首位通過したために、最も勝ち難いチームと対戦する皮肉な巡り合わせになったかもしれないが、重要なのはこのレベルで痺れるような戦いを繰り返すことだ。

 またおそらく池田監督の采配を見ても、なでしこのピークは近未来に来ると考えているはずだ。それは調子が上がらないとはいえ経験豊富な岩渕真奈を土壇場で外し、最後のスウェーデン戦では、とてもコンディションが整っているとは思えない浜野まいかを送り出した決断などからも透けて見える。

 フルパワー同士で凌ぎを削る前半から勝負できるチームを作るには、まだまだ普及活動も含めて時間がかかる。だが長谷川―藤野の世代を超えた両輪が健在な5年間程度のサイクルで考えれば、五輪、W杯のどちらかで世界一に肉薄する時が訪れそうな予感がある。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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