なでしこジャパン、W杯4強進出へ有利?不利? スウェーデンは役者揃い…絶対に避けたい最悪の展開とは【コラム】
女子W杯ベスト4進出を懸けた準々決勝スウェーデン戦を展望
女子ワールドカップもいよいよベスト4進出を懸けた準々決勝を迎える。躍進を続けるなでしこジャパンの前に、8強で立ちはだかるのがスウェーデンだ。高倉麻子前監督が率いた2年前の東京五輪では1-3で敗れており、結果以上に力の差を痛感させられた相手でもある。
スウェーデンのペーター・イエルハルドソン監督は当時の勝因について、日本が13本から15本のパスをつないでゴールに迫ってくるところを5、6本のところで寸断できたことを振り返り、攻守のトランジションをアメリカ戦よりも引き上げて、ボールを奪いに行く守備をしたいということを語っていた。
なでしこジャパンは2年前からは明らかに戦略性も、柔軟性も進化しており、スウェーデンにとってもかなり手強い相手になるはずだろう。大手ブックメーカーなど、試合前は日本有利と見る報道も目立つ。
しかしながら、度重なるビッグセーブとPK戦の活躍で、アメリカ撃破の立役者となった守護神のゼチラ・ムショビッチ(チェルシー)が「本当に私たちにとってタフだった」と振り返るアメリカ戦は大きな試練であり、そこを乗り越えたチームの勝負強さには一段と警戒する必要がある。
イエルハルドソン監督はアメリカ戦の前から選手たちの多くが、欧州女子チャンピオンズリーグや英国女子スーパーリーグの優勝が懸かった大一番など、多くのビッグマッチを踏破してきた経験を強みとして語っていた。そこに3連覇を目指していたアメリカに、PK戦ながら勝利した自信が加わったのだから、当然そこは警戒するべきだろう。
ただ、そもそもなでしこジャパンにとって、この準々決勝が山場になることは大会前から予想できたことだ。FIFAランキング11位の日本にとってシングルランクの国との対戦はチャレンジになるが、この準々決勝で前回大会3位のスウェーデン、前回準優勝のオランダのどこかを破らなければ、先に進むことができない。言い換えれば、ここを突破すればスペインとの再戦の可能性もある準決勝、フランスやイングランド、開催国オーストラリアが勝ち残っている反対側との最終決戦となるファイナルまで視界が開けてくる。
フィニッシュの迫力はノルウェーを凌駕、高さを生かした攻撃は要警戒
スウェーデンは正確なビルドアップと前線の個人能力を兼ね備えている。ラウンド16で対戦したノルウェーも個の力は非常に高かったが、日本の攻撃にラインが下がりがちだった分、攻撃の厚みはそれほどでもなく、ロングボールを跳ね返して、セカンドボールを拾えれば対応できた。スウェーデンの場合は最終ラインからのつなぎも正確でしっかりしており、中央から右サイドは流れの中でポジションチェンジもしてくる。
危険なのは司令塔のMFコソヴァレ・アスラニ(ACミラン)がボールを持って前を向いた時で、右のMFヨハンナ・リッティン・カネリド(チェルシー)やUEFA女子チャンピオンズリーグ決勝ゴーラーでもある178センチのMFフリードリナ・ロルフォ(FCバルセロナ)がゴール前に飛び込んでくるフィニッシュの迫力はノルウェーを上回るものがある。
そうした攻撃を何とか切り抜けたとしても、スウェーデン側のセットプレーになった場合はセンターバックながら大会3得点のDFアマンダ・イレステット(アーセナル)など、高さで日本を大きく上回る選手たちがゴール前に並んでくるうえに、左足キッカーであるDFヨンナ・アンデション(ハンマルビー)は正確にニアストーンの裏側にボールを落として、イレステットやロルフォの高さを生かしてくる。
ゴール前で抜け目ない動きをしてくる174センチのFWスティーナ・ブラックステニウス(アーセナル)を含めて、セットプレーでボックス内に入ってくる選手たちとの1つ1つのマッチアップで5センチ以上の差がある。グループリーグでスウェーデンが5-0と大勝したイタリア戦では、序盤こそ相手の果敢なサイドアタックに苦しんだが、コーナーキック(CK)のチャンスからゴールをこじ開けると、さらにセットプレーから立て続けにゴールを奪ってゲームを引き寄せてしまった。
おそらくセットプレーに関してはなでしこジャパンがいくら対策しても、キックとターゲットがピンポイントで合ってしまえば、防ぐのは不可能に近い。大事なのはできるだけ、高い位置のフリーキックやCKの回数を減らすこと、そして連続でそうしたチャンスを作らせないことだ。
鍵になり得る日本の交代カード、一夜にしてシンデレラガールになり得る可能性も
スウェーデンはスターターだけでなく、5枚の交代枠も百戦錬磨のMFカロリーネ・セゲル(FCローゼンゴード)やアルゼンチン戦で先制ゴールを決めたFWレベチャ・ブロムクビスト(ヴォルフスブルク)、大会2アシストの10番FWソフィア・ヤコブソン(サンディエゴ・ウェーブ)、そしてアメリカ戦の“伝説の1ミリ”でシンデレラガールとなった180センチのFWリナ・フルティグ(アーセナル)と役者は揃っている。
日本がリードして終盤を迎えたとしても、最後まで気を抜けない戦いが予想されるが、逆に日本の交代カードが勝負の鍵になるかもしれない。ここまで途中出場が続くMF清家貴子(三菱重工浦和レッズレディース)は、WEリーグのMVPで2011年のなでしこ優勝メンバーでもある同僚のDF安藤梢から「最後に美味しいところを持っていけばいい」と激励されているという。
さらに、負傷明けでフィールド選手では唯一出場していないFW浜野まいか(ハンマルビー)やザンビア戦の後半アディショナルタイムにしか出ていないFW千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉)など、一夜にしてシンデレラガールになり得る候補は日本にもいる。
ここまで5得点、3度のPOM(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)に輝くなど、大会MVPの有力候補にもあがるMF宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)などの活躍はもちろん、こうした選手たちの活躍が、ここから先の勝利に導くかもしれない。とにかく決して見逃せない大一番だ。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。