Jリーグのシーズン中「移籍問題」 エース級の玉突きで市場活性化もリーグの魅力棄損の難事【コラム】

今夏の移籍市場で活躍の場を移した選手たち【写真:徳原隆元 & Getty Images】
今夏の移籍市場で活躍の場を移した選手たち【写真:徳原隆元 & Getty Images】

中東への移籍を発端としたJリーグの玉突き移籍が起こりやすくなる

 J1リーグが再開されるまでの短い中断期間に大きな動きがあった。優勝争いをしている名古屋グランパスのエースだったマテウス・カストロがサウジアラビアのアル・タアーウンFCへ移籍した。そして名古屋はすかさずサンフレッチェ広島から森島司を獲得している。広島はそれ以前にセレッソ大阪から加藤陸次樹を補強した。

 時系列は加藤の移籍が最初だが、アル・タアーウン、名古屋、広島、C大阪の4チーム間で一気にエース級が動いたことになる。こうした玉突き型の移籍は欧州ではよくあることで、一番大きな案件の移籍金が大きくなるに従って影響も大きくなる。

 サウジアラビアリーグは欧州のスター選手を獲得しまくっていて、すでに移籍していたクリスティアーノ・ロナウドに続いてカリム・ベンゼマ、エンゴロ・カンテなど、ビッグネームが移籍。ネイマール、キリアン・ムバッペにも噂があり、オファーを断ってメジャーリーグサッカー(MLS)に行ったリオネル・メッシも含めて、有名選手へ手あたり次第にオファーを出している印象だ。

 もちろん背景には莫大な資金力がある。派手な補強をしているのは4チーム(アル・ナスル、アル・イテハド、アル・アハリ、アル・ヒラル)で金の出どころは一緒。いわば国策的に行われている未曾有の補強なのだが、そこに含まれていないアル・タアーウンはコスパ重視でマテウスを獲ったのだろう。例えば、移籍金の金額が10倍違うとしても、その選手に10倍の能力があるわけではない。Jリーグで実績のあるマテウスは世界的に有名な選手ではないが実力は十分と判断したに違いない。

 これまでもJリーグからUAEやカタールへ移籍した例はあるが、サウジアラビアが参入してきたことで移籍金額が高騰する可能性がある。つまり、中東への移籍を発端としたJリーグの玉突き移籍が起こりやすくなるわけだ。移籍の連鎖は市場の活性化という意味で悪いことではなく、大型案件で発生した移籍金がJ2やJ3まで流れ込む可能性もあるので、経営的にはむしろありがたいかもしれない。

問題はシーズン中に起きる移籍、なんらかの対策が必要

 ただ、問題はこれがシーズン中に起きてしまうことだ。さらに欧州移籍の流れもある。

 湘南ベルマーレはエースストライカーの町野修斗がドイツ2部のホルシュタイン・キールへ移籍。横浜FCの小川航基はオランダのNECナイメヘンへ。降格危機の2チームの中で、それぞれの大エースがシーズン中に抜けてしまった。北海道コンサドーレ札幌の攻撃の核だった金子拓郎もNKザグレブ(クロアチア)へ移籍している。

 優勝争いをしているチームからエースが抜け、順位の近いチーム間で主力が移動する、あるいはJリーグそのものからいなくなる。Jリーグの魅力を棄損する問題だろう。シーズンを欧州や中東に合わせれば少なくともシーズン中の移動は減るが、日本での冬開催は積雪の大問題があって実行に移すのは困難な状況である。

 一方、去る者がいれば来る者もある。欧州から中島翔哉、安部裕葵が戻ってきた(浦和レッズ)。前田直輝(名古屋)、鈴木唯人(清水エスパルス)も逆輸入された。

 再開された第22節では横浜FCが首位のヴィッセル神戸を破り、名古屋、湘南も勝利。主力を引き抜かれたチームが意地を見せてくれた。だが、シーズン中の大きな人の移動は避けたほうがいいことに変わりなく、なんらかの対策は必要だろう。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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